中山路
6月17日に中国3番目の空母となる「福建」が進水した。福建省の目の前が台湾だから意味深だ。福建は排水量8万トンを超え、甲板にはリニアモーターによって効率的に艦載機を射出する電磁式カタパルトを装備している。世界でも米海軍の最新鋭原子力空母「ジェラルド・R・フォード」にしか搭載されていないという装置だ。いよいよ中国人民解放軍による台湾の併合が真実味を帯びてきた。
ところで政治思想に拠らず、中国大陸及びシンガポール、台湾を含む華僑系大都市には必ず「中山路(ちゅうざんろ)」と呼ばれる通りがある。横浜中華街でも中山路は有名だ。これは中華人民共和国では革命の父、台湾では国父と呼ばれている孫文(号は中山、字は逸仙)の号「中山」から来ている。あらゆる中国に「中山路」があるとすると、その意味は余り穏やかではないかもしれない。
中国古代からの君主制を廃し民主的共和制国家の樹立を目指した孫文による1911年の辛亥革命は、異民族清朝(後金)の支配を終わらせ、漢民族による中国(中華民国)を復活させるものだった。そのため中華人民共和国においても、台湾及び世界中の華僑社会においても孫文は等しく高い評価を得ている。当時の日本でも孫文の「大アジア主義」への評価は高く、中国共産党が1921年に中華民国で樹立されたことを考えると孫文の影響力の大きさが分かる。
孫文は1924年に神戸に立ち寄り、11月28日に神戸高等女学校に3,000人余りの聴衆を集めて「大アジア主義」に関する有名な講演を行っている。その後の日本軍によるアジアへの進出(侵略)の思想的礎となるような講演だった。第二次世界大戦の敗戦で日本の大東亜共栄圏の夢は水泡と帰したが、孫文の「中山路」が歴史から消え去ることはなかった。
時は過ぎて2013年7月、中国政府の公式見解ではないとしながらも、「中国新聞網」や「文匯報」などに中国は2020年から2060年にかけて「六場戦争(六つの戦争)」を行うとする記事が掲載された。2020年から先ず台湾を取り返し、2028年に南沙諸島を奪回、2035年から南チベットを手に入れ、2040年以降日本から尖閣諸島と沖縄を奪回、2045年に外蒙古を併合し、2055年からロシア帝国が清朝から奪った外満州、江東六十四屯、パミール高原を取り戻して国土回復を終えるとしている。
中国人民解放軍を名乗って侵攻する限り、台湾の併合は習近平の野望というよりも孫文の想いが今も生きているということだろう。
「一帯中山路」とでも言うべき孫文の中国統一の戦いは、現在進行形なのだ。
| 22.07.08