サンクチュアリ-聖域
大相撲の部屋制度を舞台に叩き上げ力士の日常を描いた相撲ドラマ「サンクチュアリ-聖域」が、Netflixで配信されて話題を集めている。昨年5月から世界配信されるとすぐに日本国内でぶっちぎりの1位を記録し、公式グローバルTOP10でもランクインしている。
人生崖っぷちの若手力士“猿桜”こと小瀬清(元ヤンキー)を主人公に、壮絶な相撲部屋の実態を描く全8話のドラマだ。国技館の土俵を神秘のベールに包まれた「聖域」に見立て、そこで活躍するに至るまでの稽古や生活シーンがリアルで過激に描かれている。
そもそも日本の大相撲界は、全国から親の手に負えない、力を持て余した悪ガキを親方が預かり、叩き上げて一人前の相撲取りに育てるという徒弟制度に支えられていたのだ。
しかし大阪場所で110年ぶりに平幕優勝した“尊富士”は、日大で学生横綱となった後角界入りしたエリート力士だ。続く夏場所で初日から横綱を破って優勝した新小結“大の里”も、日体大で3度学生横綱を張った超有望力士だ。史上最速の入門7場所目の優勝で、「ちょんまげ大関」が期待されている。これを見て叩き上げ力士はどう感じているのだろう?
近年の相撲協会は興行成功のためにハワイやモンゴルに身体的優位性を求め、多くの外国出身力士を入門させて来た。しかし外国出身力士が引退後親方を襲名するために必要な「年寄株」を取得するには、日本国籍取得が必要だと取り決めている。更に2021年、有識者会議は大相撲の継承発展のためには「入日本化(にゅうにほんか)?」が必要であるとした。しかも理事や理事長といった協会幹部は日本人でしっかりと固められ、外国人の入る余地は極めて限られる。幕内優勝45回を誇る大横綱“白鵬”ですら、日本に帰化しても遂に理事になることはなかった。
一方協会は、外国出身力士と互角に闘うには叩き上げ力士では力不足、学生相撲で活躍した力士の方が即戦力とばかりに優遇し、最初から幕下付け出しで入門させて相撲界の「番付」という権威を自ら乱し、下剋上の世界を許してきたのだ。
しかし昨年9月28日、定例理事会は学生横綱らに与えられていた幕下付け出し入門資格を廃止すると発表して、「ちょんまげ大関」は今後理論的に不可能となった。
日本相撲協会の八角理事長は叩き上げから横綱になった正に「サンクチュアリ-聖域」出身だ。興行では外国出身力士や学生横綱出身力士の人気を使い倒しながら、協会としては「入日本化」を押し通すつもりのようだ。
一度開放した「聖域」の扉は果たして元に戻るのだろうか?
| 24.06.07