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ヌン活

その年最も話題となった言葉を選ぶ「現代用語の基礎知識選 2022ユーキャン新語・流行語大賞」のノミネート30語が発表された。今年は特に「ヌン活」に興味を惹かれる。
「ヌン活」とは奇妙な言葉だ。直ぐに何を言っているか分かる人、特に男性はわずかだろう。ホテルのラウンジやお洒落なカフェで、プレートに盛られたプチフールやサンドイッチをつまみながらゆったりと友達同士お喋りを楽しむ“アフタヌーンティー活動”の略称だそうだ。
以前から女性たちに人気があった有名ホテルのアフタヌーンティーは、コロナ禍でお酒が制限される中でもしっかり生き残り、さらに進化していた。日本で初めてアフタヌーンティーを始めたとされるホテル椿山荘では、新メニューが発表されると瞬く間に席が予約で埋まるという。
「ヌン活」の担い手は明らかに生活に余裕のある“女性”たち。日本マーケティング研究所が全国の20才から69才の女性5,963人対象に2022年1月に行った調査では、アフタヌーンティーの全国推計市場規模は約2,652億円に上ると予測されている。
女性たちが自分の時間を最も充実させたいと考える時間帯は11時から17時で、フルタイム勤務の女性たちは週末に、専業主婦は平日の日中にそうした活動を行っている。亭主が引退して在宅時間が長くなるとその生活は崩壊するようだが…。
彼女たちは贅沢をしたい気持ちが溜まると、優雅な時間を過ごすことで自分を癒してきた。コロナ禍ではアルコールを伴う飲食が制限され、許された時間内での「ヌン活」がますます貴重になっているようだ。
そもそもアフタヌーンティーとは、英国が最も発展したヴィクトリア朝時代に、侯爵夫人たちが持て余す午後の時間を世界中から集まるお茶やお菓子で優雅に過ごすために始め、それがやがて上流階級の社交の場になったものだ。現代のコロナ禍においても、日本のアフタヌーンティーはその優雅さで特別貴重なお喋りの場を作りだしたのだろう。超高級ホテルほど予約が取りづらいそうだ。
日本文化には“コンパクト化”して美を昇華させるという特徴がある。食においてはお弁当がその最たる例だが、「ヌン活」にも似ているところがありそうだ。工夫を凝らした美しいお菓子の“小宇宙”に、茶の湯の文化に通じるものがある?
現代の優美な時間を彩る爛熟した「ヌン活」には、日本の女性が実は社会進出したくない秘密も隠されていそうだ。日本のプチブル専業主婦は、世界で最も優雅なアフタヌーンティーを楽しんでいるのかもしれない。

| 22.12.02

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