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バービー

7月21日に全米で公開が始まった映画「バービー」が日本を除き全世界でヒットしている。たった1ヶ月で興行収入は13.8億ドル(約2025億円)を超え、ワーナー・ブラザース配給作品として「ハリポタ」を抜く史上最高額を記録、今年公開された映画の中で最大のヒット作になったようだ。ところが日本での興行は8月11日の初登場以来8位とふるわず、公開3週目にしてベスト10圏外に落ちてしまった。
全米ではクリストファー・ノーラン監督による“原爆の父”を描いた映画「オッペンハイマー」が同日公開され、SNSではバービーの髪を「原爆キノコ雲」に模した悪ふざけが横行。「バービー」公式サイトはそれにポジティブに反応して批判を浴び、謝罪する事態となった。日本ではG7広島サミットと原爆記念日が重なる時期だったため、意図的に報道されなかったきらいもある。
「バービー」の舞台となるのはピンク色のバービーランドで、大統領から宇宙飛行士まで活躍するのは全部女性だ。日本では子供向けの夢物語を想像しがちだが、ガーウィグ監督は人間世界(リアルワールド)を見せ、バービーによる「本当の自分探し」ができるように物語を構築し、ジェンダーに焦点をあてて「女は男より無知だ」という偏見やフェミニズムと闘い、風刺自体を楽しむ歌あり踊りありの円熟したエンターテインメント文化を展開している。
日本人にとってはバービーよりリカちゃんの方が受け入れやすいようだ。いまだにフランス人のパパと日本人のママという設定で可愛い世界から抜け出せないリカちゃんは、「バービー」の展開するグローバルワールドから完全に置いて行かれているように見える。
バービー人形は、2015年に8種類のスキンカラー、14パターンの顔、22種類のヘアスタイル、23色のヘアカラーと18色の目の色を組み合わせ、敢えて多様性を反映したコレクションを発表している。ちなみに2020年に最も売れたのは、車いすに乗ったバービーだった。
一方「かわいい」を大切にしてきた国産のリカちゃん人形は、2015年に大人をターゲットとした「Licca Stylish Doll Collections」を登場させたものの、大人がリカちゃんで遊ぶ “リカ活” という言葉を生んだだけだった。どんなにトレンドの服を着こなしても、いつまでも「かわいい」から解放されないリカちゃんの姿は今や哀れですらある。
アラサー女子がインスタで自作の洋服を着せて日々を投影する…。内向的自己満足で“グローバルワールドから目を逸らす日本”が透けて見える。

| 23.09.15

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