くうき
2023年の初めに日本ペンクラブ副会長山田健太著「『くうき』が僕らを呑みこむ前に 脱サイレント・マジョリティー」(理論社)と題した児童書が出版された。「空気を読んでばかりいないで自分で考えよう」と子どもたちに呼びかけて民主主義の理念を伝える、日本の将来に対してとても示唆に富んだ本だ。
民主主義や言論・表現の自由の大切さを、挿絵に登場する雲の形をした架空の生き物『くうき』を通して易しく解説する。場の雰囲気によって物事が決まりがちな社会で、子どものうちから自分で考え行動する力を身につけてほしいという願いが込められている。
特にコロナ禍の3年間は『くうき』によって世の中が動いてきた。マスクやワクチン、政府の方針も、一定の科学的根拠はあっても最終的には社会の雰囲気で決まることが多かった。それに慣れてしまうと、多くの人がリスクを避けるようになって同調圧力がかかってくる。反対意見には大きなエネルギーが必要となってしまうのだ。
立教大学経営学部の中原淳教授によると、ここ10年ほど学生たちは「論破」を恐れ、意見や反論を言うことも言われることも嫌がる傾向があるそうだ。教授はそうした若者たちを「いいねいいね世代」と名付けている。Instagramでユーザーの投稿に「いいね!」と反応し承認することに慣れてしまった世代だ。
しかしここに来て、フォロワー数や「いいね!」の数が気になって疲れてしまう人が増えている。SNSが広く普及して「他人からの反応」がすぐに得られる世の中になったことで、「反応しまくる生活」が、実は思っていることが言えない状態を作り出していると教授は忠告する。
日常生活において例えば遊びの行き先も、LINEでの友人の提案にとりあえず「いいね!」と反応し、本当は別の場所に行きたくても意見が割れることの方が嫌だと感じてしまうのが「いいねいいね世代」の特徴だ。
2007年頃「KY」という流行語があった、「空気(K)が読めない(Y)」の略語だ。一部の子ども・若者を中心とした流行語がメディアに取り上げられて全国的に認知度が高まり、2007年ユーキャン新語・流行語大賞にもノミネートされた。
日本では小さいころから「空気を読む」よう躾けられる。長らく封建社会の「上意下達」に慣らされて思考停止した日本人の悲しき性なのだろうか?
「いいねいいね世代」の撒き散らす『くうき』が、日本人がマスクを外せない最大の原因を作っているのかも知れない。
| 23.05.19