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レプリカロマン

奈良時代から奇跡的な保存状態で現存する「正倉院宝物」。しかし人気の正倉院展で展示される宝物は殆どがレプリカ(再現模造)だと聞くと、どのようなイメージを持つだろうか?「なんだ、本物じゃないのか」それとも「本物を超えるレプリカだから見て感動できる?」いろいろだろう。
「本物の正倉院宝物をもうひとつ造る!」という意気込みで、宮内庁が人間国宝ら伝統技術保持者と共に総力を挙げ制作したレプリカの存在意義や魅力について、正倉院事務所の西川明彦所長は「レプリカはオリジナルの代替品ではなく、人間の英知と技術を駆使して作り上げる未来に向けての自由な可能性だ」と語る。
特に埋蔵文化財の場合、発掘されて外気に触れた瞬間から劣化がスタートしてしまう。島根県雲南市にある弥生時代中期の「加茂岩倉遺跡」から出土した銅鐸は、1996年にオリジナルに直接触れることなく三次元計測やX線CTスキャンなど最新デジタル機器で計測され日本初の本格的文化財デジタルレプリカ第1号が作られている。驚くべきことに出土時に銅鐸に付着していた土までが再現されているのだ。
東所沢の角川武蔵野ミュージアムで開催されている「体感型古代エジプト展 ツタンカーメンの青春」では、3300年前のエジプト新王国時代、第18王朝最盛期の直系の王であるツタンカーメンが埋葬された当時の黄金のマスクをはじめ、副葬品135点がスーパーレプリカ(超複製)として再現されている。オリジナルは劣化を恐れてカイロ博物館から門外不出となっているが、エジプトのミニア大学純粋芸術学部のムスタファ教授独自の手法により超複製が完成したことで、3300年前のツタンカーメン王の生活の再現が日本で可能になったのだ。
東京芸大の宮廻教授は、作られた当時と同一素材を使い可能な限り当時の製法に沿って造られるレプリカ(クローン文化財)は、単なる複製と違いオリジナルを超えうると言う。国宝にはいっさい手を加えることができないが、レプリカであれば消失や劣化を乗り越え時空間を遡るかたちで、現代の叡智と技術によって次世代に継承できる。それが「クローン文化財の価値だ」と。
ところでココ・シャネルは宝石や貴金属を使用せず、素材の価値にとらわれないデザインを重視したコスチュームジュエリーを生み出し、後の女性たちのファッションに大きな変革をもたらした。
曰く、「何カラットの宝石を身につけるかが問題なのではなく、大切なのは洋服にいかにマッチしたジュエリーをつけるのか」ということだと。本物を超えるレプリカにロマンを感じとるひとりだった。

| 23.09.08

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