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星条旗

アメリカ合衆国の国旗は「星条旗」(the Stars and Stripes または the Star-Spangled Banner)と呼ばれる。独立当初の13の入植地を表す横縞、四角に区切った左上部(canton)青地に現在の州の数を表す50の白い星から構成されている。白はpurity(純粋)とinnocence(純潔)、赤はhardiness(たくましさ)とvalor(勇気)、青はvigilance(戒心)とperseverance(忍耐)とjustice(正義)を表すとされる。
現在の「星条旗」は、1959年8月にハワイが米国の州に昇格し50州になったことをうけて、翌60年7月4日の独立記念日に更新された。1776年の独立宣言以降26回に亘って州が増える度に更新されてきたことになる。
米国の戦争記念碑のモチーフには「星条旗」が欠かせない。ヨーロッパで犠牲者がモチーフになっているケースが多いのとは対照的だ。アメリカで最も愛されている第2次大戦の戦争記念碑は、アーリントン国立墓地の一角にある海兵隊戦争記念碑だろう。モチーフは1945年に硫黄島の摺鉢山山頂に星条旗を立てた米海兵隊の兵士たちだ。報道写真家ジョー・ローゼンタールが撮影した有名な写真をベースに造られたものだが、象徴的なのは現場で星条旗を支えていた旗竿が実は旧日本軍の野戦基地で使われていた水道管だったことだ。
そして今、トランプ前米大統領が銃撃された直後、星条旗を背景に血を流しながらも拳を突き上げ「ファイト!」と叫ぶ彼の姿を撮影した米AP通信の写真(エヴァン・ブッチ撮影)は、硫黄島の星条旗を想起させ、さらに「強い米国」を自由の女神像に重ねる一枚ともなった。この一枚の写真がイデオロギーを超え、米国の求心力になってしまいそうで気になる。米国人は幼い時から「忠誠の誓い(The Pledge of Allegiance)」を教え込まれ、「星条旗」の下に国民としての一体感を持つ努力が植え付けられているように感じるのだ。
一方日本では“日の丸”掲揚を見かけることが少なくなった。戦争を放棄して1世紀近く経ち、建国や進軍のシンボルがいらなくなったことに関連するのかもしれない。1999年に「国旗・国歌法」が施行されて学校や役所での掲揚が当たり前になっても、米国に比べればおとなしいものである。
日本は米国の盲目的同盟国であるが故に「51番目の州」「属国」などと揶揄されている。今も「星条旗」を支える旗竿になることを買って出ているのだとしたら、心配だ。

| 24.07.26

ちあきなおみ

昭和歌謡が盛り上がりを見せているが、中でも「ちあきなおみ」は特別な存在だ。活動休止中にもかかわらずCDの売り上げが破格で、リリースされてきた復刻盤やベスト盤、BOXセットはいずれも好セールスを記録しているそうだ。2019年4月に発売されたコンセプトアルバム『微吟』は36年ぶりのオリコントップ40入りを果たし、日本レコード大賞の企画賞を受賞、ロングセラーとなっている。
さらに2022年10 月に発売された令和初アルバム『残映』が発売から1週間余りで、31日付オリコンの週間ランキング演歌・歌謡曲部門1位を獲得。前作『微吟』も2位にランクイン、と30年前に活動を休止した歌手には異例の1、2位独占だ。
今年デビュー55周年を迎えた元歌手「ちあきなおみ」の全シングルおよび全アルバムの楽曲300曲以上が、デビュー日である6月10日に音楽ストリーミングサービスやiTunes Store、レコチョク、moreなど主要ダウンロードサービスでデジタル配信され若い世代からも注目を集めたことで、改めて『喝采』がそれぞれのランキングで見事1位に輝いている。
音楽が多様化し、圧倒的な声量やリズム感を備えた多くのシンガーが活躍する今でも、緩急自在のハスキーボイスで情景と心情を繊細に表現する「ちあきなおみ」の存在は別格だ。驚くべきことに今も新しいファンを獲得し続けているのだ。
膨大な音楽が定額でいつでもどこでも聴き放題という環境に慣れ親しんでいるサブスクユーザーは、平均で 1時間あたり 14.65回楽曲をスキップすると言われ、最新のサブスクヒット曲はイントロなしの楽曲が多い。そうした中で平均イントロ20秒の昭和歌謡が、“Z世代”と呼ばれる10代から20代前半の若者たちにも浸透するのはなぜだろう。
人間の普遍的な心情をテーマに、詞と曲が一体となって情景を描き出す昭和歌謡の魅力がサブスクの聴き方まで変えているかのようだ。特に「ちあきなおみ」が繰り広げる歌のドラマがSNSを通じて日々共有・拡散され、楽曲のみならず歌い手の歌唱力や表現力への評価が再び高まっていることは見逃せない。
それにしても “30年前の自分”が時代遅れにならず、今でもアバター的に世代を超えた人々を魅了し続けるとは、その類まれなる実力のおかげとは言え生涯現役で頑張り続けようとする人達にとって目標だ。
メタバースに自分の分身を残し、未来のビジネスの中で稼ぐことをイメージするのは実に楽しい!

| 24.07.19

はて?

4月から始まったNHK朝の連続テレビ小説(朝ドラ)の「虎に翼」が若い女性に異例の人気らしい。
女の幸せは結婚しかないと考えられていた昭和初期に、最初の女性弁護士のひとりとして活躍した三淵嘉子(1914~1984)をモデルに、伊藤沙莉演じるヒロイン猪爪寅子(いのつめともこ)の闘志と決意に満ちあふれた生き様が描かれる。
そしてドラマ中の寅子のことばがめちゃくちゃ良い。男社会の理不尽など納得できないことに対し、寅子は「はて?」と割込み豊富な語彙で理路整然と論破する。その姿は実に切れ味よく頼もしい。的外れな意見やよくある論点ずらしも容赦なく指摘し反論する。「はて?」はドラマを象徴する重要なセリフとなった。
もう一つ「スンッ」ということばがある。自己主張せず本心を悟られないように愛想笑いで無になってやり過ごす様の表現だ。女性蔑視の言葉を聞いた後の寅子の母“はる”の娘へのセリフもかっこいい。「この新しい昭和の時代に自分の娘にはスンッとしてほしくない!」と言い放つのだ。
朝ドラが盛り上がる中、7月7日に東京都知事選が異例の立候補乱立56人の中行われた。結果は現職の小池百合子氏(71)が291万超の票を得て3選を果たし、ほぼ無名だった前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏(41)が予想を遥かに上回る165万票超えで次点に入った。投票率は60.62%で、前回2020年の55.00%を5.62ポイント上回っている。
この結果を受け、石丸氏はニコニコニュースのインタビューで「無党派層の取り込みは、今までよく分からなかったものが可視化されただけで、自然な結果」と答えた。正に朝ドラの寅子の名セリフ「はて?」を小池都政にぶつけ無党派層の受け皿になったのか。「虎に翼」の時代には、寅子たち先人の「はて?」が現在では当たり前になった「権利や安全」を勝ち取ってくれたと言える。
時代は変わって、今や都民の半数が無党派層と言われる。今回、石丸氏が手段として使ったSNSは選挙で大きな可能性を示したことになる。既存の政見放送やポスターが無効化する一方で、無所属、組織票無しの石丸氏が既存勢力に「はて?」と立ちはだかる姿が無党派層に刺さったのだろう。
世界が選挙イヤーの今年、民主主義先進国の欧米では国民の信無き内閣は意味無し、と勇気ある解散が目立っている。世界が分断されかけている中、「スンッ」と信を問うことを濁してきた日本の政権与党に対し、「はて?」と疑問や主張を、無党派層が突き付ける時が到来した。

| 24.07.12

平年並み

日本の天気予報で「平年並み」という言葉をよく使うが、この「平年」とは一体何なのだろうか?
気象庁は、今年は梅雨前線の北上が平年に比べて大幅に遅れて関東甲信などが記録的に遅い梅雨入りとなったが、梅雨明けは7月中旬以降で各地とも「平年並み」、との予想を発表した。地球温暖化の影響による気候変動で、「数十年或いは百年に一度」と言われるような異常気象が国内でも珍しくなくなってきている。そうした中で「平年並み」という言葉を使うと国民に誤った印象を与え、予想される災害から身を守ることを遅らせることになりかねない。今や百害あって一利なしなのだ。しかし、なぜか日本人はこの言葉を好み「平年並み」であることに安心する人が多いのも事実だ。
「平年並み」とは平均的な値であることを表す。非常に漠然とした表現ながら、気象庁は過去30年のデータの平均値を10年ごとにアップデートしている。直近では1991年から2020年までの平年値が2021年5月19日から採用されている。それによると新平年値は10年前の平年値と比べ全国的に気温で0.1‐0.5度高く、降水量で10%程度多くなっているという。
その結果、近年続発する線状降水帯を含む「危険な雨」の発生頻度が、過去45年間で倍増しているそうだ。地球温暖化による日本周辺の海水温の上昇が空気中の水分含有率を上げているのだ。こうした異常事態下にあることを気象庁やTV局、自治体も強く意識する必要があるだろう。
それまで起こったことのない異常値の連続が「平年」になりつつある今、雨の降り方の変化を「平年」との比較で表す時代は去ったと言える。にもかかわらず「平年並み」を敢えて使うのは、国民に対して異常気象であっても「未だコントロールできる範囲なので動揺する必要はない」というメッセージを込めているかのようだ。
これは先の大戦の大本営発表を例に引くまでもなく、東日本大震災時の福島第一原発で燃料デブリがリアクターを突き破り地中に達した事態にあっても、「原子炉は完全にコントロール下にある」と発表した首相がいたことを想起させる。
安心させるためだけの「平年並み」は、来るべき新しい状況への判断力を鈍らせ準備を遅らせることになる。情報化が急速に進む今、現在進行形で世界が日々直面する異常気象の惨状をしっかりと伝え、それぞれの住む場所で今後何が起こり得るのかを、自治体そして個人が考え対策を練るように仕向けるのが政府の役割であろう。
「平年並み」で安心する日本人を率先してやめる時が来ている。

| 24.07.05

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