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競争の番人
7月11日にスタートしたフジテレビ月9ドラマ「競争の番人」は、杏と坂口健太郎のW主演で「公正取引委員会」が舞台だ。カルテル・談合等を取り締まる独占禁止法の番人である公取の実態がTVドラマで取り上げられるのは、おそらく史上初のことだろう。
公取が何であるかを知らない人にとってはその仕事ぶりを見るだけでも興味深く、時節柄偶然とは思えないくらい良いところに目を付けたドラマだと放送前から注目されていた。原作は宝島社主催の第19回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した新川帆立による同名の作品で、講談社「小説現代」に連載され、この春に単行本化されたばかりだ。
公取の実際の独占禁止法違反事件の審査活動とはかけ離れているとか、小説通りであるとすれば違法調査だなどという専門的指摘もあるが、その実態が世の中にほとんど知られていないだけに大きなインパクトを与え、ドラマ化自体は受け入れられたようだ。
最近マスコミが取り上げた公取の話題といえば、飲食店を点数評価するグルメサイトについて2020年3月に取引実態調査の報告書を公表したことだろう。この時は掲載する店舗の採点や表示順位に関し、「(ルールの)透明性を確保することが望まれる」との見解をまとめていた。
その後飲食店情報サイト「食べログ」に対し、焼き肉チェーン「韓流村」が「不当なアルゴリズムで不利益を被った」と提訴し注目された。公取の指摘が、グルメサイト「食べログ」の運営会社カカクコムに対し東京地裁が6月に約3840万円の支払いを命じた判決に繋がったことは記憶に新しい。アルゴリズムを一方的に変更することは「優越的地位の乱用」を禁じた独占禁止法に違反する、として罰せられたのだ。
「競争の番人」はあくまでフィクションであり楽しめるストーリーを目指したもので、初回から登場した次期首相と目されるラスボス感漂う国土交通省の事務次官、彼とつながるカルテル疑惑のホテルオーナーなど、公正な競争を阻害するお決まりの悪代官と悪徳商人が出てくるところがわかりやすい。
勧善懲悪をただ描くだけでは現代のドラマは成立しない。「競争の番人」は今後そこをどう描くかが期待される。現実の世界でも、政権に過度の忖度をしてきた高級官僚に正に逆風が吹いている。
安倍元総理が非業の死を遂げてから数日後に「公正な取引」をテーマにしたドラマがスタートしたことに、皮肉めいた因縁を感じる。
| 22.07.29
焼き芋
熱狂的なサツマイモファン・焼き芋好きが集まるグルメイベント「さつまいも博」は2020年に第1回目が開催され、4日間で約5万人もの入場者を集めた。2021年はコロナ禍で開催が見送られたが、2022年は厳重なコロナ対策を施して2月23日から5日間開催され、約3万人の入場者を集めている。
来る8月16日から18日には、さいたまスーパーアリーナで「夏のさつまいも博2022」として今年2回目が開催されるとのこと。
サツマイモは日本全国どんな場所でも、どのような条件の土でも育てることができるポテンシャルの高い作物だ。食材としては準完全栄養食と言えるほどの高い栄養価を誇り、生産者に一番近いスイーツとしても注目されている。
大手コンビニ3社は「焼き芋」を年間商品化しており、今年の春夏シーズンはさらに“冷やし焼き芋”を強化。セブン-イレブンは焼き芋半分を冷やした「冷たく食べる焼き芋」を発売、ファミリーマートはスイーツ感覚の「みつあま焼き芋」を、ローソンは自社農園を共同で経営する芝山農園の開発商品「寝た芋」をそれぞれ販売している。コンビニの焼き芋を冷やして食べる文化?は一気に広がり定着する勢いだ。
食品スーパーのマルエツやドン・キホーテなどのチェーン店でも、積極的に電気式焼き芋オーブンを導入して焼き芋ブームの形成に大きな役割を果たしている。かつては冬の商品だった焼き芋が季節に関係なく売れるようになったようだ。
今まではどこのどんな品種でも「焼き芋」でしかなかったが、昨今は焼き芋専門店に行くと幾つもの品種が並んで売られている。八百屋の店頭でも品種による味や食感の違いがホクホク系やねっとり系と差別化されて、家庭でのサツマイモの食べ方を広げたようだ。
一方日本の焼き芋ブームは海外にも伝播し、特に品種を選んで加工した焼き芋の人気が高い。財務省の「貿易統計」によると、2020年のサツマイモの輸出実績は約5,270トンと2009年の10倍以上に増えている。内訳は香港が2,710トン(構成比51%)、タイが1,140トン(22%)、シンガポール920トン(17%)、台湾190トン(3.6%)となる。特にここ数年はシンガポールとタイへの輸出が急速に伸びているそうだ。
戦中の非常食としてのイメージが今も残るサツマイモだが、食糧自給率を少しでもあげるためにも焼き芋ブームは有効だ。日本に向いた農作物は戦略的にも増産すべきだろう。有事があってからでは遅いのだ。
| 22.07.22
100円ショップ
「だんぜん! ダイソー」のキャッチフレーズで、大手100円ショップのダイソーが手がける新ブランドショップ「Standard Products by DAISO」が昨年3月に渋谷マークシティにオープン、コロナ下でも評判がいい。1991年に高松にオープンした直営1号店「100円SHOPダイソー」とは隔世の感があり、別物と言ってもいい凄い店だ。
ベーシックなカラーリングで木などのナチュラル素材を使用したアイテムが多く、生活に馴染み、使いやすさにこだわった商品がラインアップされている。ブランドコンセプトは、「ちょっといいのが、ずっといい」だという。
価格帯は 300 円を中心に、500 円、700 円、1000 円と、もはや100均ショップではない。イメージも無印良品の店舗に入った時と似ている。憧れの無印インテリア風収納ボックスや自然素材のケースが約半額で揃うのだ。隣接フロアにはこれまた巨大なダイソー店舗が同時オープンし相乗効果を狙っている。
今年4月に発表された帝国データバンクの「100円ショップ業界」の調査結果では、大手5社を中心とした国内市場の2021年度売上高は、前年から約500億円増の9500億円(5.8%増)が見込まれていた。
インターネットやコンビニへの出店といった販売チャネルの多様化とともに、クオリティやデザインの見直し、最新のトレンドや細かな需要変化を捉えた新商品の投入など、価格以外の商品訴求力の大幅な向上で、2022年度に市場規模が1兆円を突破するのは確実だと言われている。
日本経済がバブル崩壊後「失われた30年」と言われて久しいが、物価は上がらなかったのではなく上げない努力をしてきたのだ。値段に上限を課してバリューアップを図るのは日本人の特性だ。結果2%の物価上昇すらさせなかったわけで、むしろ評価されるべきでは?
世界でインフレ懸念が高まる今、為替相場も約24年ぶりの円安水準だ。ただですら安いのに更に円安でいいのだろうか?デフレ経済の申し子のような「100円ショップ」の進化は、過去30年間にコモディティ商品の質的向上をもたらし他国の追従を許さない。
日本の物価におけるバリューforマネーは世界的に見ても高水準に達している。今こそ円高誘導し、過去30年の品質とユーザビリティー向上への努力の蓄積を国力に変える時だろう。
政府日銀の、自国の小売サービス業の能力の高さへの理解力不足が心配だ。
| 22.07.15
中山路
6月17日に中国3番目の空母となる「福建」が進水した。福建省の目の前が台湾だから意味深だ。福建は排水量8万トンを超え、甲板にはリニアモーターによって効率的に艦載機を射出する電磁式カタパルトを装備している。世界でも米海軍の最新鋭原子力空母「ジェラルド・R・フォード」にしか搭載されていないという装置だ。いよいよ中国人民解放軍による台湾の併合が真実味を帯びてきた。
ところで政治思想に拠らず、中国大陸及びシンガポール、台湾を含む華僑系大都市には必ず「中山路(ちゅうざんろ)」と呼ばれる通りがある。横浜中華街でも中山路は有名だ。これは中華人民共和国では革命の父、台湾では国父と呼ばれている孫文(号は中山、字は逸仙)の号「中山」から来ている。あらゆる中国に「中山路」があるとすると、その意味は余り穏やかではないかもしれない。
中国古代からの君主制を廃し民主的共和制国家の樹立を目指した孫文による1911年の辛亥革命は、異民族清朝(後金)の支配を終わらせ、漢民族による中国(中華民国)を復活させるものだった。そのため中華人民共和国においても、台湾及び世界中の華僑社会においても孫文は等しく高い評価を得ている。当時の日本でも孫文の「大アジア主義」への評価は高く、中国共産党が1921年に中華民国で樹立されたことを考えると孫文の影響力の大きさが分かる。
孫文は1924年に神戸に立ち寄り、11月28日に神戸高等女学校に3,000人余りの聴衆を集めて「大アジア主義」に関する有名な講演を行っている。その後の日本軍によるアジアへの進出(侵略)の思想的礎となるような講演だった。第二次世界大戦の敗戦で日本の大東亜共栄圏の夢は水泡と帰したが、孫文の「中山路」が歴史から消え去ることはなかった。
時は過ぎて2013年7月、中国政府の公式見解ではないとしながらも、「中国新聞網」や「文匯報」などに中国は2020年から2060年にかけて「六場戦争(六つの戦争)」を行うとする記事が掲載された。2020年から先ず台湾を取り返し、2028年に南沙諸島を奪回、2035年から南チベットを手に入れ、2040年以降日本から尖閣諸島と沖縄を奪回、2045年に外蒙古を併合し、2055年からロシア帝国が清朝から奪った外満州、江東六十四屯、パミール高原を取り戻して国土回復を終えるとしている。
中国人民解放軍を名乗って侵攻する限り、台湾の併合は習近平の野望というよりも孫文の想いが今も生きているということだろう。
「一帯中山路」とでも言うべき孫文の中国統一の戦いは、現在進行形なのだ。
| 22.07.08
ドクメンタ
ドイツのカッセルで5年に1度開催される世界的な同時代美術展「ドクメンタ15」が、「グローバルサウス」をテーマに2022年6月18日に始まった。時を同じくして6月26日から3日間、ドイツのエルマウでG7のトップ会合が開かれたのは単なる偶然だろうか。
第1回「ドクメンタ」は、1955年に当地在住の美術家、建築家、教師でもあったアルノルト・ボーデが提唱し開催された。戦後ドイツの芸術の復興を掲げ、ナチ独裁体制下で退廃芸術として弾圧されたモダン・アートの名誉回復をはかり、20世紀の重要な前衛芸術運動の作家たち(パブロ・ピカソ、ピエト・モンドリアン、ジャン・アルプ、アンリ・マティス、エルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナー、エミール・ノルデほか多数)の業績を振り返る展覧会であった。ボーデのこの計画は国の内外から大きな反響を呼び、以後「ドクメンタ」は現代(同時代)美術の動向を映し出す展覧会として確立されてきた。
「ドクメンタ」は常に時代を切り拓く精神を重視するため、これまでも民族主義をめぐる論争や事件に度々見舞われて来た歴史がある。今回はインドネシアのアート・コレクティブ、ルアンルパがアジア初の芸術監督として迎えられ、あらゆる意味でこれまでとはまったく異なる世界観を表現して話題を呼んでいる。
一方、毎年6月はフランスの大学入学資格を得るバカロレア(統一試験)の季節だ。専攻を問わず全員に課される哲学の選択問題に、今年は「芸術活動は世界を変えるか?」と出題されたそうだ。
「哲学」はナポレオン・ボナパルトが1808年にバカロレアを創設した当初から試験科目になっている。「ディセルタシオン」(討議、討論)という小論文を4時間以内に書くことが義務付けられ、人間の本質を問うのだ。「弁証法(Dialectic)」的な論文を書く力を持つことを、リーダーになる条件として高校3年生に要求する。
ところでこの「芸術活動は世界を変えるか?」という設問は、新型コロナウイルスの感染拡大の中、文化、芸術、エンターテイメントの領域で、アーティストやクリエイターの活動を極端に制限し、あたかも「芸術活動」は不要不急であるかのように抑圧した日本にとって、どうしても克服しなければならないタイムリーな課題である。
不確実性が高まる社会環境下だからこそ、G7に参加した日本の首脳や同行したスタッフ、マスコミのうち何人が「ドクメンタ」に立ち寄ってから帰ろうとしたのか、に興味がある。
「人は経済(パン)のみにて生くるものに非ず!」ではないだろうか。
| 22.07.05