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e‐fuel

再生可能エネルギーにより生成されたグリーン水素と、主に大気中から回収したCO2で人工的に作られる合成燃料「e-fuel」が今話題だ。これを使う内燃機関はカーボンフリーとされ、SDGs的にも注目の技術だが、同時に極めて政治的な産物でもある。
欧州連合(EU)議会は2月21日、2035年以降二酸化炭素を排出するエンジンを使うクルマの加盟国内での新車販売禁止を議決した。新車販売を事実上EVのみに制限する極端な法案だったが、翌3月25日にはドイツ政府の反対で「e-fuel」を使うエンジン車に限っては例外とする妥協案が追加発表された。
ドイツではフォルクスワーゲンやポルシェ、BMWなどが積極的に「e-fuel」の研究開発に投資を進める。日本でも経産省の肝煎りでトヨタやマツダが開発を進めるが、これは過去100年に亘るエンジン関連のパテントの利益を守るためだ。
内燃機関のハイブリッド化で世界をリードする日本は、EVの普及率は限定的になるという見通しを持っている。KPMGコンサルティングの試算によると、2030年の日本の自動車保有台数におけるEV比率は17.4%で、80%以上はハイブリッド車を含む内燃機関が占めるとされる。トヨタの中途半端なEV開発姿勢もそこからきているのか。
一方、昨年11月にエジプトで開催された国連のCOP27でウクライナ政府のチームが、ロシアの侵略戦争による温室効果ガスの排出量は、侵攻が始まった2月からの約7か月間で9729万トンに達しオランダ1カ国の総排出量を超えたと報告。しかも西側諸国によるロシアへの経済制裁は全く効果が出ていない。先進国によるロシア産石油天然ガスの購入が減った分を中国・インドを始めとした新興国が買いまくり、ロシア経済は全く影響を受けないどころか逆にメリットを得るという皮肉な結果となっているのだ。
ドイツ政府による「e-fuel」の提案は、そうしたEUの対ロシア包囲網の綻びを見てのものだろうが、EVへの転換も早晩電池開発競争を呼び、原料のコバルト・マンガン争奪戦が起こることは自明だ。その時は中東に代わり、今度はロシア、モンゴル、中央アジア諸国が資源大国として台頭するわけで、ロシアは困らない。
「e-fuel」は、「エネルギー保存の法則」との戦いだ。コストで勝利できるだろうか?
資源の乏しい日本にとっても「e-fuel」は切り札だが、判断を誤れば2035年には「トヨタ、テスラに買収される!」というニュースすら覚悟しなければならない。

| 23.04.07

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