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ブッダボット

京都大学とベンチャー企業のテラバースは、米OpenAIのLLM「GPT-4」を活用してチャットボット「親鸞ボット」と「世親ボット」の開発に成功したと発表した。ユーザー(信者?)のあらゆる悩みに即座に答えることができるそうだ。既に開発済みの「ブッダボット」「ブッダボットプラス」とあわせて4つの「生成AIによる仏教対話ボット」が揃ったとしている。
「親鸞ボット」は浄土真宗の開祖・親鸞(12~13世紀)の聖典“正信偈”を、「世親ボット」は大乗仏教の唯識を大成した世親(4世紀)の聖典“倶舎論”の全てを学習している。さらに対話にあたってはAR(拡張現実)技術も応用し、宗教史を代表する聖人達とリアルに対面体験できるマルチモーダル(多感覚的)な異次元コミュニケーションモードも備えている。
初期の「ブッダボット」はGoogle「Sentence BERT」を応用しQ&A形式で回答を生成するだけだったが、「ブッダボットプラス」はGPT-4を活用して経典を学習するのみならず、解釈や追加説明を生成する進化を遂げている。更に「親鸞ボット」と「世親ボット」では、時空間を超えて高名な宗教指導者と直接対話の疑似体験ができ、その影響力は計り知れない。「宗教新時代」到来とも言えそうだ。
仏教以外の宗教でも「チャットGPT」は積極的に使われている。キリスト教からユダヤ教まであらゆる宗教に欠かせない説教の原稿を書けることが分かってきたのだ。宗教と生成AIはその親和性の高さから急激に接近し、シンギュラリティ時代には生身の宗教指導者は淘汰されるであろう予感がする。一方、人類はメタバース上で自分の分身(アバター)によって「生」と「死」の境界線を変容させつつある。
AP通信は、AIが作り出す未来ではコンピューターが意識や倫理感や魂を持ち、やがて人間性を持つようになるという仮説を立てている。チャットGPTのようなAIツールは今はまだ単純に説得力がある真似をしているにすぎないが、いずれは人間的な答えを自ら出せるまでに進化し、宗教的な悟りを期待する信者達を満足させうるかも知れない。
米国南部バプテスト神学校教授(キリスト教説教学)のハーシェル・ヨーク牧師は、それでもなお「ボッタは魂を欠いている」と反論するが説得力に乏しい。
ホモ・サピエンスは何億年もの時間をかけて単細胞生物から現在の人類へと進化してきた。生成AIボットが同様な時間をかけたらどこまで進化するのだろうか?
生成AIによって進化するアバターは、人類によって創生される「新しいデジタル人類」なのだろうか。一億年後が楽しみだ。

| 23.09.29

お月見

異例の暑さで秋をまったく感じない中、9月6日からマクドナルド恒例の「月見バーガー」の売出しが始まった。誕生から32年、今や日本の秋の風物詩と言えるほど楽しみにしている人も多い。
今年の中秋の名月(十五夜)は9月29日で晴れていれば期待通りの満月の「お月見」を楽しむことができそうだ。すっかり「お月見」といえば「生たまご」を思い浮かべる。熱々のかけそばに生卵をポンと落とした「月見そば」は庶民の味の永遠の定番だ。卵を落とすときれいな満月が浮かび上がり、そばの熱でだんだんと卵白が温められる。それが「朧月(おぼろづき)」のようだとも言われ、黄身に箸を入れてかき混ぜると月の明かりは闇夜に消えていく・・・お椀の中で繰り広げられる風流な景色は日本人の心象を映し出しているようだ。
十五夜に「お月見」をする文化は平安時代に中国から伝わったもので、中国では旧暦8月15日の中秋節に月餅やスイカなど丸い食べ物を月に供える。この五穀豊穣を祈念した風習が日本にも伝わり、「お月見」の始まりになったと言われている。
一方、日本初の月面着陸探査機「SLIM」(スリム)が鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられた。通称「ムーンスナイパー」と呼ばれ、順調にいけば来年2月にShioli(栞)クレーターの100メートル以内にピンポイントで着陸する予定だそうだ。2月のスノームーンに探査機がいると思って眺めると、風情はないが新時代の「お月見」が生まれるのか。
そして今、月面探査で中心的役割を果たしているのは中国だ。2013年に「嫦娥(じょうが)3号」を送り込んで以来、19年の4号は量子コンピュータを駆使して電波の届かない月の裏側に着陸させている。対する米国は、約半世紀ぶりとなる有人月面探査を掲げる「アルテミス計画」を22年に本格スタートした。インドも月面探査を開始したが、中国は更に30年までに有人月面探査を実現すると意気込んでいる。
中秋の名月を愛でるお菓子「月餅」は中国の逸品だが原型は唐代の軍隊で勝利を祝う餅だった。高祖李淵の大将軍李靖は匈奴との戦いに勝利を収めて8月15日に国に凱旋、その記念にトルファン人が皇帝に祝いの餅を献上したのが始まりと聞く。李淵は華麗な餅箱を受け取り、丸餅を切り分けて群臣にふるまったそうだ。
ヨーロッパでもムーンケーキとして存在感を高めつつある月餅だが、経済戦争に勝利して今や世界を席巻する国力を持つ中国は、唐の高祖李淵に倣って祝いの月餅を世界に配るぐらいの余裕を披露してはどうだろう。

| 23.09.22

バービー

7月21日に全米で公開が始まった映画「バービー」が日本を除き全世界でヒットしている。たった1ヶ月で興行収入は13.8億ドル(約2025億円)を超え、ワーナー・ブラザース配給作品として「ハリポタ」を抜く史上最高額を記録、今年公開された映画の中で最大のヒット作になったようだ。ところが日本での興行は8月11日の初登場以来8位とふるわず、公開3週目にしてベスト10圏外に落ちてしまった。
全米ではクリストファー・ノーラン監督による“原爆の父”を描いた映画「オッペンハイマー」が同日公開され、SNSではバービーの髪を「原爆キノコ雲」に模した悪ふざけが横行。「バービー」公式サイトはそれにポジティブに反応して批判を浴び、謝罪する事態となった。日本ではG7広島サミットと原爆記念日が重なる時期だったため、意図的に報道されなかったきらいもある。
「バービー」の舞台となるのはピンク色のバービーランドで、大統領から宇宙飛行士まで活躍するのは全部女性だ。日本では子供向けの夢物語を想像しがちだが、ガーウィグ監督は人間世界(リアルワールド)を見せ、バービーによる「本当の自分探し」ができるように物語を構築し、ジェンダーに焦点をあてて「女は男より無知だ」という偏見やフェミニズムと闘い、風刺自体を楽しむ歌あり踊りありの円熟したエンターテインメント文化を展開している。
日本人にとってはバービーよりリカちゃんの方が受け入れやすいようだ。いまだにフランス人のパパと日本人のママという設定で可愛い世界から抜け出せないリカちゃんは、「バービー」の展開するグローバルワールドから完全に置いて行かれているように見える。
バービー人形は、2015年に8種類のスキンカラー、14パターンの顔、22種類のヘアスタイル、23色のヘアカラーと18色の目の色を組み合わせ、敢えて多様性を反映したコレクションを発表している。ちなみに2020年に最も売れたのは、車いすに乗ったバービーだった。
一方「かわいい」を大切にしてきた国産のリカちゃん人形は、2015年に大人をターゲットとした「Licca Stylish Doll Collections」を登場させたものの、大人がリカちゃんで遊ぶ “リカ活” という言葉を生んだだけだった。どんなにトレンドの服を着こなしても、いつまでも「かわいい」から解放されないリカちゃんの姿は今や哀れですらある。
アラサー女子がインスタで自作の洋服を着せて日々を投影する…。内向的自己満足で“グローバルワールドから目を逸らす日本”が透けて見える。

| 23.09.15

レプリカロマン

奈良時代から奇跡的な保存状態で現存する「正倉院宝物」。しかし人気の正倉院展で展示される宝物は殆どがレプリカ(再現模造)だと聞くと、どのようなイメージを持つだろうか?「なんだ、本物じゃないのか」それとも「本物を超えるレプリカだから見て感動できる?」いろいろだろう。
「本物の正倉院宝物をもうひとつ造る!」という意気込みで、宮内庁が人間国宝ら伝統技術保持者と共に総力を挙げ制作したレプリカの存在意義や魅力について、正倉院事務所の西川明彦所長は「レプリカはオリジナルの代替品ではなく、人間の英知と技術を駆使して作り上げる未来に向けての自由な可能性だ」と語る。
特に埋蔵文化財の場合、発掘されて外気に触れた瞬間から劣化がスタートしてしまう。島根県雲南市にある弥生時代中期の「加茂岩倉遺跡」から出土した銅鐸は、1996年にオリジナルに直接触れることなく三次元計測やX線CTスキャンなど最新デジタル機器で計測され日本初の本格的文化財デジタルレプリカ第1号が作られている。驚くべきことに出土時に銅鐸に付着していた土までが再現されているのだ。
東所沢の角川武蔵野ミュージアムで開催されている「体感型古代エジプト展 ツタンカーメンの青春」では、3300年前のエジプト新王国時代、第18王朝最盛期の直系の王であるツタンカーメンが埋葬された当時の黄金のマスクをはじめ、副葬品135点がスーパーレプリカ(超複製)として再現されている。オリジナルは劣化を恐れてカイロ博物館から門外不出となっているが、エジプトのミニア大学純粋芸術学部のムスタファ教授独自の手法により超複製が完成したことで、3300年前のツタンカーメン王の生活の再現が日本で可能になったのだ。
東京芸大の宮廻教授は、作られた当時と同一素材を使い可能な限り当時の製法に沿って造られるレプリカ(クローン文化財)は、単なる複製と違いオリジナルを超えうると言う。国宝にはいっさい手を加えることができないが、レプリカであれば消失や劣化を乗り越え時空間を遡るかたちで、現代の叡智と技術によって次世代に継承できる。それが「クローン文化財の価値だ」と。
ところでココ・シャネルは宝石や貴金属を使用せず、素材の価値にとらわれないデザインを重視したコスチュームジュエリーを生み出し、後の女性たちのファッションに大きな変革をもたらした。
曰く、「何カラットの宝石を身につけるかが問題なのではなく、大切なのは洋服にいかにマッチしたジュエリーをつけるのか」ということだと。本物を超えるレプリカにロマンを感じとるひとりだった。

| 23.09.08

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