分断
1月6日に行われた米国上下院合同の連邦議会で、大統領選の投票結果が覆ることはなかったが、ここまでの人数の議員が反対するのは約150年ぶりか。大統領職に留まろうとするトランプ氏の焦土作戦でさらに悪化した党派対立は、議会で発砲し死者が出るほど米国に大きな「分断」の傷跡を残している。
スウェーデンの調査機関V-Demがまとめる「熟議民主主義指数」は、1に近ければ多様な意見を持つ集団が議論を重ねながら政策を決定し、0に近づけば多数派による横暴、独裁色が強いとするものだが、米国については2007年以降0.8台をキープしていた。ところがトランプ氏が大統領選挙に勝った16年には0.77に下がり、就任した17年には一気に0.59まで下落、19年に到っては0.56と著しく低落した。
またイギリスの経済週刊誌エコノミスト傘下の調査機関「エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)」が毎年発表している「民主主義指数(Democracy Index)」でも、米国は既に「完全な民主主義国」ではなく「欠陥のある民主主義国」に位置づけられている。
2019年のベスト5が、ノルウェー(9.87)、アイスランド(9.58)、スウェーデン(9.39)、ニュージーランド(9.26)、フィンランド(9.25)で、人口が少なく教育程度の高い国が有利なようだ。これらの小国が「完全な民主主義国」とされる一方、米国(7.96)は25位で、韓国(8.00)の23位、日本(7.99)の24位を下回る位置まで後退、分類上も「欠陥のある民主主義国」とされているのだ。
最低は167位の北朝鮮(1.03)で中国(2.26)が153位、ロシア(3.11)は134位だ。調査結果には納得するもののその選考過程がベールに包まれているため、ノーベル賞と同様、西側の政治的意向が強いとの批判も多い。
2020年の米国は新型コロナウイルス世界最大の感染と人種問題を巡る数々の混乱で分断に拍車が掛かり、ヨーロッパでも新たな「分断」が起こっている。
英国は昨年末12月31日午後11時(日本時間1月1日午前8時)をもって、名実ともに欧州連合(EU)から完全に離脱した。ジョンソン英首相は31日の新年メッセージで、「(EU離脱は)この国にとって素晴らしい瞬間だ」と訴えたが、実際に英国を待ち受けるのはヨーロッパとの確執と新型コロナウイルスによる混迷だと予想される。
そして香港でも一国二制度が実質的に消滅し、市中のレストランさえも親中派と民主派に切り裂かれ色分けされる事態になっている。
世界を見渡すと今「分断」が連鎖拡大している。その根底には中国共産党の巨大化が英国と米国の覇権を脅かしていることがあるが、民主主義の成長をリードしてきた英米両国の限界が皮肉にも更なる「分断」を産み出そうとは、75年前に誰が考えたであろうか?
| 21.01.08