モーダルシフト
津軽海峡フェリー(北海道函館市)が10月2日に青森市と室蘭市を結ぶ定期フェリー便の運航を再開したそうだ。同航路は2008年に廃止となって以来15年ぶりの復活だ。就航船の「ブルーマーメイド」(8820総トン)は両港を約7時間で結ぶことになる。今なぜ「青森-室蘭」なのか?
この航路復活の背景には、働き方改革法案によってドライバーの労働時間に上限が課される物流・運送業界の「2024年問題」があるようだ。具体的にはドライバーの時間外労働時間が年間960時間に制限され、その対策として物流の海上輸送への「モーダルシフト」が加速しているのだ。2020年度の統計によると国内貨物輸送のうち内航海運は39.8%を占め、貨物自動車の55.3%に次ぐ。フェリー需要は今後さらに伸びると予想される。
ところで就航を決めた津軽海峡フェリーは、青函フェリーとともに24時間運航で函館-青森航路の物流を担う大動脈だ。函館-青森間の所要時間が3時間40分であるのに対し室蘭-青森の方は約7時間と当然長く、ドライバーが十分な休憩時間を取る(乗船中は労働時間に含まない)ことができる。「2024年問題」解消の施策として同社はここにチャンスを見いだしたというわけだ。
2021年7月に東京-新門司間を21時間で結ぶ東京九州フェリーが22年ぶりの新航路として開設されたことで、佐川急便と共に労働環境の改善と輸送台数の削減によるCO2排出量削減に取り組んだことが評価され、2022年6月第23回物流環境大賞(一般社団法人 日本物流団体連合会)の低炭素物流推進賞を共同受賞している。海上輸送は陸路が寸断されるような大規模災害発生時でも柔軟に対応でき、安定的なサービス供給体制を構築しやすいというメリットもある。
一方ヤマトホールディングスは専用の航空機によるトラックからの転換運送を来年4月にスタートさせる。運転手の就労時間制限から国内航空機輸送がペイしはじめたのだ。JRでスタートした新幹線利用の宅配貨物輸送も「モーダルシフト」を支えている。
しかし、アメリカでは今年からテスラが長らく実験して来たサイバートラックの量産に入った。AI自動運転で超長距離トラック運送をシステム化しようという訳だ。もちろんカーボンニュートラルで。
日本の「モーダルシフト」は2024年問題への単なる対症療法に見える。世界のコンテナ物流をリードできるAI化された大規模自動運転物流システムへの構造変革を伴わないと、アメリカ、中国の「モーダルシフト」には到底追いつけないだろう。
| 23.11.10