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バーキン

7月16日に入ってきたのはフランスの歌手で女優ジェーン・バーキンの訃報。ロンドン生まれの英国人だったが、パリジェンヌのフレンチシックを体現した76年の人生だった。 葬儀には娘のシャルル・ゲンズブール等を囲むようにカトリーヌ・ドヌーブや大統領夫人ブリジット・マクロンなどが参列、大統領がツイッターで「彼女はフランスのアイコンだった」と悼むなど、集まった人々の錚々たる顔ぶれから改めて彼女の生きざまが注目されている。
歌手としては1969年、12年以上もパートナーとして連れ添った個性派俳優セルジュ・ゲンズブールとデュエットした「ジュ・テーム・モア・ノン・プリュ」でデビュー。ささやくような歌声で露骨な性表現をさり気なく自然に歌い上げるその奔放さは、一部の国では放送禁止となるも一世を風靡する大ヒットとなった。
今や世界で一番有名なバッグといっても過言ではないエルメスの「バーキン」は、彼女の生き様あってのモデルだ。「新しいエルメス」への変革を標榜して1978年に5代目会長となったジャン・ルイ・デュマが、1981年にたまたま飛行機で隣り合わせたのが当時二人の娘を持っていたジェーン。彼女の、母親が普段使いできるバッグが無いという言葉を聞いて直感的に作ったとされるのが「バーキン」で、つまりこのモデルは「元祖ママバッグ」だったのだ。
高価だからといって大事に持つのではなく、“あえてラフに持つ”姿がエルメス全モデルの中で突出してステキに見える「バーキン」は、“ブランドに左右されない自分のライフスタイルを持つ人にのみ許される“バッグとなった。
ジェーン・バーキンは日本でも人気があった。2008年にはフジテレビの『SMAP×SMAP』に登場して、料理対決の勝者となった木村拓哉と草彅剛に「バーキン」をプレゼントしている。キムタクの「男がかっこよくバーキンを持つには?」の質問に、彼女はバーキンを両手で思いっきり広げ、床に放り投げて踏みつけ、自分の荷物をドバっと入れてぐちゃぐちゃに形をくずし、「ジュエリーをつけたり、飾りをつけたりして、自分のバッグらしくするのよ」と言い放った。
彼女のあまりの潔さに、キムタクは思わず「この人ロックだよ」と呟いたのだ。
1984年に発売された「バーキン」は、90年代にかけてエルメス本店の売上の2割以上を日本人に依存すると言われるブームを牽引した。日本というフラットなクラスレス社会だからこそ「バーキン」は憧れの的になったと言える。
偉大なマーケッターだったジャン・ルイ・デュマは惜しくもスマスマ放映後の2010年に亡くなったが、日本での「バーキン」人気無しに中国でのエルメスの成功は無かっただろう。

| 23.07.28

読書感想文

今年もそろそろ子どもたちの夏休みが始まる。令和になってICT(情報通信技術)の時代になっても、どうやら夏休みの憂鬱な宿題の定番は「読書感想文」で、昔も今も大きく変わっていないようだ。
子供の悩みをよく知る(株)パステル総研が、2021年7月初旬に実施した「夏休みの心配事アンケート」によると、子どもが1人で夏休みの宿題をやり切れると答えた親はたったの11%、86%が何らかの形で親のサポートが必要であると回答したそうだ。特に「読書感想文」については苦手な親子が35%に上ったという。
しかし、今年4月に実施された全国学力・学習状況調査では、小学6年生の国語(テスト時間45分)の問題3題はすべてが記述問題だった。それぞれ100字、100字、60字以内でまとめよというものだが、自分の考えをまとめる力は読解と記述問題でよく分かるから、だそうだ。ChatGPTなど進化を続ける生成AIに対し、現代の子供は並の読解力では指示も出せずに立場が逆転することさえ出てくるようだ。
今年の3月に発表されたChatGPT-4では、アメリカの大学入学共通テスト「SAT」の読解で710/800点、数学で700/800点を取るなど、上位10%に入るという優れたパフォーマンスを示したらしい。日本の医師国家試験でも合格ラインを超えるとの研究結果が報告され、AIの加速度的進化に「もはや人間を超えた」と感じる人も多かったようだから大変だ。
一方京大情報学部での"MSOパラダイム"についての課題では、「ChatGPTを敢えて使ってレポートを書け」という逆説的な出題が話題になった。ChatGPT-4には新しいMSOパラダイムの概念と過去データが十分に取り込まれていないため、正解を出すには人の知識が先行してGPTに対して指導し、書き直しを命じていかなければならない。つまりこれは学生に「ChatGPTに対し自分が必要とする解を得るために、上手く表現し伝える文章力があるか?」を試そうという課題なのだ。
「読書感想文」は子供の読解力と記述力を高める絶好のチャンスだが、将来の生成AIとの戦いに向けた準備とも言える。本を読む際の子供ならではの視点と感じ方は、創造性の始まりでもある。過去のデータベースを基に検索力だけで勝負する生成AIに対し、未来へ向けた人間独自のクリエイティビティを基に如何にして生成AIを使いこなすか?は、人間の尊厳の部分だろう。
デジタル庁職員は大臣も含めて、全国学力・学習状況調査の小学6年生の国語読解問題で、一度適性診断を受けてみてはどうだろう?

| 23.07.21

洗わない

働き方が変化したせいか、手当たり次第に着た物を洗濯することへの疑問からか、「洗わない・あまり洗わない」という社会運動が英国で起きて注目されている。
2017年には既にファッション業界における持続可能性や社会進歩的な考え方を推進する英国発の非営利団体「ファッションレボリューション」が、家電メーカーAEGの協力で14人のデザイナーと共に「Don’t Overwash(洗いすぎないで)」というタグを衣類1万8200アイテムに付ける運動を開始していた。
このプロジェクトは現行の洗濯表示が時代遅れだと主張することに狙いがあったが、半世紀も前から付けられている衣類のタグ表示は、メーカーが洗濯によって衣類が傷む責任から逃れる方便にしかなっていないと指摘する。
ステラ・マッカートニーも以前から洗濯機の使用を避けるよう呼びかけ、「汚れは乾かしてブラシで落とせばいい」と主張している。またポリエステルやアクリルといった合成素材を使った大量生産の安いFast Fashionほど、環境への負荷が大きいという。「洗濯するたびに平均9億個ものマイクロファイバーが環境に流れ出す」ことを消費者は知った方がよさそうだ。
2016年創業の米国のスタートアップ「アンバウンド・メリノ(Unbound Merino)」は、数週間は洗濯不要で着ることができる“メリノウール”素材の服を作っている。また2018年創設の「パンゲア(Pangaia)」は海藻繊維からつくったTシャツを作っているが、これはペパーミントオイル加工によって洗いたてのフレッシュな感じが持続する優れものだ。一着85ドルと決して安くないが、メーカー試算ではコットンTシャツと比べライフサイクルで平均3000リットル(3トン)の節水につながるという。
洗濯機で使う水は家庭用水の約17%、換算すると衣類のライフサイクルを通して排出されるカーボンフットプリント(二酸化炭素排出量)の4分の1に相当するとか。AEGの推定によれば、毎日洗濯している衣類の90%は洗濯機に入れなければならないほど汚れてはいないという。日本でも売れている汗臭さを防ぐリフレッシュスプレーは節水に非常に有効だ。
梅雨真っ只中の今、高温多湿なアジア諸国は生乾き臭に頭を痛める。特に日本人は世界から見ると異常なほど消臭・除菌・漂白に拘っており、「洗わない」という声は当然聞こえてこない。
「洗わない」というメッセージは日本のメーカーが世界に発信してこそインパクトがあるのだろう。

| 23.07.14

超安定

世界経済フォーラムが2022年のジェンダーギャップ指数を発表した数日後、ザ・リッツカールトン日光で「G7栃木県・日光男女共同参画・女性活躍担当大臣会合」 が開催された。案に違わず日本は今年もG7諸国中最下位、146カ国中125位(前年から9ランクダウン)だった。
男女共同参画会議では、イタリア、カナダ、フランス、アメリカ、イギリス、ドイツが女性大臣を送り込む中、議長国を務める日本は“男性”の小倉女性活躍担当大臣、これも期待通り?違和感満載の会議運営となった。米国『タイム』誌が待っていたかのように日本のジェンダー平等の遅れが浮き彫りになったと指摘したが、あまりにも予定調和的批判記事だったためかインパクトは無かった。
今回の男女共同参画会議の直前の6月21日に、自民党は審議不十分のままLGBT理解増進法を成立させている。見かけで男女を区別してはいけない時代が来たとばかりに男性の小倉大臣を、女性以上に女性の気持ちが分かるかもしれない?と登壇させたのではと見るのは穿ち過ぎか。
そもそも歴代23人の内閣府特命担当大臣(男女共同参画)には女性大臣が12人もいたそうだが、女性の社会進出にほとんど変化はなかった。国会議員や閣僚の約90%を男性が占め、上場企業の役員に占める女性の割合が11.4%に過ぎない日本の現状も改めて指摘されたが、「それがどうした?」と言わんばかりの厭世的気分が流れているのが現在の日本社会だ。
一方、国際シンクタンクの経済平和研究所(IEP)が発表した2023年版「世界平和度指数(Global Peace Index)」は、平和度指数の高い国家にアイスランドやアイルランドなどと並んで日本を10位に選んでいる。北欧をはじめ人口が少ない国が上位を占める中、アジアからランクインしたシンガポールと日本だが、人口が1億人を超える国で平和指数が10位以内なのは日本だけだった。
エコノミスト誌が推奨する「世界で最も住みやすい街」ランキングでも、ウィーン、コペンハーゲン、メルボルンとヨーロッパ系の小さな街が上位に並ぶ中、やはり10位に大阪が入って注目されている。大阪は他を圧倒するカオスな巨大都市であるのに、だ。日本はジェンダーギャップが大きく保守的な国だが、「安全で住みやすく、食事がうまくて安い超安定国家」なのだ。
江戸時代の“超安定”封建社会は黒船という外圧に屈して資本主義社会へ扉を開いてしまったが、未だに残る後悔が国際会議で見え隠れしてしまうのかもしれない。

| 23.07.07

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