ヒゲの力
2000年の第73回アカデミー賞を獲得したリドリー・スコット監督、ラッセル・クロウ主演の「グラディエーター」が再放送され、今、何故か人気だ。
西暦180年の古代ローマ、英雄マキシマス将軍率いるローマ軍はゲルマン軍を打ち破り帝国に平和をもたらす。皇帝アウレリウスはマキシマスに玉座を譲る意向だったが、彼は妻子と平凡に暮らしたいと辞退。一方野心的な王子コモドゥスは父を殺して皇位を奪い、マキシマスを反乱者と呼んで死刑を宣告。マキシマスは逃亡するが妻子は無残に殺される。やがて奴隷商人に連れ去られた彼は剣闘士(グラディエーター)としてローマのコロシアムに戻り、皇帝コモドゥスに復讐を果たすというストーリーだ。
ラッセル・クロウ演じる将軍マキシマスは、体格が似ているウクライナのゼレンスキー大統領とイメージが重なる。元コメディアン俳優のゼレンスキーがヒゲをマキシマスと同じカットにしてロシアのプーチン(皇帝)と闘うことで、映画「グラディエーター」を地でいくということか。欧米社会に於いてヒゲがイメージに及ぼすインパクトは、日本人が思うよりも遥かに強い。
男性の脱毛は欧米では一般的だが、日本では未だ男性全体の5%と少ない。だが 20から30代の男性300人を対象にアンケートを実施した脱毛サロン「脱毛ラボ」のイマドキ男子の脱毛事情調査によると、経験者の脱毛処理の内、圧倒的なのはヒゲ脱毛の62.9%だ。続いてすね毛が44.4%、へそ毛38.4%、わき毛33.1%、アンダーヘア30.5%、胸毛は29.1%で、見えない場所もきれいにしたいという美意識が次第に高くなっているようだ。
アメリカ人男性の「ムダ毛処理に関する調査」では、69%がアンダーヘアを整えているという驚きの結果が出ている。全てを除去する ”ハイジニーナ”は17%に上るそうだが、あくまでも男らしさを演出するための脱毛を意識しているとか。さらに「適切なムダ毛処理が職業上の成功に必要不可欠」と考える傾向も強いようだ。
欧米ではヒゲは ”男らしさの象徴” と見なして手入れする人が多いが、逆に日本は清潔感や合理性でツルツル脱毛を好む傾向が強い。
ロシアの侵攻を受け1年が経過したウクライナでは、戦時下であっても古代ローマを舞台に復讐に燃える剣闘士「グラディエーター」ばりに大統領がヒゲをきちんと手入れし、動画配信に余念がない。復讐を果たすリーダーのイメージをヒゲで作り出しているのか。
ゼレンスキー大統領の「ヒゲの力」は「ウクライナ支持、反プーチン」という世界的雰囲気を創出し、逆のことを言いづらい状況を作ることに大きく貢献していると言える。
| 23.03.03