ドクメンタ
ドイツのカッセルで5年に1度開催される世界的な同時代美術展「ドクメンタ15」が、「グローバルサウス」をテーマに2022年6月18日に始まった。時を同じくして6月26日から3日間、ドイツのエルマウでG7のトップ会合が開かれたのは単なる偶然だろうか。
第1回「ドクメンタ」は、1955年に当地在住の美術家、建築家、教師でもあったアルノルト・ボーデが提唱し開催された。戦後ドイツの芸術の復興を掲げ、ナチ独裁体制下で退廃芸術として弾圧されたモダン・アートの名誉回復をはかり、20世紀の重要な前衛芸術運動の作家たち(パブロ・ピカソ、ピエト・モンドリアン、ジャン・アルプ、アンリ・マティス、エルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナー、エミール・ノルデほか多数)の業績を振り返る展覧会であった。ボーデのこの計画は国の内外から大きな反響を呼び、以後「ドクメンタ」は現代(同時代)美術の動向を映し出す展覧会として確立されてきた。
「ドクメンタ」は常に時代を切り拓く精神を重視するため、これまでも民族主義をめぐる論争や事件に度々見舞われて来た歴史がある。今回はインドネシアのアート・コレクティブ、ルアンルパがアジア初の芸術監督として迎えられ、あらゆる意味でこれまでとはまったく異なる世界観を表現して話題を呼んでいる。
一方、毎年6月はフランスの大学入学資格を得るバカロレア(統一試験)の季節だ。専攻を問わず全員に課される哲学の選択問題に、今年は「芸術活動は世界を変えるか?」と出題されたそうだ。
「哲学」はナポレオン・ボナパルトが1808年にバカロレアを創設した当初から試験科目になっている。「ディセルタシオン」(討議、討論)という小論文を4時間以内に書くことが義務付けられ、人間の本質を問うのだ。「弁証法(Dialectic)」的な論文を書く力を持つことを、リーダーになる条件として高校3年生に要求する。
ところでこの「芸術活動は世界を変えるか?」という設問は、新型コロナウイルスの感染拡大の中、文化、芸術、エンターテイメントの領域で、アーティストやクリエイターの活動を極端に制限し、あたかも「芸術活動」は不要不急であるかのように抑圧した日本にとって、どうしても克服しなければならないタイムリーな課題である。
不確実性が高まる社会環境下だからこそ、G7に参加した日本の首脳や同行したスタッフ、マスコミのうち何人が「ドクメンタ」に立ち寄ってから帰ろうとしたのか、に興味がある。
「人は経済(パン)のみにて生くるものに非ず!」ではないだろうか。
| 22.07.05