ファストパス
東京ディズニーリゾートでは、人気アトラクションの待ち時間を少なくするサービス「ディズニー・ファストパス」が昨年まで無料で導入されていて好評だった。しかしコロナ禍を経てそのサービスに替えて、追加料金を払うことで長蛇の列に並ばず入場できる特別なパス「ディズニー・プレミアアクセス」(一人1回1500~2500円)がスタートしている。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンでも同様のサービス「ユニバーサル・エクスプレス・パス」が有料で始まった。
これらは限られた時間内にアトラクションを有効に体験したい人向けに、追加料金で便宜を図ろうというものだ。実質的には外国人旅行者の購買力に合わせた苦肉の策で、二重価格での値上げの実施である。それでも海外からの来園者には特別感もあって人気だという。
コロナ禍を経て回復傾向にあるインバウンド観光客の多くは、本国でのインフレと日本の円安の恩恵で、購買力が飛躍的に上がっている。そこで「コスパ」よりも限られた時間を有効に使う「タイパ(タイムパフォーマンス)」を重視する傾向が強くなってきている。これにより実質料金が需給を反映して時として2倍にもなることも珍しくないようだ。
「タイパ」重視のサービスは、最近飲食業界でも登場している。これまで何時間も並ばなくてはならなかった有名行列店が、追加の手数料を支払うことで並ばずに確実に入店できるようになってきた。世界中のレストランの顧客インターフェースを開発しているTableCheck社が、今年2月から始めた「TableCheck FastPass」というサービスだ。先ずは人気の6つのラーメン店からスタートし、年内には300店舗への導入を目指しているそうだ。因みにサービス料金は390円から500円だとか。
日本はバブル崩壊以降、実質賃金の低下が長期にわたって続くデフレに陥っていた。外国人観光客のこの購買力を利用した「タイパ」への対応は、サービスと価格のバランスを取り戻すきっかけになりつつある。日本経済は、限られた時間内にどれだけ多くの効果や満足を得られるか?という「タイパ」の価値観を、今まで値下げ要素だけに使い、価格に転嫁する知恵を絞ってこなかった。しかし遂に購買力に応じた二重価格が成立する環境が整ってきたということなのだろう。
ところでディズニーデートにおいて、「待つ」ということは別の意味で相手を見極めるファクターだという考えが根強く残っているのも日本だ。「ファストパス」を買いながら、一方で「待ち時間は恋人たちの“踏み絵”」と言うとは面白い。
| 24.03.15