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無菌国家

「コロナ禍におけるこれからの日本人の海外旅行意識調査」なるものが、JTB総研によって2021年2月に実施された。これによるとアフターコロナに海外旅行が全面解禁されたら行きたい国は、ハワイ(20.1%)、台湾(11.8%)、米国本土(7.5%)、オーストラリア・ニュージーランド(7.0%)、韓国(7.0%)の順だそうだ。
清潔感が優先する先進国ばかりだが中でもハワイが断トツで、改めて日本人のハワイ好きが分かる結果となった。
あらゆる旅行リスクを避ける日本人らしい選択とも言えるが、日本は外国人旅行者にとって安全な国なのだろうか?この調査の数ヶ月後にはアメリカ人観光客もハワイに殺到、ワイキキのホテル代がアッという間に高騰した。本土から押し寄せる旅行者で変異ウイルス「デルタ株」による感染者数が増加、ハワイは一転危険地帯となり、イゲ知事は8月下旬に「ハワイは危険地帯だ」と世界に渡航の自粛を求めた。
オアフ島では9月13日から公共の場に入場する場合、ワクチン接種証明書か48時間以内の陰性証明を提示することが義務づけられた。アメリカ本土からの観光客が増えるということはウイルス感染が本土並みになることを意味するためだ。
コロナ前から世界の観光地では オーバーツーリズム(観光公害)が顕在化していた。自然や地域住民の生活、文化が危機的な状況になっていたのだ。日本もコロナ前まではさしたる感染症対策もなく、年間インバウンドが4000万人だとか、それ以上が来日する観光立国だと無邪気にはしゃいでいた。それがコロナ感染症により打ち砕かれ揺り戻されたかのようだ。
一方世界中で戦争をしている米国では、傷痍軍人によってもたらされる世界各地の風土病感染が大問題になっている。イラク戦争の退役軍人たちには今もイラクの砂漠地帯の風土病に悩む人が多い。日本も過去の戦争によって感染症が如何なるものかをよく知っていたはずだが、戦後75年、平和憲法により「無菌国家」となり感染症への対症療法を忘れて久しい。
日本はワクチンを打つことしかできない国となり、水際での素早いチェックと隔離体制も取れない国だということを国民は目の当たりにすることになってしまった。自国は危険地帯だが安全なハワイには遊びに行きたい、というのは虫が良すぎるだろう。先ずは感染症に強い免疫力を持った国民と医療体制を長期にわたって保持することが大切だ。
新しい首相には、是非とも「脆弱な無菌国家からの脱却」を国家百年の計として立ててもらいたいものだ。

| 21.09.24

思考停止

日本のワクチン2回接種率がようやく米国と並んで全国民の50%を超えてきた。主要ヨーロッパ諸国は70%台、英国は80%台、シンガポールとイスラエルは90%前後と高いが、感染がなくなったわけではない。
各国政府はワクチン接種率の上昇に合わせて、経済の落ち込みを防ぐ規制緩和に乗り出そうとしている。ワクチン接種証明を発行し、公共の場であるレストランや大規模イベント会場、百貨店などの大規模集客施設で提示させることで、利用促進にも繋げようという狙いだ。
ところが接種証明提示の義務づけは、ワクチンを受けない自由を奪い差別を助長するとしてフランスでは大規模なデモが勃発している。それでもマクロン大統領はがんとして方針を変えない。英国のジョンソン首相は市民の同意が得られないと見るや、証明書提示をすぐに引っ込めてしまった。各国の制限緩和は手探り状況だ。
日本政府も今年11月には2度接種率が70%を超えると予想、ワクチン証明の提示による制限緩和策を検討し始めた。こうした動きに対して差別反対デモでも起こるかと思いきや、自民党総裁選に翻弄されてうやむやになり、いつもの如くなにも起こらない従順さを発揮?、これは正に日本国民の「思考停止」である。
「寄らば大樹の陰」ということわざがあるが、日本人は「マジョリティ側」に黙って従うことに慣れ、“無”となって「思考停止」することを“是”とするよう調教されているのかも知れない。
任期満了で迎える自民党総裁選挙は9月17日に告示、29日に投開票される。その後に控える衆議院選挙のために自民党が党の顔を選ぶ選挙だ。真の党首(リーダー)を選ぶというより如何に“大樹”を作るか?米国の方針に素直か?が問われる選挙となる。
自由民主党、英語でいうと“Liberal Democratic Party” は、米国の民主党“Democratic Party”よりも革新的なイメージがある。日本では保守党だが英語圏では完全に革新政党をイメージさせる党名だ。最近中国共産党幹部に「日本は目標にすべき社会主義国家である」と言わしめた所以もこの辺にあるのかも知れない。
中国としのぎを削る米国が次期総理に押したいのは、Twitter発信力が最も高い対中強行派、河野太郎だろう。日英2か国語アカウントのフォロワーは237.3万人に及ぶ。ブロック機能を多用し都合の悪いことには答えない傲慢さを発揮しているが、若手議員と米国の受けはいい。
“自民派閥連立政党”の前に野党の出番は全くない。この現実を認識せず「思考停止」している限り、永遠に自民党を下野させることはできないだろう。

| 21.09.17

共同富裕

習近平総書記は8月17日に開催された中国共産党中央財経委員会第10回会議で、「共同富裕」を新たなテーマとして打ち出し、「富裕層叩き」かと波紋を広げている。
それに対して素早い反応を見せたのが中国IT大手のテンセントだ。時価総額で中国トップの大企業だが、「共同富裕」発言の翌日、農村振興や低所得者の支援に500億元(約8500億円)を寄付すると発表。同社は今年4月にもSDGs支援として500億元の寄付を発表したばかりだ。わずか4か月の間に1000億元(約1兆7000億円)の拠出を決定したことになる。アリババグループも早速2025年までに同額の1000億元(約1兆7000億円)を拠出し協力すると発表した。
新興EC企業のピンドゥオドゥオも24日、農民支援に100億元(約1700億円)を寄付すると発表。大手スマートフォンメーカー・シャオミの創業者雷軍(レイ・ジュン)は、172億元(約2900億円)の株式を慈善機関に寄付したことを公表した。
「共同富裕」は1953年に建国の父、毛沢東主席が提唱したスローガンだ。78年から改革開放に着手したトウ小平が唱えた「先富論」も、最終的には「共同富裕」を見据えていたようだ。
富の再配分は国の安定に欠かせない。市場経済の導入による一次分配で生まれた格差を、本来なら税や社会福祉による再分配(二次分配)で是正するのが基本だが、中国では相続税、不動産資産に課税する物権税(固定資産税)が未整備というジレンマがある。
進まぬ改革に業を煮やした共産党政府は、その先の三次分配を「共同富裕」という概念と手法で一気に実現しようとしたのだろう。慈善活動を促すだけでなく、「高収入を合理的に調節し、違法収入を取り締まる」として富裕層を震え上がらせたのだ。
そんな中、面白いことに中国共産党幹部の間で、今の日本の姿は毛沢東が目指した理想の「社会主義国家」に近いのではないかとの考えが生まれているそうだ。少なくともそう感じる中国人が増えているのは事実だ。配給制度こそないけれど富の再配分がうまく行き、平等で弱者に優しい人権重視社会であるように見えるらしい。
自由主義諸国で「米国の51番目の州」と揶揄される日本は、安全保障を軸とした米国の傀儡政権自民党による一党独裁だと言えなくもない。
日本が参考にする?「明るい北朝鮮」と呼ばれるシンガポールも、リークワンユーファミリーによる一党独裁と言える。
そう考えると、共産党一党独裁の中国が日本を理想国家とするのも腑に落ちるから不思議だ。

| 21.09.10

代替不能トークン

ブロックチェーン技術を利用した「NFT(Non Fungible Tokens)」と呼ばれる資産が注目されている。日本語では「代替不能トークン」と呼ばれ、特徴は所有権を特定できることである。ビットコインやイーサリアムなどのデジタル通貨は識別子のない「ユティリティートークン」と呼ばれ、所有者が特定できない。
今年3月12日、初めて「NFT」を扱うアートオークションが老舗の競売大手クリスティーズで行われて話題になった。デジタルアーティスト、マイク・ウインケルマンが13年かけて制作した「Everydays: The First 5000 Days」が出品され、現存アーティストで第3位となる6935万ドル(約75億円)で落札された。コンピュータ上で表現された単なるデータについた値段としては史上最高額となった。
続いて3月22日には、ツイッター創業者ジャック・ドーシーが2006年3月に最初に投稿したツイートが291万ドル(約3億1700万円)で落札された。
デジタルデータは所有者情報が特定されないと価値を生まない。「NFT」はデジタルファイルにタグ付けすることで、「たった一つのオリジナル」と識別させることが可能になったのだ。
1766年創業のクリスティーズは今回のオークションについて、「まったく未知の領域に足を踏み入れた」とコメント。同時に暗号通貨による決済も受け入れ、不可避の流れに抵抗せず「恐怖を受け入れる」ことが最善と判断したと発表している。そして世界最大のNFT取引プラットフォーム「オープンシー」は、アートの取引をはじめとするあらゆる分野で拡大する気配を見せる。
コロナ禍のニューノーマルは人々にオンラインで過ごす時間を強要する。また一部の人にもたらされた金余り現象は、株式やビットコインなど供給量の限られた資産の価値を相対的に押し上げる。「NFT」の熱狂の中心は設立間もないスタートアップ企業だ。そして米国サンフランシスコ・ベイエリアにあるIT企業のIPOによって生まれた多額の資金が殺到している。
そうした中、日本でも9月1日に「デジタル庁」が始動したが、こういう世界の新しい“価値創造の動き”にピントは合っているのだろうか? 
たとえバブルであろうと恐怖であろうと、新しく挑戦する若者を理解することが大切だ。1776年創業の企業でさえ生き残りのために挑戦しているのだ。米国は既にデジタル投票で国政選挙をするところまで来ている。
日本政府は次回総選挙をデジタル化するくらいの勇気と技術力を持っているのか?そういうスピード感が閉塞する状況を打破し、日本の未来を切り開く。

| 21.09.03

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