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外国人恐怖症
コンビニ、スーパー、建築現場などで外国人労働者に出会うことが多くなった。
日本において「外国人」とは日本国籍を有しない者全般、「在留外国人」とした場合は3カ月以下の短期滞在者を含まず、永住者や中長期在留者、留学生などを指すらしい。「移民」に対しての定義は法的には極めて曖昧だ。
法務省出入国在留管理庁の統計によると、令和2年(2020年)末の外国人入国者数は430万9922人に達した。在留外国人数は288万6021人と過去最高を記録し、日本の総人口12,650万人に占める割合は2.3%となった。だが世界の移民の人口比率はドイツが13%と突出、G7諸国でも総じて7~9%である。
過去4年間で在留外国人は約50万人増加しているが、総人口が12,698万人から12,650万人と50万人近く減少しており、減少分を在留外国人が補っている形だ。
日本における在留外国人の数は、今や 都道府県別人口ランキング12位の広島県(283万人)や市町村別人口ランキング2位の大阪市(273万人)を凌駕するほど大きくなっているが、G7諸国に比べるとまだまだ見劣りする。
日本政府は観光客であれ長期在留者であれ永住者であれ、すべて「外国人」とひとくくりにし、「移民」の条件について正面から取り組んでいるようには見えない。
移民問題は現代社会において最も重要な政治的課題の一つである。世界中ほぼすべての国の選挙で争点となり、欧州連合(EU)では移民を受け入れる国(フランスやスウェーデン)と拒否する国(英国やハンガリー)がEUを分断する政治問題を起こしている。
日本人は外国人を怖がっているのだろうか?異質の価値観やモラルを持つ知らない土地から来た外見の違う人々を恐れ差別する傾向がある。アメリカ社会で今問題となっているアジア系アメリカ人に対するヘイトクライムも、実は対岸の火事ではないのだ。
戦後、日本政府は「移民」の受け入れに消極的な姿勢を貫いてきたが、2019年4月、遂にその方針を転換して将来的に日本定住も可能となる就労ビザ「特定技能ビザ制度」をスタートさせた。これにより日本の在留外国人増加の流れは制度的にも追認され実態として「移民」に進むことが期待されているが、そのスピードは遅い。
ちなみに戦後「移民」というと「在留外国人」で日本国籍を取得する場合を指し、政府は強い制限をかけている。
日本の美徳である「おもてなし」の心――実は日本人が抱く「外国人恐怖症」の裏返しの感情なのではないだろうか。
| 21.04.23
ファラオの行進
エジプトの首都カイロで4月3日、古代エジプトのファラオのミイラ22体が古い考古学博物館(Egyptian Museum)から新しい国立エジプト文明博物館(National Museum of Egyptian Civilization)まで、その完成に合わせて市内7キロを移送された。パレードは壮麗かつ威厳に満ちて美しいものだったようだ。
正式には「ファラオの黄金の行進(Pharaohs' Golden Parade)」と名付けられ、王18人、女王4人のミイラが古代エジプト風の装飾を施した車両で1体ずつ時代の古い順に行進した。
車列の先頭は紀元前16世紀中頃にエジプト南部を治めたセケンエンラー2世(Seqenenre Tao II)、最後尾は紀元前1109年に亡くなったラムセス9世(Ramses IX)だ。在位が67年に及んだラムセス2世(Ramses II)や、最強の女王と呼ばれるハトシェプスト(Hatshepsut)のミイラも含まれる。
今回移送されたミイラは全て国宝で、テーベ(現ルクソール)の「王家の谷」で発掘されたものばかりだ。新たに建設されたエジプト文明博物館の「ミイラの間」で最新技術を使って展示され、訪問客は正に「王家の谷」に迷い込んだような体験ができるらしい。
ミイラの展示は他の宝物の展示とは異なりデリケート、それは3500年前に生きたファラオの肉体そのものだからだ。ファラオのミイラが作られるようになったのは古王国時代(紀元前2500年頃)からだ。復活を願うのは支配者も同じ、その強い思いが肉体の保存という手段を究極まで高めたのだ。
世界の多くの宗教や文化圏では遺体を博物館で白日の元にさらすことは侮辱的な行為だとみなされているが、古代エジプトの死生観からすると、ファラオのミイラは人前に現れることで復活を果たしているとも考えられる。
ファラオたちはミイラになって生き続け、その存在を示しながらパレードし、最新技術で展示されて復活しているのだ。これがそのまま新しい「ミイラの間」の展示コンセプトなのだろう。
今回のパレートを前にエジプトでは大事故が続発した。3月23日にスエズ運河で世界最大級のコンテナ船が座礁、27日にはエジプト中部で列車の衝突事故が起き、同じ日にカイロ近郊では高層ビルの倒壊により多くの死傷者が出た。エジプト考古学の権威ザヒ・ハワス博士は「ファラオの呪いなど存在しないし、事故とは関係ない」と呪い説を一蹴したが、そのことばを信じる人は少ない。
近年、欧州の代表的博物館は略奪博物館と呼ばれ、かつての植民地から持ち出した発掘品の返還をめぐる議論の渦中にある。特に大英博物館は世界中から持ち帰った文物をただ並べて分類し博物学的興味だけで展示している、と評判が悪い。
旧宗主国は、展示物の持つ文明史的背景が伝えられないのであれば、コレクションを元の国に返還すべき時が来たと悟るべきだろう。
| 21.04.16
家に族
UQ三姉妹が「UQ学割」を紹介するau携帯 のCMで、「家に族と書いて家族!」と謎めいた長女の一言に、三女が「何それ?」とクールに突っ込みを入れるシーンが出てくる。このCMは時代と共に変わりゆく家族の雰囲気をよく捉えている。
東京では足立区が自治体として初めて、LGBTなど性的少数者のカップルの関係を公的に認め、その子どもとの親子関係も認める「パートナーシップ・ファミリーシップ制度」を4月1日からスタートさせた。
これにより法律上の婚姻や事実婚、親子関係に基づく入居が条件だった区営住宅にも、同性カップルが子どもと一緒に入居できるようになった。
これは「家族」の概念を広げて多様性を受け入れていく上で大きな前進だ。欧米ではいち早く家族の多様化を受け入れる動きが広がっている。“Chosen Family (選択的家族)” と呼ばれ、血縁的なつながりにこだわらずに自らの意志でメンバーを選ぶことすら可能になっている。
これまでの一親等の親子のみで形成された「核家族」に反発して、アダプトした子供を含めるなど伝統的な血縁関係を超えて幅広くメンバーを受け入れ、知的興味や趣味などお互いの共通項を通して “家族” を創っていこうとする、より自由度の高い取り組みだ。
マンハッタンにある私立学校ザ・グレイス・チャーチ・スクールでは、「すべての家族はユニークだ」をモットーに、“伝統的家族” という概念を極力取り除く実験をしているそうだ。「校内をよりインクルーシブにすること」を目指して、「両親」や「親」の代わりに「Guardian」や「Partner」「Spouse」などの呼び方を推奨している。
実際アメリカではシングル・ペアレントや複数の義母、義父を持つ子が珍しくない。近年は同性の2人親も増え、3人親制度も徐々に進んでいることが背景にあるようだ。
イギリスの大手メディアエージェンシー「the7stars」の調査によると、イギリスに暮らす世帯の12%は自分たちのルールに従って家族構成を決定する自発的 “Chosen Family” に挑戦しているという。
また最近全米リアルター協会(NAR)が「2020年第2四半期の住宅購入者の15%が多世代型住宅を購入した」と発表した。2012年の11%から明らかに増えてきており興味深い。
新型コロナ禍により産まれたニューノーマルな生活は、核家族化が進んで荒んだ家族生活を、リソースを共有することで再生していくことが大切だと気付かせてくれた。
日本の政治家も、荒んだ家族のサポートや新しい創造的未来に必要なのは「こども庁」ではないことに早く気付く必要がありそうだ。
| 21.04.09
Taycan
世界各国は、おおむね2030年までにガソリン・ディーゼル車の新車販売を全面禁止する方針のようだ。温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」への対応が求められる全世界の自動車メーカーは、電気自動車(EV)への転換を急ぎ、先を争うように最新モデルを発表している。ドイツを代表するスポーツカーメーカー「PORSCHE」も例外ではない。
車のEV化の影響を自国の産業構造が最も受ける国は、なんといってもドイツと日本であろう。世界的にEVの認定がBEV(電池型)だけを指すのか、P-HEV(プラグインハイブリッド)を含むのかによっても情勢は微妙だ。日本車はすでにハイブリッド比率が新車販売の30%を超えている。
そんな状況にクサビを打ち込むかのごとく、すでに究極まで改良し尽くされた伝説の車「ポルシェ911」の最新モデルと、そのBEVでの後継車と位置付けられる「Taycan」との比較試乗イベントが行われた。単なる新型モデルの発表を超えてポルシェの未来への自信を垣間見た。常に「スポーツカーとは何か?」を追求し続ける姿がその地位を築いて来たからだ。
老舗ポルシェのBEV「Taycan」が、下剋上を狙う新参者のテスラやしのぎを削る中国メーカーのEVと戦うには、あらゆる場面で「911」を超える何かを感じさせる付加価値が必要だ。「911を生み出したメーカーが創るBEV」いうプラスαだ。単に動力を電気に変換しただけではポルシェの顧客は納得しない。EVのパワーや航続距離は金をかければ誰でも作れるからだ。「Taycan」には「モーター音」を増強した未来的な(SF的な宇宙船が発するような)音が演出されているが、「水平対向6気筒のエンジン音」を知らない未来の若者たちに、音でワープする陶酔感をもたらすことは「Taycan」の可能性の一部かも知れないが子供騙しだ。
過去「911」がRRのディスアドバンテージを克服するために、4WDモデルを作った際のオイル漏れとの戦い、空冷から水冷に切り替えた時のポルシェテイストへの悩み、そして全車ターボ化しても自然吸気マニュアルシフト車GT3を残すポルシェ。しかし今回はそれらを超える拘りが必要だろう。
フェルディナンド・ポルシェ博士が120年前に作った最初のポルシェが実はEVだったことを知る人は少ない。それ故に「Taycan」は確実に「911」を超える使命を背負っているのだ。
車を単なる移動手段としか考えない人には、ポルシェ博士の夢は永遠に理解できないだろう。
| 21.04.02