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衰退途上国

昔栄華を誇りながらその後軍事的にも経済的にも衰退、しかし今、国として別の魅力が醸し出され観光地として美しく栄えているポルトガル。そんな国を指す「衰退先進国」ということばがある。
大航海時代のポルトガルは、1497年バスコ・ダ・ガマのインド航路開拓を契機にそれまで大陸経由だった香辛料貿易のコストを大幅に減らし、ヴェネチアが握っていた膨大な利益と貿易イニシアティブを一気に奪い取った。
だが、その利益を更に増やそうと欲張って量の拡大に走ったことで、付加価値が高かった香辛料貿易の価格を自ら引き下げることになり、ヴェネチアのユダヤ人に金融の利益を握られたポルトガルは次第に衰退して行った。
栄華を誇った「栄光の時代」は、1498年のバスコ・ダ・ガマのインド航路開拓から1578年セバスティアン1世戦死までのわずか80年余りだった。
1581年には国王の血筋が絶え、スペインによって併合される。そしてまもなく1588年に起こったアルマダの海戦で、スペインの無敵艦隊はイギリス海軍にまさかの敗退。以後まったく時代についていけなくなったスペイン、ポルトガルの姿は、バブル崩壊後の日本に酷似している。
大戦後朝鮮戦争景気で力をつけた日本の輸出産業は、1970年代の自動車産業に代表されるように、低コスト、高い生産性とユーザビリティを武器に、アメリカでのマーケットを一気に奪い取る。日本をGDP世界第2位の経済大国に押し上げたのも束の間、1992年のバブル崩壊後株式市場は奈落の底に落ちて行った。
1985年のプラザ合意後アセアン諸国に安い人件費を求めて進出、製造業の大半が日本を離れる事態となり、彼の地で何兆円もの膨大な人件費を落とし続けた。この金はアセアン各国の経済を潤すが国内経済は内需が疲弊し、いわゆる「失われた30年」へと繋がって行く。
ポルトガルは没落から400年、今や「美しく枯れた観光国」としてヨーロッパの「衰退先進国」に位置付けられる。
日本はもはや経済大国ではなく、観光立国も未だ完成出来ていない。「衰退先進国」にもなれない「衰退途上国」という状態だ。しかし、そんなに悲観することはない。
一番の問題は、国民がそのことに気づき素直に「衰退」と向き合っていないことだ。30年間上昇していない賃金を武器に製造業を国内に呼び戻し、「衰退」を速やかに完成させるべきだろう。
「衰退途上国として美しく枯れて行くことは、決して悪いことではない」と思った瞬間に未来が見えてくる。

| 19.10.04

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