民度
麻生太郎副総理兼財務相の6月4日の参院財政金融委員会での「民度が違う」発言が、本人の意図を超えて話題になっている。時々ぶっ飛んだことを言う大臣だ。
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて政府が4月7日に発出した緊急事態宣言に対し、「罰則のない外出自粛や休業要請など強制力を伴わない施策であったにもかかわらず、日本は結果として感染拡大抑制に効果を上げることができたのは何故か?」との外人記者の質問に対し、大臣は「この手の質問には、日本人が民度の高い国民であり、それ故の結果であり誇りに思う」と答えることにしていると答弁した。
しかし今に到るまで、日本のPCR検査数は先進国として極端に低く信憑性に欠けている。100万人あたりの死亡者数7人台は欧米諸国に比べると極端に低いが、アジア諸国では中間値だ。死亡率は統計方法で如何様にもなるので根拠に乏しい。
一方、日本の肺炎での年間死亡者数は厚労省の2018年統計で9万4000人と、思ったより多い数字だ。麻生大臣の発言があった6月4日現在の新型コロナの死亡者数は約900人だが、PCR検査外で単なる肺炎が死因とされてしまったケースも多数あると想像される。日本の新型コロナでの死亡者数は非常に誤解を招きやすい数字だ。
ところで面白い現象がある。2018年4月(日本語版は2019年1月)に発売されたハンス・ロスリング著「ファクトフルネス(FACTFULLNESS)」が、今年5月末時点で世界で約300万部というベストセラーになったが、このうち85万部(約28%)を日本で売ったというのだ。
この書は、世界には戦争や災害のバッドニュースが溢れ、多くの人が「状況がどんどん悪化している」と勘違いしていると警告する。格差が広がり、貧困に苦しむ人の数は増え続けていると考えがちだが、意外や真実ではないというのだ。何気ないニュースもデータを読み込んで事実を見よう、という啓蒙の書だ。
著者は感染症の専門家としてエボラ出血熱と戦い、アフリカ諸国を訪問して対処した経験があり、感染症と向き合うには人間の恐怖や焦りなどの本能を克服し、データを基に世界を見ることが最重要だと解いている。
ではなぜこの本が今、日本で人気なのか?
「ファクトフルネス」発売の2019年1月以降、「民度の高い?」国民が、やりたい放題の安倍内閣が出す政策や情報に納得できていないことを裏付けているのではないだろうか。
麻生大臣は欧米メディアの記者に日本の国民は理知的でレベルが高いのだと自慢したかったようだが、世界からは「新型コロナ感染に関して無策の政府が、国民の“民度”に救われた」と皮肉をもって解釈されていると捉えるべきだろう。
| 20.06.12