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大黒PA

横浜市鶴見区の大黒埠頭は日本の自動車産業を支える車の積み出し埠頭だ。「大黒PA(パーキングエリア)」はその中心にある。未来的ループに囲まれたこのPAは1989年のベイブリッジ開通とともにオープン、関東近県から集まるトラック運転手にとって無くてはならないスポットだ。2008年には日本最初のEV用充電装置が設置されるなど、規模だけでなく車文化をリードするPAとしても期待されている。
そんな「大黒PA」に最近、外国人観光客の姿が目立って増えてきた。富士山が見えるからかと思いきやそうではない。週末になると「#jdm」「#daikoku」で国産ビンテージカーを見に人が集まる「聖地」と化すそうだ。
背景には欧米での「JDM (Japan Domestic Market)」と呼ばれる日本の旧車への憧れが作る市場がある。米国では25年経過した車は「クラシックカー」に分類され、右ハンドルの日本仕様のままでも関税も排ガス規制も免除される。丁度日本のバブル期の特別仕様車がこれに該当する。
昨年英国の老舗オークションで、日産「スカイラインGT-R (R34)」が135万7000ドル(約2億円)で落札され、トヨタ「スープラA80」もラスベガスのオークションで6,000万円以上の値を付け落札されている。往年のマークII(JZX90型と100型)、WRC時代のランサー、スバルWRXなど、名車と言われた車は軒並み新車時の10倍以上の価格で取引されているのだ。詰まるところそれら“ヴィンテージカー”を大黒PAに下見に来ているらしい。
映画「ワイルド・スピード」の俳優ポール・ウォーカーがスカイラインGT-Rとスープラを所有していたことも大きく影響している。大黒PAの旧車ミーティングを観る外国人観光客向けのツアーがいくつもあるなど、今や「大黒PA」は関係者が思う以上に有名な場所なのだ。
ここを管理する首都高速道路(株)は、「PA内での本来の利用目的にそぐわない迷惑行為に対しては警察と情報共有を図り、閉鎖を含めて注意喚起を行うなどの対応を講じてまいります」と警告しているが・・・逆効果だろう。
日本の自動車産業を「ものづくり」と考えていると次なるEVの流れにも置いていかれる。モビリティは生活をより豊かにしていく文化だ。「#daikoku」として世界の日本車ファンを楽しませるサブカルチャーの「聖地」を作り運営していく心意気が大切だ。
日本のモーターショーは未だに車で見に行けない。日本人は車を作る労働者で「車社会を楽しんではいけない」とされているかのようだ。

| 24.05.31

シャオミSU7

中国最大のスマート家電メーカー「小米(シャオミ)」が、3月30日にEV(電気自動車)「SU7(スーセブン)」を発売して絶好調だ。予約受付開始わずか27分で予定の5万台を完売し、4月24日現在累計7万5723台を売り上げ、その後の北京モーターショーでも爆発的な人気を博した。
シャオミがEV市場参入を宣言したのは2020年12月。テスラのモデル3とポルシェのタイカンをベンチマークに、実質的には3年でゼロからの開発に成功したスピードには驚くしかない。しかもこの2車の性能を多くの点で上回りながらベースグレードでおよそ453万円と低価格を実現している。 全固体電池が実用化されるとこれらスマート家電型EVのシェアは爆発的に伸びそうだ。
シャオミはSU7を通して、「人×車×家」スマートエコシステムの重要なステップを構築するとしている。スマート家電を生業とするシャオミらしく、最先端技術と先進的な運転体験によって総合的なモバイルスマート空間の実現をめざしている。「Xiaomi HyperOS」を基盤として、EVを含む200以上の製品カテゴリーをシームレスに統合。テスラを超えて、エコシステムの範囲はユーザーの日常的な活動シナリオの95%以上にも及ぶという。
日本政府は先日、2030年までにソフトウェア・ディファインド・ビークル(SDV)対応の車を新車販売の30%台にすると表明し、2035年までにはEVの比率を100%にすることを目標にしている。しかし日本が「HEVを含んで100%EV」を死守するのはトヨタを守りたいだけか?
EV車のアーキテクチャーがガソリン車と大きく違う部分を直視しないと、中国が送り込んだSU7が米国、日本、ドイツの世界に冠たる内燃機関(エンジン)製造サプライチェーンへの“刺客”だということを認識できないかもしれない。
テスラ、BYD、シャオミ、ファーウェイ各社のEV競争は、「クルマのスマートフォン(SDV)化」を加速させている。日本は半導体ファンダリーのTSMCの工場を誘致して騒いでいるが、次はシャオミSU7の工場誘致かもしれない。
シンガポールやマレーシア等が1日で成し遂げるETC導入に25年以上かける国だ。ホンダとソニーの「アフィーラ」は何年かけてSU7に追いつくつもりなのか?過去の栄光を引きずっていると、日本はモビリティー産業での来るべきSDV戦争に間違いなく大敗するだろう。

| 24.05.24

ミュージック・マガジン

日本のポピュラー音楽を批評し続けてきた「ミュージック・マガジン」誌が創刊から55年を迎えた。 1969年4月に中村とうよう、飯塚晃東、田川律らによって『ニューミュージック・マガジン』として創刊され、1980年には「ニュー」が取れ、以来「ミュージック・マガジン」として今も日本の音楽ジャーナリズムの先頭を走っている。
創刊号の執筆陣は中村とうようの幅広い人脈から、小倉エージ、北中正和をはじめ、植草甚一、福田一郎ら既に高名だった評論家から、更には寺山修司、加藤和彦、片桐ユズル、粉川哲夫といった当時のアンダーグラウンドカルチャーの雄が並ぶ画期的なものだった。中村自身が書く毎号の批評「とうようズ・トーク」も時事政論として秀逸で、単なる音楽紹介に留まらず時には政治までをも語る新しい音楽評論の分野を切り開いた。当時の音楽雑誌がグラビアを中心にミュージシャンをアイドルのような形で編集しているのとは一線を画していたのだ。特に力を入れていた「クロス・レヴュー」は、編集部がピックアップした毎月話題の新譜7作を、4人の評者がそれぞれの専門をこえて短評と点数を付けるというもので、ミュージック・マガジンを骨太な評論誌とする原点となった。
音楽配信やストリーミングなど想像もつかなかった60年代に、中村とうようは音楽美学を研究する小泉文夫とレコード会社を説得し、ブルースからリズム&ブルース、フォーク、フォルクローレ、キューバ音楽、サルサ、サンバ、アフリカ音楽、インドネシア音楽等、世界中から“民族音楽”という多様なる音源を収録し、「ワールドミュージックシリーズ」として次々と音楽出版を行なった。この出版を決断したビクター音楽産業も偉かったが、この英断が日本の若者が世界の音楽文化を理解するきっかけを作り、その後の日本経済をリードする若い企業戦士たちの世界文化への理解と価値観を醸成したと言っても過言ではない。
1964年の東京オリンピックで世界に羽ばたいた日本。小泉文夫が翌年「日本傳統音楽の研究」によって西洋クラシック至上主義から日本の音楽史を解放したことを背景に「ニューミューック・マガジン」が生まれ、その短い数年間に日本の大衆音楽文化は第三世界の価値に目覚めて、今では想像もつかないエネルギーを解放し始めた。
しかし、膨大な音楽をストリーミングで消費していく経済至上主義の世界において今、中村とうよう亡き「ミュージック・マガジン」はどこへ向かって行くのだろうか?

| 24.05.17

外国人嫌い

バイデン大統領がワシントンでの演説で「アメリカの経済が成長しているのは移民を受け入れているからだ」、「日本の経済停滞は彼らが“外国人嫌い”で移民を望んでいないからだ」と述べて物議を醸した。更には返す刀で「中国もロシアもインドも同じだ」と追い打ちをかけたため、ジャンピエール大統領報道官が、大統領は「移民がいかに米国を強くしているか」を話したかっただけで他意はないと火消しに追われることになった。
米国の合計特殊出生率は2021年で1.7と低いが、人口は増加している。極端な移民の流入が人口を押し上げていることは明白で、今年は遂に人口に占める外国人(海外生まれ)定住者の比率が18.2%に達している(野村総研調べ)。トランプ前大統領がメキシコ国境に塀を立ててでも防ごうとした非合法移民を含めると、その数字は更に上がりそうだ。
米連邦準備制度理事会(FRB)が各種経済指標から年内に利下げを開始する可能性を示唆していたにも関わらず金利引き下げが先延ばしになっている原因も、旺盛な人口増加力にありそうだ。これは米国経済の消費力が高金利にも関わらず落ち込まないことに繋がり、インフレ再発を常に内包することになり、FRBが自国経済を理論的に説明できない原因にもなっているようだ。バイデン大統領は非合法移民も含めて移民肯定論者なのだろう。
経済協力開発機構(OECD)の「国際移民アウトルック(International Migration Outlook)」によると、移民増大による経済成長の兆候は2020年度版「移民人口比率の世界マップ」にすでに現れている。「新奴隷制度」とも揶揄される中東産油国の移民比率は極端で、アラブ首長国連邦(UAE)の88.1% 、カタール77.3%、クウェート72.8%、バーレーン55.0%と続く。西欧諸国は独仏が10%前後、人口が少ないスウェーデンは12.6%だ。英国は意外に低く5.6%だが、首相はインド系、ロンドン市長はパキスタン系と、もはや白人国家のイメージは無い。本国を捨てた白人英国人はかつて新大陸に移住し、更なる移民を受け入れた。経済成長が続くオーストラリアの11.0%を筆頭に、カナダ、ニュージーランドも移民比率は高い。因みに日本は1.8%とG7の中でも特に低い状況で、こう見てくるとバイデン大統領の発言もあながち間違ってはいないようだ。
大統領は、世界経済は格差があるから発展すると言っているようなものだが、同盟国日本は平等を求めるあまり相対的に貧乏になることを良しとして行くのだろうか。

| 24.05.10

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