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VAR神判

審判の疑惑判定を巡る議論がパリオリンピックで次々と巻き起こっている。中でもサッカー日本vsスペイン準々決勝は騒然となった。アジア王者として予選リーグを3連勝で通過し、グループ首位で決勝トーナメントに臨んだ日本と強豪スペインの一戦は0-3で日本の完敗に終わったが、日本の同点ゴールが「VAR(video assistant referee)」判定で取り消されるという”神判?“が下っていた。
開始11分で先制された日本は、前半40分に細谷が前線で相手DFを背負ってパスを受け、振り向きざまに見事なシュートを決めて1-1に追いついた。ところがこのシーンを「VAR神判」はオフサイドとした。スペイン応援一色でアウェー感満載のスタジアムも細谷のシュートを受け入れていたため、スタジアムからはブーイングが起きる始末だった。スペイン側から見ても日本の完璧なゴールだったのだ。
2022年サッカーワールドカップ・カタール大会でも「AI審判」とも呼ばれる「VAR」が用いられ、FIFA(国際サッカー連盟)は半自動オフサイド判定技術によるAI審判制度の導入など、サッカーでテクノロジーの可能性を最大限活用すると公言している。しかもこれは大相撲でいうところの「物言い」後のビデオ判定ではなく、試合中の「ゴールに至るまでのオフェンス」「罰則の決定に至るまでの違反」「レッドカード事案」「間違った主張」といった勝負の流れを左右する4つの状況下で、VARが自動的にレフリーをチェックするシステムなのだそうだ。VARは「審判の審判=神!」かのようだ。
1986年にVARがあったらディエゴ・マラドーナはアルゼンチンの英雄になっていなかっただろう。この年のW杯メキシコ大会はフォークランド紛争後のイングランドvsアルゼンチンが激突した。若きマラドーナは疑惑の「神の手ゴール」の後、60メートル「5人抜きのスーパーゴール」を決め、イングランドを撃破して一躍世界のスーパースターに成り上がった。それは「観客を味方につけた方が勝ち」とすら言わしめるものだった。サッカーでは審判を欺く行為、特に南米で「マリーシア」と呼ぶこの手のトリッキーなプレーはエキサイティングな試合には付きものだとしている。マリーシアの可能性を完全排除する現代のAI審判「VAR」は冷徹だ。人間の主観を排除し「公平」だがサッカーから確実に「情熱」を奪っている。
情熱的に双方がぶつかり合うからこそ、サッカーは時として世界紛争の「代理戦争」の役割を担ってきたのではないだろうか。

| 24.08.09

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