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ウェアラブル・シールド
「これが自分が探していたコロナウイルスマスクだよ!」とでも言たげに米歌手レディー・ガガは、ニコラ・フォルミケッティという日本人デザイナーが作った透明なフェイスシールドで顔面から頭部にかけて覆っている姿をインスタグラムで公表した。
見た目は新型コロナウイルスの感染防止を意識したマスクなのだが、さすがガガがみつけてきただけあった、近未来的なフォルムになっている。 ( https://www.instagram.com/p/B-va9YXlGfI/?utm_source=ig_embed )
すぐにフォロワーからは100万を超える「いいね」が殺到し、「ウイルス対策に完璧」「最高に美しい」「見た目もよいし、快適そう」「どこで買えるの? 私も欲しい」などの反響が世界中から寄せられたそうだ。
また、中国でも人気建築家孫大勇(Sun Dayong)が、「Be a Batman(バットマンになれ)」と名付けたウェアラブル・シールドを、パンデミックから身を守る作品として発表し、デザインが好評を得ている。( https://www.instagram.com/p/B8wGAWPp5A_/ )
UV照射でウイルスを殺し、コウモリの羽からアイデアを得たシールドで体全体を覆って周囲から着用者を守る。リュックサックのように肩とウエストのストラップで装着、コウモリの羽と同じように折りたたみ可能で必要なときは自動で開くというものだ。
感染症の拡大を防ぐために他者から距離を取る「社会的距離(ソーシャル・ディスタンス)」は最近誰もが知る言葉となったが、ファッション界においてはデザインのモチベーションの一つだ。「他との距離(差別化)」を作り出す装置として、時には奇抜なものとなって現れる。
例えば19世紀半ばに流行した、高位な特権階級の女性だけが着ることを許されたボリュームのあるスカートは、まさに当時の社会環境において異性とのあいだに“壁”を設け、「自動的」にソーシャル・ディスタンスを保っていたともいえよう。ファッションは社会のムードを反映し、いつの時代も差別化により身を守る、有効で最適なウェアラブル・シールドであったのだ。
文明の発達は、疫病との戦いから獲得したものが少なからずある。ペストだけ見ても、14世紀から19世紀にかけてヨーロッパから中東地域で何回も断続的に大流行している。
今回の新型コロナ禍が去っても、新たなスタイルやアクセサリーとして新しい形の保護アウターが多く登場することになるだろう。またデザインされたマスクやウェアラブル・シールドは今後も流行ることだろう。
市販のマスク不足から一般化した手作りのマスクは、暗かった街を少し微笑ましいものにしている。
それにしても、安倍首相が配ったマスクは小さくて時代遅れだ。その証拠に閣僚は誰一人として同じものをしていない。
ウェアラブル・シールドは、いつの時代もファッション性が重要だ!?
| 20.04.24
名古屋飛ばし
4月7日に発令された“新型インフルエンザ等対策特別措置法”に基づく「緊急事態宣言」の対象地域にならなかったことで、逆に今、愛知県が注目を集めている。
愛知よりも感染者が少ない兵庫、埼玉、福岡が対象になり、なぜ愛知県が対象にならないのか、分かりづらい判断だ。“法に基づく”対象地域の選考基準として、直近の微分的陽性反応増加を重視し、積分的数値に優先させた?らしいが、腑におちる人は少なかっただろう。
ネット上では自虐の意味を含む「名古屋飛ばし」という言葉が飛び交い、トレンドワードに入ってしまった。
かつて、興行の入りが悪いが故に揶揄された「名古屋飛ばし」が、1992年の東海道新幹線最速の「のぞみ」運転開始時に、通勤時間帯に名古屋駅を通過するダイヤを組んだことで更なるインパクトを持つ。
名古屋市の人口200万人以上、愛知県は800万人に迫る大都市圏にも関わらず、依然として新幹線通過地域の印象が強い。
現在の愛知・名古屋の繁栄は、尾張徳川7代目徳川宗春が藩主の時代に始まる。宗春は反骨の君主で、吉宗の「享保デフレ」時代に幕府の方針であった緊縮財政に逆らい、独自に尾張藩の財政支出を拡大して名古屋繁栄の礎を築いたことで有名だ。「芸どころ」の「名古屋飛ばし」と皮肉られたこともあるが、ユニークな文化コンテンツに富む都市として栄えたとも言える。
内閣府が公表した平成27年度の「県民経済計算」の県内総生産(名目)では、東京都の約104兆3,391億円に次いで愛知県は約39兆5,593億円で堂々の2位。大阪府の約39兆1,069億円、神奈川県の約33兆9,187億円を上まわる。
県民所得の総額を見ても、東京都の約72兆6,887億円に対し、愛知県は約27兆5,182億円で神奈川県や大阪府とほぼ並び、1人当たり県民所得で見ると、東京都の約538万円に対して愛知県約368万円とこれも単独2位だ。大阪府約313万円神奈川県約299万円と、豊かさでは愛知県が際立っている。
この豊かさがトヨタを始めとする自動車産業に支えられていることは明快だが、AI利用の自動運転化や電気自動車など、名古屋は新しいIoT技術へのパラダイムシフトでも一歩先を行く先進都市として、将来の見通しも明るい。
緊急事態宣言の対象エリアに選ばれなかったのは、自力更生力有りとみなされたからか?2027年に開通するリニア新幹線を利用した首都機能移転構想をキッチリと策定できれば、「名古屋飛ばし」転じて「副首都名古屋」実現のチャンスかも。
コロナ禍が世界の“発展”の価値基準を変えつつある中、日本の将来にとって名古屋への期待は大きいのだが・・・
| 20.04.17
エモ~い
日本全国約7000のインスタ映えスポットを掲載しているサイト「スナップレイス」は、2020年に流行が予想されるスポットとして“エモ~い”場所が注目されると発表した。
“エモい”とは「エモーショナル」から来た造語だが、「スナップレイス」が「笑い/感動/興奮/懐かしさ/恐怖/驚き」の6つの感覚で特徴づけたスポットには、まさに「この場所は“エモい”」という表現がふさわしい。
以前と比べインスタグラムのユーザー層に男性が増え、男女とも40~50代が増加していることから、より幅広い訴求力を持つ“感情を突き動かすシチュエーション”が求められているそうだ。
この“エモい”、実は過去に三省堂「新語2016」 でその年の新語第2位にも選ばれている。『三省堂国語辞典』編集委員で選考委員の飯間浩明氏は、“エモい”という言葉の使い方の源流は古語の“あはれ”の使い方に求められるとする。
吉田兼好は徒然草で、「かくてもあられけるよと“あはれ”に見るほどに」と、「しみじみと心打たれる」という意味で“あはれ”を感覚的に使い、更に遡って清少納言は枕草子で、「得たるはいとよし、得ずなりぬるこそいと“あはれ”なれ」と、「気の毒に思う」という意味で使っている。それぞれに複合的な意味を持つと言える。
こういう言葉の使い方をする感性は、現代の“エモい”のそれに通ずるものがあるというのだ。主に哀愁的で、どこか切ない感情を中間的に表現する便利な言葉ということだろう。
現代の“エモい”という言葉、「この歌詞エモい、文章がエモい、なんかエモい風景」・・・などと感覚的に使われているため、時として「どういう意味?」と戸惑うものもある。使う人により微妙に意味合いが違っているからである。
雑誌『CanCam』の16~39歳の女性に向けた調査によると、“エモい”はインターネット上では比較的使われているものの、年齢が上がるにつれ「わからない」派が増えるという。
使い方が「正しい、正しくない」ということを超えて、相手の心を感覚的に一気につかむスピードとパワーが重要なのだ。時代への“共感”を表す言葉として受けとめたい。
古語の“あはれ”や現代の“エモい”には、時空間を超えた共感力がある。
新しい表現として新しい言葉が生まれ、更に使いこなすことで、強い感情を言葉に込めることができる。
インスタグラムは単なる写真を超えて新しい共感ツールになり始めているのだろう。デジタルプラットフォームを駆け抜ける“一枚の言葉”として。
| 20.04.10
ミラーワールド
第5世代移動通信(5G)の商用サービスが日本でもスタートした。米国、韓国、中国に一年近く遅れをとってのスタートだ。
アメリカでは昨年4月9日にサービスを開始。韓国が何と米国がスタートする1時間前にサービスインし、「世界初」と強引に主張したことでも話題になった。
Huaweiを巡って米中貿易戦争真っ只中の中国も、11月1日に中国移動、中国聯通、中国電信の3大通信事業者でサービスインし追い上げている。
この三国は、遠隔医療を始め、AI(人工知能)、AR(拡張現実)などのために大量データを瞬時に伝送できる5Gの経済効果を見据えて、国策として多額の補助金を注ぎ込んで来た。日本政府が国策支援することを躊躇している隙に!?
しかも中国は5Gをスタートさせた数日後には、6Gの研究を開始したと公表。6Gの実用化は、現実の世界全てをデータ化するミラーワールド(鏡像世界)の実現を意味するものだ。
リアルワールド(現実世界)のすべてが1対1でデジタル画像化され、リアルワールドにあるすべての物や場所が実物大のデジタルコンテンツ化される世界。
ミラーワールドの実現は、ウェブ、SNSに続く次世代の巨大デジタルプラットフォームの提供と、膨大なIT事業の可能性を示唆している。デジタルワールドはリアルワールドとは一線を画していると思われていただけに、そのインパクトは強大だ。
5Gサービスによりデジタルとリアルの間に様々な懸け橋ができ、両者の間は急速に縮まることになる。不完全ながら4Gでも「Ingress」や「Pokemon GO」で、AR(拡張現実)を使って、プレーヤーがリアルワールドを走り回りながらデジタルワールド上でゲームをすることが可能になっている。
リアルワールドに埋め込まれたIoTデバイスが、リアルワールド情報をデジタルワールドに継続的に転送し、二つの世界を限りなくマージしていく。5Gではオンデマンドのミラーリングも、6Gではリアルタイムになると予想される。
やがて超現実のミラーワールドで何でもできる時代がやってくる。例えば、ミラーワールドでは実際に旅することなく、世界遺産、さらには非現実的な深海や月面も手で触れるようにディテールまで体験でき、正に映画「トータルリコール」の世界が現実になるだろう。
4Gの覇者ビル・ゲーツが、20年も前から世界の名画を高精細度デジタルカメラでアーカイブしていた意味を、世界はやっと知ることになる。
彼にはミラーワールドの登場が以前から見えていたのだろうか?
| 20.04.03