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男性専用車両
11月19日の国際男性デーを前に、18日、東京さくらトラム(都電荒川線)を借り切って「男性専用車両」が運行された。当初は「女性専用車両」へのギャグかと思われたが、主催のNPO法人「日本弱者男性センター」は真剣なようで、昨年11月の国際男性デー、今年6月の父の日に続き3回目の実施となった。
イベントの目的は、男性も性被害や痴漢の冤罪被害などの不安や恐怖を抱えていると訴えることだ。参加者は「少なくとも男性の痴漢冤罪を無くしたい」と「男性専用車両」の常設を求め、今後札幌市や愛知県内の路面電車での同様のイベントを通じて鉄道各社にその必要性を訴えていくのだという。
日本では2001年に京王電鉄など私鉄を中心に女性への痴漢防止対策として「女性専用車両」が導入され、徐々に都内JRを含めた鉄道各社において通勤通学時間帯限定(一部深夜も)で拡大されてきた。
痴漢は、「される側」が女性「する側」が男性という単純な構図ではなく、冤罪をはじめあらゆる形で男性も被害を受け得る犯罪である。現在では全都道府県の迷惑防止条例で男性も保護対象となっている。
イスラム教やヒンズー教社会では男女の同席が忌避されるため、信者の多い国では戒律に基づき「男女別車両」を明快に設定していることが多い。また歴史的にも性犯罪防止の観点から「女性専用車両」を導入した国は多い。例えばイギリスでは1874年から1977年まで、アメリカでは1907年の3か月間だけ導入したが、導入後に法的平等実現の観点から廃止している。
2023年世界ジェンダー・ギャップ報告書(Global Gender Gap Report)の対象153ヵ国の中で、アジアで断トツに順位の高かったフィリピン(17位)は、首都マニラを走るMRTとLRTでプラットフォームに降りるところから男女平等を意識して乗車する車両を区別し終日運航している。「男女平等に安心が守られる状態にする」という方針を明快に打ち出して成功した例だ。
ところで江戸の三大祭として有名な三社祭では、女性が神輿を担ぐことも触ることもご法度という地方が多い中、伝統的に男女混合で担ぐことを通しまさにその多様性で多くの人を惹きつけている。男女平等への対応は国によってさまざまだが、目的をハッキリさせると性別は当然のこと関係なくなるようだ。
日本の「男性専用車両」が痴漢冤罪回避を目的に“狭い”範囲で弱者救済を訴えている限り問題の根本的解決にはならず、JRへの導入など成立しないだろう。
| 23.11.24
文化支出
国立科学博物館が「地球の宝を守れ」を合言葉にクラウドファンディングを実施し、開始から90日間で9億円を超える支援を集めたことが報道されたばかりだ。国内クラウドファンディング史上、支援者数、支援額共に過去最高を更新したことは一見“美談”のようだが何か腑に落ちない。
文化庁の外郭団体「一般社団法人 芸術と創造」が発表した令和2年度「文化行政調査研究」諸外国における文化政策等の比較調査研究事業報告書によると、日本政府の2020年の文化支出額は1,166億円で、数字を見る限り今回調査対象になっている日米英独仏韓6か国の中で最低だ。反面、日本では地方自治体が4,700億円と国の4倍を支出し健闘している。昨今地方美術館は確かに元気がいい。
この傾向はヨーロッパでも同様である。ドイツは国が2,299億円、地方政府が11,424億円、フランスは国が4,620億円、地方政府が10,582億円だ。この2カ国は人口が日本の2/3であることを考えると、文化教育にいかに重点を置いているかがわかる。現在は円安で更にその差が広がっている。
日本の文化支出の最大の問題点は過去20年に亘って前年割れが続いている点だ。国立科学博物館によると国からの運営交付金は12年度に約29億円だったものが、22年度には約25億円まで減っている。博物館や美術館だけでなく大学の運営交付金も名目GDPに合わせて年々減額されてきた。未来への投資として守らなければいけないものがあることを国は忘れているのではないだろうか。
10月25日のイギリスの科学誌『ネイチャー』は日本の文部科学省が発表した「科学技術指標2023」をもとに、「日本には世界最大級の研究コミュニティがあるにもかかわらず、世界レベルの研究への貢献は減少し続けている」と指摘、日本の研究環境に警鐘を鳴らしている。
米国に言われてすぐ国防費は2倍になり、税金も著しく上がる日本。万博の建設費の1100億円の上振れなどかわいいものなのか?沖縄辺野古の埋め立ては軟弱地盤が見つかったと知らぬ間に6000億円も増額している。さすがの米軍も「ドローンの時代が来ているのに10年以上もかかって無駄な埋め立てをする時間と意味はない」とはっきり言っているほどだ。
国のリーダーである首相に“国家観”、特に国民の教育研究と文化度向上についてのビジョンがない。米国に言われれば出す、選挙があるから出す、という対症療法だけでは文化支出の増額は永遠に無いだろう。
| 23.11.17
モーダルシフト
津軽海峡フェリー(北海道函館市)が10月2日に青森市と室蘭市を結ぶ定期フェリー便の運航を再開したそうだ。同航路は2008年に廃止となって以来15年ぶりの復活だ。就航船の「ブルーマーメイド」(8820総トン)は両港を約7時間で結ぶことになる。今なぜ「青森-室蘭」なのか?
この航路復活の背景には、働き方改革法案によってドライバーの労働時間に上限が課される物流・運送業界の「2024年問題」があるようだ。具体的にはドライバーの時間外労働時間が年間960時間に制限され、その対策として物流の海上輸送への「モーダルシフト」が加速しているのだ。2020年度の統計によると国内貨物輸送のうち内航海運は39.8%を占め、貨物自動車の55.3%に次ぐ。フェリー需要は今後さらに伸びると予想される。
ところで就航を決めた津軽海峡フェリーは、青函フェリーとともに24時間運航で函館-青森航路の物流を担う大動脈だ。函館-青森間の所要時間が3時間40分であるのに対し室蘭-青森の方は約7時間と当然長く、ドライバーが十分な休憩時間を取る(乗船中は労働時間に含まない)ことができる。「2024年問題」解消の施策として同社はここにチャンスを見いだしたというわけだ。
2021年7月に東京-新門司間を21時間で結ぶ東京九州フェリーが22年ぶりの新航路として開設されたことで、佐川急便と共に労働環境の改善と輸送台数の削減によるCO2排出量削減に取り組んだことが評価され、2022年6月第23回物流環境大賞(一般社団法人 日本物流団体連合会)の低炭素物流推進賞を共同受賞している。海上輸送は陸路が寸断されるような大規模災害発生時でも柔軟に対応でき、安定的なサービス供給体制を構築しやすいというメリットもある。
一方ヤマトホールディングスは専用の航空機によるトラックからの転換運送を来年4月にスタートさせる。運転手の就労時間制限から国内航空機輸送がペイしはじめたのだ。JRでスタートした新幹線利用の宅配貨物輸送も「モーダルシフト」を支えている。
しかし、アメリカでは今年からテスラが長らく実験して来たサイバートラックの量産に入った。AI自動運転で超長距離トラック運送をシステム化しようという訳だ。もちろんカーボンニュートラルで。
日本の「モーダルシフト」は2024年問題への単なる対症療法に見える。世界のコンテナ物流をリードできるAI化された大規模自動運転物流システムへの構造変革を伴わないと、アメリカ、中国の「モーダルシフト」には到底追いつけないだろう。
| 23.11.10
うどん脳
うどんが大好きでうどんばかり食べていて・・・ある朝目覚めると「うどん脳」になっていたツル!という香川県のゆるキャラ、「ツルきゃら うどん脳」がいま熱い。
ゆるキャラと言えば不動の人気トップは熊本県の「くまモン」、2位が千葉県船橋市の「ふなっしー」、3位は滋賀県彦根市の「ひこにゃん」と続いていた。そこに割って入ったのが脳を麺に見立てた香川県のご当地キャラクター「うどん脳」だ。ネット上で全国のキャラクターが人気を競うコンテスト「ゆるバース」で初代王者となった。「ゆるバース」は2011~20年に計10回開催された「ゆるキャラグランプリ」の後継イベントで、今回が初めての開催だった。投票者はネット上の仮想空間「メタバース」から投票する。
「うどん脳」はその名のとおり脳がうどん。その独創的なインパクトあるビジュアルはひと目見たら忘れられず、ゆるキャラっぽいのにちょっと不気味だ。うどん脳のサイト「ツルきゃら うどん脳」によると元人間の妖怪!とのことで、ホラーっぽさもウケる原因か。
海外では「うどんゾンビ」とも呼ばれ、ご当地キャラブームが到来した2014年ごろから「キモかわいい」と人気キャラクターの仲間入りをした。ソニー生命の調査「47都道府県別生活意識調査2020」で香川県民の好きなご当地キャラとして頭角を表し、今年やっと「ゆるバース」で全国制覇したという遅咲きの苦労人だ。
「うどん脳」の勝因は、香川の名産「うどん」の玉が「脳みそ」に似ていることから、うどんへの徹底した集中!をストレートに表現したところにある。うどん好きの思想を反映させた圧倒的な集中力?がその他の“ゆるキャラ”の追従を許さなかったのだ。
2019年3月13日第19回統一地方選では県の選管のPRキャラクターに起用され、“せんきょ脳”として「うどんよりせんきょ。」と有権者の声を政治に反映させるための1票の大切さも訴えた。
片や11月25日の参院本会議で、岸田首相は世耕弘成自民党参院幹事長から「総理が何をやろうとしているのかまったく伝わりません」「支持率が向上しない最大の原因は、国民が期待するリーダーの姿を示せていないことに尽きる」と身内からも酷評された。
今の首相に大事なのは、「うどん脳」が「ゆるバース」を制したような強烈な政策への集中力だ。浮き足だって解散総選挙対策が透けて見えるような国会答弁では、「うどん脳」どころか出身地広島のレモン食べ過ぎで黄色くなった「ひろくま」君にも、支持率は遠く及ばないだろう。
| 23.11.03