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耳読書
俳優や声優などが読み上げた本の音声を聴いて楽しむ「オーディオブック」が、聴き放題サービスの浸透に加え新型コロナ禍による在宅時間増もあって急拡大している。
小説家たちも新しい表現の可能性に熱い視線を注ぐ。川上未映子の新作『春のこわいもの』は来年新潮社から単行本が刊行予定だが、この7月に音声作品として先行配信され、ティーザーで人気が高まってすでに英語とドイツ語版の配信も決まったそうだ。
これらの「オーディオブック」は、Amazonの音声コンテンツ配信サービス「Audible(オーディブル)」を利用して世界中で手に入れることができる。
Webサービス業務を手がける株式会社RRJが運営する「キクボン(kikubon)」も、銀河英雄伝説「アルスラーン戦記」といった有名なSFやファンタジー性の強い書籍のコンテンツを多く配信している。
「オーディオブック」は欧米で現在急速に成長しており、アメリカでの音声広告の伸びを見ると、2016年の広告収入は11億ドルだが、2017年には66%増、2018年には23%増、2019年には21%増、2020年には13%増で30億ドルに成長している。日本能率協会総合研究所の調査によると、日本でも5年で2倍以上成長しているそうだ。
恋愛系、フィクション系、ホラー系、ミステリー系などと相性が良く、主人公になりきってストーリーに「没入」できる。中でもサスペンスは画像がない方がわくわくどきどきするそうだ。音声コンテンツの人気は、文章や動画といった視覚コンテンツに比べて“ながら”時間で消費しやすいことが追風になっているのだろう。
ネットでの動画消費が一般化し、人々は目によるコンテンツ消費に疲れ始めている。“耳の可処分時間”が注目され、新たなコンテンツとして需要を掴んでいきそうだ。AIスピーカーの登場もポジティブ要素、音声コンテンツを消費しやすい環境が整ってきている。
現代人はテレビやスマホを見る時間が増え、脳の成長が視覚系に偏ってしまっている。脳は聴覚、視覚、或いは思考と部位によって働きが違う。そのため脳全体の成長のバランスが悪くなると、日常生活の多くの場面に支障をきたしてしまうという。
視覚系が優位になった場合、理解力や記憶力と密接な関係にある非常に重要な脳の部位がなおざりにされる。そして聴覚系の働きが阻害され、物事をきちんと理解し記憶に基づいて行動することができなくなってしまうのだ。人間としての本能を失うことになる。
何処かの国の宰相にメモを読むばかりでページが飛んでも気づかない人がいる。これは正に視覚が先行し、聴覚や皮膚感覚が衰え、物事をきちんと理解する力を失ったいい例と言えよう。
| 21.08.27
横浜シウマイ弁当
「シウマイ弁当」といえば横浜の崎陽軒。「東京に近い横浜でも売れる名物を」と中華街イメージで産まれたのが名物「シウマイ」だ。駅弁として1954年に売り出されて以来、実に67年にわたり)日本人に愛されている。
横浜人にとっては単なる駅弁を超えて、愛するソウルフードともいえる。販売数はダントツ日本一で1日平均2万5000個を売り、コロナ禍前の2017年には過去最高の236億円の売上げを記録したそうだ。
「シウマイ弁当」は俵型ご飯8個シウマイ5個に対し、鶏の唐揚げ、鮪の漬け焼など9種の副菜が狭い箱の中で競い合う。“横浜名物”で9種の具材が競うと聞くと、9人(現在は8人)の立候補者がしのぎを削る今話題の横浜市長選が頭に浮かぶ。8月22日投開票で横浜が地盤の首相の命運がかかった選挙は、国政をも巻き込んで大荒れだ。
4選を狙う現職林文子候補はさしずめ量が多いタケノコの甘辛煮か? 捩れた鶏の唐揚げの濃厚さは、現職閣僚でありながら背水の陣を引く首相の懐から国策IRに反対してまで立候補した小此木八郎候補のようだ。政党を渡り歩く立憲民主党副代表の迫力に押され気味の山中竹春候補は、三角で甘い玉子焼きに見えてくる。
そしてシウマイの前で果敢に存在をアピールする鮪の漬け焼きは、正面から政策で勝負する元長野県知事の田中康夫候補だ。元神奈川県知事の松沢成文候補は蒲鉾のような安心感が売りか。加えてショウガと切り昆布、アンズ、小梅が周りを彩る。
「シウマイ弁当」には食べ方にうるさいファンが大勢いる。慶應大学特任講師の鈴木隆一氏が、AIを使った検査機器「味覚センサーレオ」で『AIに聞いたシウマイ弁当の食べ方』を上梓している。
ミシュランの星付き料理でもめったに出ない99点以上の食べ合わせが上位に出てくる。「シウマイ弁当」にもかかわらず1位は「鮪の漬け焼きとご飯」で99.5点、2位は「鶏の唐揚げとご飯」99.3点、3位にやっと「シウマイとご飯」で99.2点だとのこと。横浜市長選の結果を示唆している?ように感じるのは単なる偶然か。
大手マスコミの出口調査に一喜一憂する選挙は過去のものだ。日本のマスコミは浮動票の把握を諦めたのだろうか?SNSでステルス化した有権者を把握できないのなら、市長選の行方もAIに予想させた方が正確かも知れない。
但しどこまで行っても、67年間「シウマイ弁当」を食べ続けている“地元のドン“、 横浜ハーバーリゾート協会会長の口撃だけはAIでもシュミレーションできないようだ。
| 21.08.20
病原体・レベル4
「病原体・レベル4」はさいとうたかおの『ゴルゴ13』シリーズ1995年9月の作品だ。今読んでも驚くべき示唆に富んでいる。
“主人公ゴルゴがアメリカに向かう豪華クルーズ船に乗り合わせた際、船内でアフリカから密輸された猿を発生源とするエボラウイルスが蔓延・・・。寄港後、市中での感染爆発を恐れたアメリカ政府は乗客を船内に隔離した。”
この設定は、新型コロナウイルスのクラスター感染で横浜港に留め置かれたあのダイヤモンド・プリンセス号の事例と酷似している。あたかも新型コロナウイルスによって起きたパンデミックを25年前に予見していたかのようだ。
“ゴルゴも感染したが調査で接触感染とわかって船から秘かに脱出、感染源の猿が捉えられている倉庫に向かい、抗体を持った猿の血液を抜き取ることに成功。車のタイヤを遠心分離器の代わりに使って血清を作り、乗客の命を救う”というストーリーだ。
連載開始より52年、長寿作品となった『ゴルゴ13』は、多くの読者にとって人生の伴走者であり、羅針盤のような存在だ。だが、どうやら厚労省の役人だけは読んでいなかったようだ。
一度も休載のなかった『ゴルゴ13』だが、昨年新型コロナウイルスの感染拡大を受けてビックコミック11号から14号まで新作掲載を見合わせた。これは大事件だった。そして休載の間3号連続で「病原体・レベル4」を再掲載し、25年前の先見性を見せつけたのだ。
今回の東京オリンピック開会式は日本が誇る“サブカル”演出で展開され、各国選手団の入場行進曲には世界中で愛されている日本のゲーム音楽が採用された。漫画表現をモチーフにしたプラカードが掲げられ、ロールプレーイングゲームのテーマソングの中を歩く選手たちが、まるで行進する勇者たちに見えてきたから不思議だ。
『ゴルゴ13』だけでなく『AKIRA』や『風の谷ナウシカ』など、未来を予見していると感じられる日本の漫画は多い。人類が未来を予測する想像力を持ち合わせていることを示している。量子コンピュータが動き始めた現代だが、データに基づいた予測計算がいかに早くても人間の想像力を超えることはないだろう。
「病原体・レベル4」 は1995年に予言している。“60億に増殖した人類を前に、エボラウイルスは現れた。今までは局地的な感染に留まっていたが、いずれ・・・増殖し過ぎた人類を食いつくすために再びやってくるだろう”と。
『ゴルゴ13』を愛読する政治家もいると聞くが、愛読していても想像力がないと結果を出せないことを証明しているようだ。
| 21.08.06