カームケーション
新型コロナウイルスの世界的な流行の後、失われた旅の機会を取り戻そうとマーケットは動き始めている。しかし、気候変動や戦争が加わり複合的リスクが高まる中、休暇を心から楽しむことができないという声を聞く。米国のアウトドア専門サイト「Outdoors」は、2024年の旅のトレンドは「Calm-cation(カームケーション)」になると予想する。「カームケーション」とは、心地よいテントのなかで暖かい寝袋にくるまり自然にフォーカスした旅で、川のせせらぎと鳥のさえずりに耳を傾けながらくつろぐ旅などを指すのだが、これには高速インターネットを必要条件としている。
同じく米国のキャンプ場予約サイト「Campspot」の調査でも、ウォーターフロントのロケーションやパノラマのような絶景を堪能しつつも、高速の通信回線が提供されるキャンプ場に多くの人が注目しているという結果が出ている。この調査では、回答者の64%が「リラックスできるのはビーチや川、湖など水辺が近いキャンプ場」だとしながらも、その内の91%は高速インターネットを利用できることを求めていると言う。
コロナ禍前は、リラックスとウェルネスを実感できるキャンプの売りは「デジタルデトックス」だった。自然あふれる場所ではむしろデジタル機器から離れて過ごすことに価値を見出していたのだ。自然の中では「触れる」「聴く」「匂いを感じる」など五感を意識して過ごす時間を重視し、リゾートでは通信機器を預かることもサービスになっていたほどだ。日本でも最初に星野リゾートが「glamorous」と「camping」からなる造語 “Glamping(グランピング)”でアウトドアを楽しむ新しい旅のスタイルを提唱したが、そこでもデジタルデトックスを重要なコンセプトの一つにしていた。しかしコロナ後は、そうした脱デジタルな滞在は逆にストレスになると言われたりもする。
コロナ禍でリモートワークが普通になったことで、「カームケーション」を求めながらリモートでしっかり仕事もしようという欲張りなライフスタイルの持ち主が多くなったのだ。今や地球上どこからでも、衛星から高速インターネットを提供するスターリンクや衛星電話イリジウムにアクセスできる時代だ。これらは地上の通信インフラが切れた能登地震でも大活躍した。
結局、リスク時代の人間の心の安らぎCalm(安寧)は、最低限のコミュニケーションが行き渡って初めて適えられるのだろう。
| 24.01.26