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はて?

4月から始まったNHK朝の連続テレビ小説(朝ドラ)の「虎に翼」が若い女性に異例の人気らしい。
女の幸せは結婚しかないと考えられていた昭和初期に、最初の女性弁護士のひとりとして活躍した三淵嘉子(1914~1984)をモデルに、伊藤沙莉演じるヒロイン猪爪寅子(いのつめともこ)の闘志と決意に満ちあふれた生き様が描かれる。
そしてドラマ中の寅子のことばがめちゃくちゃ良い。男社会の理不尽など納得できないことに対し、寅子は「はて?」と割込み豊富な語彙で理路整然と論破する。その姿は実に切れ味よく頼もしい。的外れな意見やよくある論点ずらしも容赦なく指摘し反論する。「はて?」はドラマを象徴する重要なセリフとなった。
もう一つ「スンッ」ということばがある。自己主張せず本心を悟られないように愛想笑いで無になってやり過ごす様の表現だ。女性蔑視の言葉を聞いた後の寅子の母“はる”の娘へのセリフもかっこいい。「この新しい昭和の時代に自分の娘にはスンッとしてほしくない!」と言い放つのだ。
朝ドラが盛り上がる中、7月7日に東京都知事選が異例の立候補乱立56人の中行われた。結果は現職の小池百合子氏(71)が291万超の票を得て3選を果たし、ほぼ無名だった前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏(41)が予想を遥かに上回る165万票超えで次点に入った。投票率は60.62%で、前回2020年の55.00%を5.62ポイント上回っている。
この結果を受け、石丸氏はニコニコニュースのインタビューで「無党派層の取り込みは、今までよく分からなかったものが可視化されただけで、自然な結果」と答えた。正に朝ドラの寅子の名セリフ「はて?」を小池都政にぶつけ無党派層の受け皿になったのか。「虎に翼」の時代には、寅子たち先人の「はて?」が現在では当たり前になった「権利や安全」を勝ち取ってくれたと言える。
時代は変わって、今や都民の半数が無党派層と言われる。今回、石丸氏が手段として使ったSNSは選挙で大きな可能性を示したことになる。既存の政見放送やポスターが無効化する一方で、無所属、組織票無しの石丸氏が既存勢力に「はて?」と立ちはだかる姿が無党派層に刺さったのだろう。
世界が選挙イヤーの今年、民主主義先進国の欧米では国民の信無き内閣は意味無し、と勇気ある解散が目立っている。世界が分断されかけている中、「スンッ」と信を問うことを濁してきた日本の政権与党に対し、「はて?」と疑問や主張を、無党派層が突き付ける時が到来した。

| 24.07.12

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