縄文度
東京大学大学院理学系研究科の渡部裕介特任助教と大橋順教授らは、全国1万人の遺伝子検査データのDNA解析から、県別の住人の言わば 「縄文度」なるものを推し測り、今年2月に米国科学誌「iScience」オンライン版に発表している。
従来の文化人類学に分子生物学的手法を導入し、日本人の1-2割が縄文系で8-9割が弥生系とする漠然とした歴史概念に深く踏み込むことで、日本人が二大ルーツそれぞれの生活様式に適応した見かけや特徴を持っていることが明らかになった。
この研究結果により東北地方や鹿児島などは「縄文度」が高く、近畿や四国などは低いことも分かった。特に沖縄は「縄文度」が飛び抜けて高く、北海道のアイヌ民族が最も高いとする定説を覆した。北海道は明治以降に各地から移り住んだ人々によって「縄文度」が急速に薄まったようだ。
本州では中国地方、特に島根県の「縄文度」が高いという興味深い結果が出ている。出雲の国のオオクニヌシの国作りの神話が縄文系渡来人の神話だったことをDNA解析が裏付けている。
ルーツに由来する遺伝的変異は、私たちの体質や病気とも結びついているようだ。縄文系渡来人は弥生系渡来人に比べ身長が低めで太りやすく、血糖値や中性脂肪が上がりやすい特質を持っている。これは食料が不安定な狩猟採集生活から、食べられる時に脂肪を貯め込み飢餓状態でも血糖値を保つようになった体質から来ているとのこと。
弥生系渡来人は定住して農耕を行うが故に急速に人口が増えたが、人口密度の高い集落は感染症に弱く、血液中の「好酸球」という免疫細胞や「CRP」という炎症に関わる物質が増え易い。この変異によって逆に感染症から身を守るすべを身につけて来たようだ。
日本列島にヒトが居住し始めたのは最終氷期以降、約3万8千年前と考えられている。そして約1万6千年前には文明的にも高度な縄文時代が始まる。弥生時代は3000年前頃から始まり、2500年前頃から各種古墳を残している。
アジア大陸の集団から数万年前に分化し日本列島に渡った縄文渡来人は、島国故に長期間大陸の集団から孤立。そのため現代日本人には他の東アジア人には見られない「縄文人由来変異」が蓄積された。それらが現代の日本人にも引き継がれているのは驚きだ。
「縄文度」に注目が集まる中、「日本に現存する最古の書物は712年に書かれた『古事記』だ」とする日本史を学ぶだけでは、本当の日本を知ることはできない。
| 23.03.17