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パンのフェス

東日本最大級のパンのイベント「パンのフェス」が3月3日から5日まで横浜赤レンガ倉庫で開催された。「パン好きのパン好きによるパン好きのための祭典」として、初回の2016年以来これまで110万人以上の来場者があったそうだ。今年は全国から55店舗が集結し、3日間で15万人以上が来場、お目当ての有名店のパンを求めて開場前から連日長蛇の列ができた。
日本人は小麦をほとんど輸入に頼っているのに、どうしてこんなにパンが好きなのだろうか。「日本人の主食は何か?」と聞かれて「コメ」と答える人は多いと思うが、金額ベースでみると最早そうではない。総務省の家計調査によると、1世帯当たりのパンとコメの品目別年間支出額は2010年ごろに同水準となり、14年からはパンが上回っているのだ。
アメリカの占領政策によって、戦後アメリカ産の余剰小麦を「支援」として受け入れる形で学校給食の「パン食」化が進んだ。1954年の「学校給食法」の成立で、日本はアメリカ産小麦の主たる輸入国にされてしまった。また1950年代後半から1960年代には、「コメばかり食べていては日本人の身体は強くならない」と、日本政府自らがパンや畜産物(動物性タンパク質・乳製品)などを食する「食の洋風化」を奨励した。
輸入小麦を政府が買付け、国内産小麦を補助金で維持すると共に、米(コメ)の価格を上げるために減反政策をとったのだ。「これではまるで日本の米生産を減らすために、アメリカの小麦農家を保護してきたようなものだ」と、キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は言う。
その結果50代以上の日本人は小さい時から「パン食」に馴染み、食料自給率を犠牲にして「朝食にトーストを食べる」暮らしに憧れを抱いてきた。政府は日本人の食事内容を輸入食品に大きく偏向させて来たのだ。
ところが現代の日本人の80~90%は小麦が合わない体質だと言われる。小麦に含まれている主なたんぱく質のグルテンを摂取すると、免疫細胞がそれに反応してアレルギー症状を引き起こすのだ。アメリカと日本の国策によって作られた日本人の「パン好き」も、3千年以上続く稲作による日本人のDNAを変えることはできなかったようだ。
ロシアによるウクライナ侵攻を受けて世界的な小麦の価格高騰が懸念される中、素材を厳選するパン屋が増え、「地産地消」の方向性が強くなったという。
農林水産省はそろそろ小麦輸入への「政府買付価格」の適用をやめ、関連外郭団体を一掃する時だろう。

| 23.03.24

縄文度

東京大学大学院理学系研究科の渡部裕介特任助教と大橋順教授らは、全国1万人の遺伝子検査データのDNA解析から、県別の住人の言わば 「縄文度」なるものを推し測り、今年2月に米国科学誌「iScience」オンライン版に発表している。
従来の文化人類学に分子生物学的手法を導入し、日本人の1-2割が縄文系で8-9割が弥生系とする漠然とした歴史概念に深く踏み込むことで、日本人が二大ルーツそれぞれの生活様式に適応した見かけや特徴を持っていることが明らかになった。
この研究結果により東北地方や鹿児島などは「縄文度」が高く、近畿や四国などは低いことも分かった。特に沖縄は「縄文度」が飛び抜けて高く、北海道のアイヌ民族が最も高いとする定説を覆した。北海道は明治以降に各地から移り住んだ人々によって「縄文度」が急速に薄まったようだ。
本州では中国地方、特に島根県の「縄文度」が高いという興味深い結果が出ている。出雲の国のオオクニヌシの国作りの神話が縄文系渡来人の神話だったことをDNA解析が裏付けている。
ルーツに由来する遺伝的変異は、私たちの体質や病気とも結びついているようだ。縄文系渡来人は弥生系渡来人に比べ身長が低めで太りやすく、血糖値や中性脂肪が上がりやすい特質を持っている。これは食料が不安定な狩猟採集生活から、食べられる時に脂肪を貯め込み飢餓状態でも血糖値を保つようになった体質から来ているとのこと。
弥生系渡来人は定住して農耕を行うが故に急速に人口が増えたが、人口密度の高い集落は感染症に弱く、血液中の「好酸球」という免疫細胞や「CRP」という炎症に関わる物質が増え易い。この変異によって逆に感染症から身を守るすべを身につけて来たようだ。
日本列島にヒトが居住し始めたのは最終氷期以降、約3万8千年前と考えられている。そして約1万6千年前には文明的にも高度な縄文時代が始まる。弥生時代は3000年前頃から始まり、2500年前頃から各種古墳を残している。
アジア大陸の集団から数万年前に分化し日本列島に渡った縄文渡来人は、島国故に長期間大陸の集団から孤立。そのため現代日本人には他の東アジア人には見られない「縄文人由来変異」が蓄積された。それらが現代の日本人にも引き継がれているのは驚きだ。
「縄文度」に注目が集まる中、「日本に現存する最古の書物は712年に書かれた『古事記』だ」とする日本史を学ぶだけでは、本当の日本を知ることはできない。

| 23.03.17

グリーンなパリ

2024年夏のオリンピックを控え、パリでは今関連の工事が急ピッチで進んでいる。「オリンピック史上最もグリーンな大会」を目指すそうだ。東京オリンピックがハコモノ建設中心の汚職に満ちた史上最低のオリンピックと言われる中、パリは住人の意見を取り入れ、グローバルな環境都市への生まれ変わりを目指して独自のアプローチをしている。
エッフェル塔からイエナ橋を渡ってセーヌ川を越えトロカデロ広場に至る地域約45ヘクタールを、緑地化して巨大な庭に変えるという。市内の自転車レーンを充実させて車優先だった街を人間中心に変え、広場はゆったりとした歩道に、環境に配慮した新建築が次々と建設されるそうだ。オリンピックをきっかけにパリは都市と人間生活の関わりを見直し、EV中心のカーボンニュートラルな新しい都市造りを行う決意を見せている。
近代オリンピックは、フランスの貴族であったピエール・ド・クーベルタン男爵によって考案された。彼は普仏戦争で屈辱的な敗北を喫したフランスに再び活気をもたらすために、1894年に欧州や北米のスポーツ団体、ギリシャ国王やイギリス皇太子などの貴族たちを集めて、ギリシャのオリンピック精神を近代オリンピックという形で再生復活させたのだ。
しかし現代のオリンピックは「五輪」という世界経済イベントとなり、開催国が抱える経済問題を解決するために巨額を投じることは是とされた。その結果、東京五輪は建設会社の利害で予算獲得の草刈場の様相を呈し、当初予算7340億円が3兆6800億円になるという、先進国とは思えぬほど腐臭漂うものとなった。
パリオリンピックの競技は市の中心部と北に位置するサンドニ地区に分かれて開催され、選手村はサンドニ地区に作られる予定だ。同地区はさまざまな国から流れてきた人たちが暮らし、貧困層が多く犯罪発生率も高い。15年に起こったパリ同時多発テロの源流となった問題の地区だが、五輪開催でサンドニを再開発し雇用も生み出すのが狙いだという。
東京オリンピックのテーマが「多様性と調和」だと認識する人はどれだけいただろう?国は一体どういう社会の課題を解決しようとしていたのだろうか?
高い志を持って自国の発展をイメージできない国家には衰退しかない。古臭い会社にオリンピック運営をただ丸投げする日本。自前で旅客機の開発もままならず、ロケットすらも打ち上げられない企業に国家防衛を託す依存型の国は、アメリカの廃棄するトマホークを爆買いするしかないのか。

| 23.03.10

ヒゲの力

2000年の第73回アカデミー賞を獲得したリドリー・スコット監督、ラッセル・クロウ主演の「グラディエーター」が再放送され、今、何故か人気だ。
西暦180年の古代ローマ、英雄マキシマス将軍率いるローマ軍はゲルマン軍を打ち破り帝国に平和をもたらす。皇帝アウレリウスはマキシマスに玉座を譲る意向だったが、彼は妻子と平凡に暮らしたいと辞退。一方野心的な王子コモドゥスは父を殺して皇位を奪い、マキシマスを反乱者と呼んで死刑を宣告。マキシマスは逃亡するが妻子は無残に殺される。やがて奴隷商人に連れ去られた彼は剣闘士(グラディエーター)としてローマのコロシアムに戻り、皇帝コモドゥスに復讐を果たすというストーリーだ。
ラッセル・クロウ演じる将軍マキシマスは、体格が似ているウクライナのゼレンスキー大統領とイメージが重なる。元コメディアン俳優のゼレンスキーがヒゲをマキシマスと同じカットにしてロシアのプーチン(皇帝)と闘うことで、映画「グラディエーター」を地でいくということか。欧米社会に於いてヒゲがイメージに及ぼすインパクトは、日本人が思うよりも遥かに強い。
男性の脱毛は欧米では一般的だが、日本では未だ男性全体の5%と少ない。だが 20から30代の男性300人を対象にアンケートを実施した脱毛サロン「脱毛ラボ」のイマドキ男子の脱毛事情調査によると、経験者の脱毛処理の内、圧倒的なのはヒゲ脱毛の62.9%だ。続いてすね毛が44.4%、へそ毛38.4%、わき毛33.1%、アンダーヘア30.5%、胸毛は29.1%で、見えない場所もきれいにしたいという美意識が次第に高くなっているようだ。
アメリカ人男性の「ムダ毛処理に関する調査」では、69%がアンダーヘアを整えているという驚きの結果が出ている。全てを除去する ”ハイジニーナ”は17%に上るそうだが、あくまでも男らしさを演出するための脱毛を意識しているとか。さらに「適切なムダ毛処理が職業上の成功に必要不可欠」と考える傾向も強いようだ。
欧米ではヒゲは ”男らしさの象徴” と見なして手入れする人が多いが、逆に日本は清潔感や合理性でツルツル脱毛を好む傾向が強い。
ロシアの侵攻を受け1年が経過したウクライナでは、戦時下であっても古代ローマを舞台に復讐に燃える剣闘士「グラディエーター」ばりに大統領がヒゲをきちんと手入れし、動画配信に余念がない。復讐を果たすリーダーのイメージをヒゲで作り出しているのか。
ゼレンスキー大統領の「ヒゲの力」は「ウクライナ支持、反プーチン」という世界的雰囲気を創出し、逆のことを言いづらい状況を作ることに大きく貢献していると言える。

| 23.03.03

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