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上海ファイブ
世界がコロナ禍から解放されて対面での国際会議が目白押しだ。COP27(11/6-18)、G20バリ・サミット(11/15-16)、タイAPEC(11/18-19)と立て続けに開催された。ところが米国が参加を拒否されているSCO(上海協力機構)の首脳会議が9月15-16日にウズベキスタンのサマルカンドで開かれたことは、日本をはじめ西側諸国ではあまり報道されていない。
SCOはもともと「上海ファイブ」と呼ばれ、中国と国境を接するロシア、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタンの5カ国が上海に集まり、1996年に「国境地域信頼醸成協定」を締結。その後テロリストの排除や分離主義、過激主義の取り締まりを目的に、イスラム原理主義、国際テロ、民族紛争、麻薬や武器の密輸排除への共同対処まで機能拡充したのが始まりだ。
2001年6月にウズベキスタンが加わり、「上海ファイブ」は「上海協力機構(SCO)」に格上げ、その後インド、パキスタンが加わり8カ国になった。現在イランとベラルーシが加盟手続き中で、近く10カ国体制になるようだ。中央アジアにおいて米国抜きでの大きな軍事・経済・文化共同体勢力に育ってきている。
今年のSCOの会議には中国の習近平国家主席、ロシアのプーチン大統領、インドのモディ首相を中心とした加盟10か国に、オブザーバー国(モンゴル)、対話パートナー国(トルコ、UAE、サウジアラビア)を合わせて計14か国の首脳が出席した。求心力の低下を露呈したG20に比べ、SCOの纏まりは13世紀後半フビライ時代のモンゴル連邦の再来を思わせる。
そして米国がイラつくのはSCOの驚くべき経済発展のスピードだろう。国連統計(2021年)によると、SCO加盟国の面積はユーラシア大陸の約6割、人口は世界全体の4割強、域内総生産は世界GDPの24%に上る。2001年の域内貿易は世界貿易のわずか5%だったが現在は20%に迫ろうとしているのだ。2030年までには中国のGDPが米国を抜くであろうことを考えると、SCO中央アジア経済圏の存在感は途方もなく大きくなってきている。
西遊記で7世紀に玄奘三蔵が経典を求めて歩いた火焔山一帯は、今思えば天然ガスが自然発火していたのだと思われる。
日本は90年代に、マレーシアのマハティール首相のラブコール「Look East」政策を振って米国にすり寄った。爾来30年にわたって米国のポチとなってASEANの経済発展から取り残される辛酸を舐めている。
地勢学的にも「上海ファイブ」と「G7」の狭間に立つ日本は、今度は機を見るに敏となり、なりふり構わず変化するべき時だ。
| 22.11.25
スポーツウォッシング
サッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会がいよいよ11月21日に開幕する。ロシアによるウクライナ侵攻の収束も見えない中、国際紛争下で開催されるこの世界的なメガイベントは、ここに来て「スポーツウォッシング」だと批判されている。ワールドカップを主催するFIFAだが、汚職で辞任に追い込まれた前会長プラッター氏ですら「カタールを選んだのは間違いだった」と言いだしているようだ。
「スポーツウォッシング」とは、個人、グループ、企業、時には政府が不正行為によって傷ついた評判を改善するためにスポーツを利用する際の用語、「スポーツ」と不都合を覆い隠す「ホワイトウォッシング」からできた言葉だ。スポーツイベントの主催、チームの購入またはスポンサー・競技への参加を通じて問題から周囲の注意を逸らし、自らのイメージアップに繋げることが多い。
「スポーツウォッシング」と聞いて直ぐに思い出されるのは、1982年に英領フォークランド諸島にアルゼンチン軍が侵攻したフォークランド戦争4年後の、W杯メキシコ大会の準々決勝だ。奇しくもイングランドとアルゼンチンが対戦することになった。
マラドーナは試合前のインタビューで、おおぜいの記者を前に「違う、違う、違う。これはサッカーの試合だ」と大見得を切ったが、試合開始51分にヘディングに見せかけ?ハンドでゴールを決めた。
それで終わればマラドーナの悪名は後世にまで語り継がれ、記憶に残るハンド先制点と言われ続けただろう。ところがその直後、彼は脅威の5人抜きによる2点目をあげ世界中の目がテレビにくぎ付けになった。この追加点でアルゼンチンはイングランドを下し、マラドーナは国の英雄「神」となった。そして彼のハンドは「神の手」と呼ばれ歴史に刻まれたのだ。自国勝利への欲求は誰にも止められなかった!?
今回の開催国カタールは、大会を前にLGBT(性的マイノリティー)への差別、移民労働者の権利の蹂躙、表現の自由などにまつわる論争が続き、国際社会に根深い不信感を与えている。そしてカタール政府は、有り余る石油マネーによる豪華な大会運営を通じて「スポーツウォッシング」しているとの批判が多いのだ。
カタールが「(黄金の)神の手」を使って大会運営を成功させるのか、FIFAが余りにもあからさまな政治的金満体質を露呈して自滅するのか、今大会は勝敗の行方以外にも見どころ満載と言える。
日本の元総理らによるオリンピック開催をめぐる多額の賄賂を「スポーツウォッシング」させないためにも、日本人にはここでW杯の表も裏も知る必要があるだろう。
| 22.11.18
Sphere(スフィア)
高島屋が新年1 月2 日の初売り福袋の目玉として「Sphere(スフィア)3Dプリンターハウス」の販売を予定しているそうだ。「Sphere」は兵庫県に本拠を置く住宅系スタートアップ企業のセレンディクス社が意匠出願を行った“未来デザイン住宅”で、3D プリンターを使って24時間で作り上げることができるという。
今回計画中の約10平米のタイニーハウスの素材はコンクリートで、日本よりも厳しい断熱性能のヨーロッパ基準をクリア。リブ補強がされた2 重構造の球体デザインは、物理的にも耐震強度が高い設計になっている。ただし屋内での電力使用は可能だが水回りの対応はこれからだ。
「Sphere」の近未来的なデザインは、ニューヨークのチャイナタウンを拠点に活動する建築家・曽野正之氏によるもの。彼のチームがNASA主催の火星基地設計コンペで、「宇宙線から居住者を保護する」「資材は現地調達」「3Dプリンターで建設可能」などの条件下、外壁を火星の氷でつくる「マーズ・アイス・ハウス」のコンセプトを提案、優勝したことでも有名だ。NASAに評価されたことで、セレンディクスパートナーズ(現セレンディクス)の目に留まったようだ。
日本の戸建住宅は欧米に比べて割高で、日本経済最大の障害は500兆円を超える住宅ローン残高だと言われて久しい。30代40代の働き盛りの国民の経済力は、30年以上にも渡って小さな “家”の支払いに吸収され続けているのだ。しかも日本の住宅は欧米に比べ耐用年数が約40年と半分しかなく、中古マーケットが全く育っていない。
すなわち、ローンを返し終わった頃には価値が半減し、中古住宅が値上がりする欧米に比べ住宅が資産形成に全く役に立っていないことになる。
その上、日本では木造住宅建設の担い手である大工就業者数の減少が深刻で、日本建設業連合会によると2010年には約40万人まで減少、2025年までに更に半分に減ると言われている。建設作業員の高齢化で人手不足が進むことで、今後建築コストの大幅な上昇も見込まれる。
「Sphere」は日本の住宅供給に革命をもたらすだろう。3Dプリンターが近い将来50平米300万円、100平米500万円ほどの家を24時間以内?に市場に投入できるようになる可能性があり、耐用年数も倍増させる時代の到来を予感させる。
価格破壊と資産形成の実現で家を「一生の買い物」から解放し、住宅ローン支出をエンターテイメント支出に変えていく時代がやってくるだろうか。
| 22.11.11
コ・イ・ヌール
英国王室が国王チャールズ3世の戴冠式を来年5月6日に執り行うと発表した。戴冠式でカミラ王妃が着用すると噂される王冠の由来がさっそく話題になっているそうだ。王妃の王冠にはかつて世界最大といわれたインド産のダイヤ「コ・イ・ヌール(Koh-i-Noor)」がリセットされることになっているからだ。
「コ・イ・ヌール」とは、12世紀頃インドで発掘されたといわれる当時世界最大のダイヤは「コ・イ・ヌール」、ヒンズー語で”光の山”を意味する。歴代のムガル帝国の皇帝をはじめイランやアフガニスタンの王族が所有していたこともある「支配の象徴」とされてきたものだ。19世紀に南アフリカがダイヤ産出地の中心になるまで、インドは世界一のダイヤ産出国でもあった。
ヴィクトリア女王(1837-1901)の時代に植民地化が進んだインドは、1877年遂に英国領インド帝国となり、女王は初代インド皇帝となる。そして「コ・イ・ヌール 」も英国東インド会社を通じて皇帝ヴィクトリアに献上されたのだ。
ヴィクトリア女王が逝去しエドワード7世が王位に就いた1901年、「コ・イ・ヌール 」はその妻アレクサンドラの王冠にリセットされて戴冠式でお披露目された。その後は歴代の王妃の王冠にリセットされるのがしきたりとなり、現在はエリザベス皇太后の王冠の宝石としてロンドン塔に展示されているそうだ。
インドのムルム大統領はエリザベス2世の逝去に際し、「70年にわたる在位の間、1947年に独立したインドと英国の関係は大きく発展し強化された」と称えた。しかしインド国内のTwitterでは「コ・イ・ヌール」がトレンド入りし、「インドから略奪された」「早く返還を」との声が高まっている。
このダイヤをめぐっては1947年の独立時からインドとパキスタンがたびたび返還を求めてきたが、英国政府は後ろ向きだった。2010年に返還について問われた当時のキャメロン首相は、「一つのものに応じれば、大英博物館は空っぽになるだろう」と答えている。今回の戴冠式で「コ・イ・ヌール」を巡る問題が再燃する恐れがあり、「政治的緊張感も大幅に高まっている」と報道される。
その渦中、なんと英国憲政史上初のインド系宰相が誕生した。当然インド国民はリシ・スナク首相誕生に歓喜し、インド最大の英字紙タイムズ・オブ・インディアは「誇り高きヒンズー教徒がイギリスの新首相に就任」と報じた。
果たして今「コ・イ・ヌール」の返還をインドから正式に要請されたら、スナク首相は何と答えるだろう?そして、カミラ王妃はどうする?
| 22.11.04