Taycan
世界各国は、おおむね2030年までにガソリン・ディーゼル車の新車販売を全面禁止する方針のようだ。温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」への対応が求められる全世界の自動車メーカーは、電気自動車(EV)への転換を急ぎ、先を争うように最新モデルを発表している。ドイツを代表するスポーツカーメーカー「PORSCHE」も例外ではない。
車のEV化の影響を自国の産業構造が最も受ける国は、なんといってもドイツと日本であろう。世界的にEVの認定がBEV(電池型)だけを指すのか、P-HEV(プラグインハイブリッド)を含むのかによっても情勢は微妙だ。日本車はすでにハイブリッド比率が新車販売の30%を超えている。
そんな状況にクサビを打ち込むかのごとく、すでに究極まで改良し尽くされた伝説の車「ポルシェ911」の最新モデルと、そのBEVでの後継車と位置付けられる「Taycan」との比較試乗イベントが行われた。単なる新型モデルの発表を超えてポルシェの未来への自信を垣間見た。常に「スポーツカーとは何か?」を追求し続ける姿がその地位を築いて来たからだ。
老舗ポルシェのBEV「Taycan」が、下剋上を狙う新参者のテスラやしのぎを削る中国メーカーのEVと戦うには、あらゆる場面で「911」を超える何かを感じさせる付加価値が必要だ。「911を生み出したメーカーが創るBEV」いうプラスαだ。単に動力を電気に変換しただけではポルシェの顧客は納得しない。EVのパワーや航続距離は金をかければ誰でも作れるからだ。「Taycan」には「モーター音」を増強した未来的な(SF的な宇宙船が発するような)音が演出されているが、「水平対向6気筒のエンジン音」を知らない未来の若者たちに、音でワープする陶酔感をもたらすことは「Taycan」の可能性の一部かも知れないが子供騙しだ。
過去「911」がRRのディスアドバンテージを克服するために、4WDモデルを作った際のオイル漏れとの戦い、空冷から水冷に切り替えた時のポルシェテイストへの悩み、そして全車ターボ化しても自然吸気マニュアルシフト車GT3を残すポルシェ。しかし今回はそれらを超える拘りが必要だろう。
フェルディナンド・ポルシェ博士が120年前に作った最初のポルシェが実はEVだったことを知る人は少ない。それ故に「Taycan」は確実に「911」を超える使命を背負っているのだ。
車を単なる移動手段としか考えない人には、ポルシェ博士の夢は永遠に理解できないだろう。
| 21.04.02