病原体・レベル4
「病原体・レベル4」はさいとうたかおの『ゴルゴ13』シリーズ1995年9月の作品だ。今読んでも驚くべき示唆に富んでいる。
“主人公ゴルゴがアメリカに向かう豪華クルーズ船に乗り合わせた際、船内でアフリカから密輸された猿を発生源とするエボラウイルスが蔓延・・・。寄港後、市中での感染爆発を恐れたアメリカ政府は乗客を船内に隔離した。”
この設定は、新型コロナウイルスのクラスター感染で横浜港に留め置かれたあのダイヤモンド・プリンセス号の事例と酷似している。あたかも新型コロナウイルスによって起きたパンデミックを25年前に予見していたかのようだ。
“ゴルゴも感染したが調査で接触感染とわかって船から秘かに脱出、感染源の猿が捉えられている倉庫に向かい、抗体を持った猿の血液を抜き取ることに成功。車のタイヤを遠心分離器の代わりに使って血清を作り、乗客の命を救う”というストーリーだ。
連載開始より52年、長寿作品となった『ゴルゴ13』は、多くの読者にとって人生の伴走者であり、羅針盤のような存在だ。だが、どうやら厚労省の役人だけは読んでいなかったようだ。
一度も休載のなかった『ゴルゴ13』だが、昨年新型コロナウイルスの感染拡大を受けてビックコミック11号から14号まで新作掲載を見合わせた。これは大事件だった。そして休載の間3号連続で「病原体・レベル4」を再掲載し、25年前の先見性を見せつけたのだ。
今回の東京オリンピック開会式は日本が誇る“サブカル”演出で展開され、各国選手団の入場行進曲には世界中で愛されている日本のゲーム音楽が採用された。漫画表現をモチーフにしたプラカードが掲げられ、ロールプレーイングゲームのテーマソングの中を歩く選手たちが、まるで行進する勇者たちに見えてきたから不思議だ。
『ゴルゴ13』だけでなく『AKIRA』や『風の谷ナウシカ』など、未来を予見していると感じられる日本の漫画は多い。人類が未来を予測する想像力を持ち合わせていることを示している。量子コンピュータが動き始めた現代だが、データに基づいた予測計算がいかに早くても人間の想像力を超えることはないだろう。
「病原体・レベル4」 は1995年に予言している。“60億に増殖した人類を前に、エボラウイルスは現れた。今までは局地的な感染に留まっていたが、いずれ・・・増殖し過ぎた人類を食いつくすために再びやってくるだろう”と。
『ゴルゴ13』を愛読する政治家もいると聞くが、愛読していても想像力がないと結果を出せないことを証明しているようだ。
| 21.08.06