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多言語対応

国交省が平成26年(2014)にまとめた「観光立国実現に向けた多言語対応の改善・強化のためのガイドライン」に基づいて、道路交通標識の「止まれ」の文字の下に「STOP」と英語を併記した新しいデザインが全国各地で順次導入されている。東京五輪開催までに新しい「グローバル表記」へと変換する計画だそうだ。
「多言語対応」が日本語と世界共通語である英語の「グローバル表記」を意味するのなら分かりやすいが、どうも日本の「おもてなし」はそれを「多言語で表記すること」と取り違えているようだ。
首都圏の鉄道、例えば東急東横線などは、日本語、英語、中国語、韓国語で案内表示しアナウンスもしている。JR新大久保駅に至っては何と24ヶ国語でアナウンス、と常軌を逸している。
銀座の交番には、タガログ語やタイ語、中国語はご丁寧に簡体字と繁体字の案内が用意されている。しかし日本に住む外国人のコメント「変な文法の自国語より英語で十分ですよ!」は的確で説得力がある。目的は正確に伝えることなのだから。
一方似たような状況は、明治維新後の北海道にもあった。開拓を担った屯田兵の連絡会議で各地の出身者が話し合おうとすると、日本人同士なのに全く言葉が通じず会議にならなかったと記録されている。それがきっかけで北海道では標準語教育が重んじられ、東京に次いで普及が早かったそうだ。
朝鮮民族(韓民族)によるDPRK(北朝鮮)や大韓民国、モンゴル民族によるモンゴル国などは、民族と国家が一致しているので言語のルーツがしっかりしている。それに対して多様な移民によって成立した多民族国家日本では、日本語の表現は柔軟で曖昧さが残る。
例えば「厠(かわや)」を表す言葉だけでも日本語には数多く存在する。手洗、化粧室、ご不浄、便所、それに加えて英語由来のトイレ、WC。「RESTROOM」や「BATHROOM」「LAVATORY」も通用する、と実に多彩だ。
そもそも日本人は複数の民族間の混血であるため特定の民族意識が希薄だ。そして長く外来文化の「いいとこ取り」をしてきたことで、外来語や外国語表記に対して寛容だ。
最近デジタル庁ができたが、明治時代の屯田兵会議の混乱を想起する。漢字で書かれた氏名さえ「フリガナ」なしには登録できず、例外が多い「日本語」を使ってデータベースを作るという気の遠くなるような作業に直面するはずだ。国交省が推進する「多言語対応の強化」はデジタル庁を更に苦しめるだろう。
漢字を当て字に使い、それに「フリガナ」をふって読み込ませデータベース化する。「多言語対応」の意味を「おもてなし(忖度)」と取り違えても許さざるを得ないのかもしれない。

| 21.03.05

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