trendseye

昭和アイドル

山口百恵、松田聖子、中森明菜 ・・・日本が輝いていた1980年代の女性アイドルに、生まれた時からiPadに触れていたZ世代女子が注目し始めている。「昭和アイドル」には情感豊かな「エモさ」がある。集団化した今のアイドルにはない、這い上がってきた力強さと圧倒的な個の存在感があるからか。
Z世代女子へのインタビューでは、昭和アイドルに対し「自分のやりたいことをやりたい放題やって今を大事にしている感じがある」とか、「歌だけでなく、自分を貫く生き方に共感する」という声が聞かれる。昭和アイドルに課せられていた「リスクを取る」思想に、彼女達は大きく反応しているようだ。
世界中の全ての楽曲がいつでも手に入れられるのがZ世代だ。それなのにサブスクの配信を聞くだけでは満足できず、アナログレコードを求める20代女性が増えているという。ジャケットを眺め、歌詞を読み、置いた盤に針を落とす…。そこに広がるキラキラした世界は、筒美京平、来生たかお、呉田軽穂(松任谷由実のペンネーム)、松本隆らが手掛けた世界だ。
豪華な衣装に身を包んでひとりステージに立ち、一般社会で普通に生きていては感じることのない緊張感や不安、侮蔑といった様々なプレッシャーを背負うことから生まれるカリスマ性。今どきの、グループで歌い踊る「責任分散型アイドル」にはないものだ。
4月3日からNHK BSプレミアムで2013年の朝ドラ『あまちゃん』の再放送がスタート。連日Twitterで関連ワードがトレンド入りするなど、序盤からネットをにぎわせている。能年玲奈(のん)が主演し、岩手県の架空の田舎町・北三陸市や東京を舞台に、内気で引きこもりがちだった主人公のアキが、海女やアイドルとして活動しながら成長する姿を描いたものだ。「じぇじぇじぇ」が流行語大賞になった10年前の作品だが、今春スタートの新作『らんまん』を遥かに上回る盛り上がりを見せているから面白い。昭和アイドルをフィーチャーしていることで、Z世代女子にも注目の作品なのかもしれない。
社会がコンプライアンスに押しつぶされて責任回避型になり、活力が失われていく。首相の国会答弁も全て原稿を「丁寧に」読むだけだ。「間違えないように」「失敗しないように」といった現代社会そのものへの反発がくすぶっている。
デジタルZ世代女子たちは、現代社会にはない昭和の日本社会に満ちていた熱くエネルギッシュな復興力を、昭和アイドルに本能的に感じ取っているのだろう。

| 23.04.21

CATEGORY

  • BOOM
  • FOOD&RESTAURANT
  • LIVING&INTERIOR
  • SCIENCE&TECH
  • TRAVEL
  • TREND SPACE

ARCHIVES


1990年9月~2006年7月までの
TRENDS EYEの閲覧をご希望の方は
こちらへお問い合わせください。
ART BOX CORP.