セルフレジ
8月24日に三重県のスーパー「バロー北浜田店」で、「従業員の人員不足により、しばらくの間セルフレジは封鎖いたします」という紙が張り出された。人手不足を解消するために導入したセルフレジが人手不足を招いたのでは本末転倒、とTwitterで話題を呼んでいる。
農林水産省が2018年2月に開いた「働く人も企業もいきいき食品産業の働き方改革検討会」という長い名前の会合で、全産業の欠員率2.5%に対し、小売業は2.9%と0.4ポイントも高いとの報告があったそうだ。特に「営業・販売部門」ではそれが顕著で、作業の機械化など迅速な対策が求められた。どうもこの報告が大手スーパーのセルフレジ導入に繋がったようだ。
セルフレジには、商品を購入する客自身がスキャン・会計・袋詰め全てを行うものと、レジ打ちは店員が行い会計と袋詰めは客が行うセミセルフとがある。どちらも人件費の削減効果を狙って開発されたが、客が慣れないと使いづらく、導入後は従業員のサポートが必要だった。その渦中にあって経費対効果が悪化し、セルフレジ封鎖という本末転倒な事態に至ったらしい。
日本には同様な、意図に反した本末転倒な事象が結構多い。その代表格が1997年から試験導入された有料道路のETCシステムだろう。2006年から本格導入されたが、有人の一般ゲートは併設されたままだった。その後2015年には5000万台以上の車にETCが搭載され、2021年4月時点で高速道路におけるETC利用率は全国平均93.3 %となった。首都高速道路では週平均で96 %を超えている。それでもなお、この残り数%を切り捨てないで一般ゲートを残しているのが日本社会だ。
どんな人も切り捨てない社会を目指すのは尊いことだが、それにより多くの人々の効率が阻害され経済成長の重荷になるのは問題であろう。新システムへの切り替えの潔さがないことも、永遠に過渡期ジレンマが続くように思える日本社会の切れ味の悪いところだ。
マイナンバーカードもしかり。導入しておきながら旧来システムも並走させることで普及が遅れ利便性に欠け、いずれ住基カードのように溶けてしまいかねない。ICチップ付カードも、端末投資が遅れその優位性が出てこない。新システムに馴染めない高齢者に優しい国だと言ってしまえばそれまでだが、投資すれども事業効率が上がらないとすれば、いずれ国際競争に負ける。
セルフレジ封鎖問題は単なる小売業界の矛盾として終わらないだろう。日本という国が「実は資本主義国家ではない」ことを示唆しているからだ。
| 22.09.02