平年並み
日本の天気予報で「平年並み」という言葉をよく使うが、この「平年」とは一体何なのだろうか?
気象庁は、今年は梅雨前線の北上が平年に比べて大幅に遅れて関東甲信などが記録的に遅い梅雨入りとなったが、梅雨明けは7月中旬以降で各地とも「平年並み」、との予想を発表した。地球温暖化の影響による気候変動で、「数十年或いは百年に一度」と言われるような異常気象が国内でも珍しくなくなってきている。そうした中で「平年並み」という言葉を使うと国民に誤った印象を与え、予想される災害から身を守ることを遅らせることになりかねない。今や百害あって一利なしなのだ。しかし、なぜか日本人はこの言葉を好み「平年並み」であることに安心する人が多いのも事実だ。
「平年並み」とは平均的な値であることを表す。非常に漠然とした表現ながら、気象庁は過去30年のデータの平均値を10年ごとにアップデートしている。直近では1991年から2020年までの平年値が2021年5月19日から採用されている。それによると新平年値は10年前の平年値と比べ全国的に気温で0.1‐0.5度高く、降水量で10%程度多くなっているという。
その結果、近年続発する線状降水帯を含む「危険な雨」の発生頻度が、過去45年間で倍増しているそうだ。地球温暖化による日本周辺の海水温の上昇が空気中の水分含有率を上げているのだ。こうした異常事態下にあることを気象庁やTV局、自治体も強く意識する必要があるだろう。
それまで起こったことのない異常値の連続が「平年」になりつつある今、雨の降り方の変化を「平年」との比較で表す時代は去ったと言える。にもかかわらず「平年並み」を敢えて使うのは、国民に対して異常気象であっても「未だコントロールできる範囲なので動揺する必要はない」というメッセージを込めているかのようだ。
これは先の大戦の大本営発表を例に引くまでもなく、東日本大震災時の福島第一原発で燃料デブリがリアクターを突き破り地中に達した事態にあっても、「原子炉は完全にコントロール下にある」と発表した首相がいたことを想起させる。
安心させるためだけの「平年並み」は、来るべき新しい状況への判断力を鈍らせ準備を遅らせることになる。情報化が急速に進む今、現在進行形で世界が日々直面する異常気象の惨状をしっかりと伝え、それぞれの住む場所で今後何が起こり得るのかを、自治体そして個人が考え対策を練るように仕向けるのが政府の役割であろう。
「平年並み」で安心する日本人を率先してやめる時が来ている。
| 24.07.05