勧善懲悪時代劇
7月19日に平成のTVドラマ史上最大のヒット作となった『半沢直樹』(TBS系)の続編がスタートした。8月2日第3回目までの視聴率は22~3%台(ビデオリサーチ調べ)と前作を上回る滑り出しで、どうやら柳の下にドジョウが2匹いたようだ。
原作者はビジネス小説のベストセラー作家、池井戸潤。7年前の『半沢直樹』最終回の視聴率は驚異の42.2%を記録し破られることのない平成の大記録と言われたが、今回はどうなるのだろうか?
前作は実在のメガバンクを連想させる“東京中央銀行”を舞台に、金融庁の査察をめぐり、バンカー半沢が行内の不正を明らかにしながらエリート銀行員達と戦う復讐劇だった。半沢が「倍返しだ!」と叫びながら敵対する陣営を最後には土下座させる。日本人が昔から愛する勧善懲悪時代劇の“サラリーマン版”そのものだった。組織の重圧の中で悔しい思いをして日々耐え忍んでいる日本のサラリーマンの怨念が、最終回の超高視聴率を叩き出したのだろう。
今回の続編はメガバンクから証券子会社に出向させられた半沢が、IT企業の買収をめぐる攻防、それに関連する親会社との熾烈なバトルで最後には親会社である銀行の証券部をやり込める、という前作と全く同じ設定のようだ。筋書きがここまで同じでも高視聴率が取れるからくりとはいったい何なのだろうか?
キャストは北大路欣也や香川照之らの錚々たる面々に猿之助、愛之助、松也と歌舞伎役者たちが参戦、演出も過剰演技で盛られている。桃太郎侍や大岡越前の丁髷時代劇と全く変わらない。
ただ今回はコロナ禍のど真ん中。7年前よりも更に時代は不透明で、モデルになったとも言われているみずほFGの現会長佐藤康博氏ですら、「銀行業界は根こそぎ“変わる時代”に突入した」と危機感を露わにしている。呑気に社内抗争に明け暮れるストーリー展開が気になる。
視聴者は「時代遅れだ」「こんなことあり得ない」と言いつつも、お決まりの勧善懲悪を期待する。日本はアジア諸国からもIT後進国と揶揄され、IMFの発表する経済回復率では最低評価を受けている。新型コロナウィルスへの政府の対応は混乱の極み、正に衰退途上国の様相を露呈しているというのに・・・だ。
日本が非常事態にある今、敢えて狭い企業内権力闘争をテーマにした勧善懲悪時代劇が予定調和的にヒットするという事実に、更なる危機感を感じる人もいるだろう。
『半沢直樹』をみてスカッとしたいという心情は、現実を直視しない日本社会の構造的弱点の裏返しなのだろう。
| 20.08.07