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戦場のスターリンク

10月7日、パレスチナ暫定自治区ガザ地区を実効支配するハマスが2000発を超えるロケット弾でイスラエルへの攻撃を仕掛けた。ネタニヤフ首相は政治基盤が弱かったこともあり、ハマスの攻撃を察知していながら先に手を出させたとも言われている。ネタニヤフ首相はこの好機を逃さず、即時に挙国一致内閣設立を宣言した。そして大規模な空爆でガザ地区を瓦礫の山に変え、30万人以上の予備役を招集し地上戦の準備を整えた。双方の死者数は瞬時に3000人を超え、壮絶な殲滅合戦に至った。
ロケット弾攻撃と同時にハマスはガザからイスラエル側に侵入し、開催中の音楽フェスティバルを襲撃、若者を虐殺して150人を超える人質を連れ去った。逃げ惑う参加者に銃弾を撃ち込みレイプして殺害する。生々しい画像が“X” (旧Twitter)上に溢れかえった。そこにフェイク動画も入り乱れ、いつ撮影されたものなのか、合成動画なのか、判断できないまま拡散され世界は混乱した。 “X”はやりたい放題の倫理観のない情報の戦場と化している。
米国マサチューセッツ工科大学の研究チームは2018年には既に「フェイク情報は真実の情報に比べ6倍から20倍速く、しかもはるかに広範囲に拡散する」との研究結果を発表している。イーロン・マスクがTwitterを買収した際、コンテンツモデレーション部隊を即解雇したのは、こういうSNSの特性をよく理解していたからだろう。これにより「Xは大衆煽動の武器として膨大な価値を持った」とも言える。民主主義を逆手にとって世界の民意をコントロールするために買収したとしたら、5兆円は安い!?
一方ウクライナ軍は過度にインターネット網に依存していたことから、クリミアへのドローン攻撃はスターリンク(衛星ネット通信網)をマスクが遮断したことで遂行できなかった。まさに「戦場のスターリンク」効果だ。武器が大容量インターネットインフラを必要とすることを最も早く察知していたのもマスクだったと言える。
スペースXが運用している衛星インターネットアクセスサービス、“スターリンク”の実態は実は余り知られていない。現在地球の周回軌道上には8000基近くの通信衛星が存在するが、その内4500基超はマスク率いるスペースXが打ち上げた通信衛星だ。わずか5年の間に地球上をくまなくカバーし、高速大容量のインターネットへのアクセスを可能にしている。
テスラで巨万の富を手にし、“X”で大衆を扇動し、“スターリンク”で戦争をコントロールする。イスラエルとハマスのどちらが勝つにしても、それはマスク次第ということか?

| 23.10.20

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