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平安時代

NHK大河ドラマ「光る君へ」が1月7日の放送開始以来、年齢を問わず女性から高評価を受けているようだ。ドラマは平安時代に千年の時を超えるベストセラー「源氏物語」を書き上げた紫式部(970-1014?)が主人公だ。紫式部は以前ユネスコの「世界偉人暦」にただ一人選ばれたことのある日本人でもあり、「源氏物語」は今なお世界20ヵ国以上で翻訳され読み継がれている名作だ。
ドラマ「光る君へ」は、制作者(NHK)の平安時代をめぐる時代考証への視聴者の好奇心とともに、彼女が現実の世界で想いを寄せた藤原道長(光る君)を、まひろ(紫式部)の秘めた情熱とたぐいまれな想像力で光源氏に重ねた「Making of 源氏物語」として見ると面白い。「源氏物語」の創作につながる数々のエピソードが織り交ぜられているところが、単なる物語の映像化とは違った人気が出た理由だろう。
作中に登場する紫式部、清少納言などの女流作家それぞれの生き方だけでなく、華やかな貴族文化の陰の階級社会の不条理や貴族同士の権力闘争、身内同士の軋轢と権謀術策などが赤裸々に描かれる。そこには未だ総人口7-800万人ほどの日本で、天皇を中心とするわずか500人ほどの貴族達によって武家社会が成立する前の“日本”という国が形作られていく様子が垣間見えるのだ。
また漢字から作られた“かな文字”の発達により、貴族の和歌による独特な恋心のやり取りは、SNS上の恋愛にも通じるところがあったかもしれない。“通い婚”という当時の慣習とも重なって、女房として宮仕えをしながら夫を待つ貴族女性の日常も鮮やかに描かれている。“かな文字”が平安時代の女性を自由でアクティブにし、夫を支えるだけでなく男性や社会に影響を及ぼす姿が生き生きと表現されているところも、女性の共感を得ているのだろう。
平安時代は中国の律令制度のコピーであった大化の改新を経て、中国の「唐風文化」を日本的に整理して発展させた「国風文化」を生もうとした時代でもある。平仮名の登場だけでなく、貴族の女性たちが着る「十二単」、「大和絵」、「蒔絵」による工芸美術、文学と絵画を合わせた「絵巻物」等々。建築がそれまでの中国の影響を脱し、自国の風土に合わせた「寝殿造」という貴族の住宅様式が造られたのもこの時代だ。中国・朝鮮から文化的に“自立”して、日本化しようとした興味深い時代だったのではないだろうか。
日本が独立国家であろうとした平安時代は、首相がアメリカ議会で“属国宣言?”をして経済さえ良ければよしと考える現代と大きく異なる。
夢のある時代だったようだ。

| 24.04.26

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