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巨大望遠鏡(TMT)

ハワイ州運輸省は7月10日、ハワイ島マウナケア山頂の30メートルの超大型望遠鏡(TMT)建設が15日から始まると発表した。しかしハワイの先住民達を中心とした強い反対運動にあい、マウナケアアクセスロードは現在も全面封鎖されている。
マウナケアはハワイ先住民の聖地とされる山だ。行き過ぎた開発から聖地を守ろうと一部の先住民が立ち上がり、同じポリネシアにルーツを持つハリウッドスターたちも反対運動をサポートしてドキュメンタリーショートフィルムを制作している。
YouTube ( https://www.youtube.com/watch?time_continue=20&v=A2w8TWpSfgQ )
ところがマウナケアの山頂には、既に各国の天体望遠鏡が13基設置されている。日本のすばる望遠鏡はその中でも最大級で主鏡の口径は8.2メートルあり、太陽系から129億光年も離れた別の銀河の撮影に何度も成功している。
今回問題になっているTMTは、すばる望遠鏡の4倍の直径を持ち面積で13倍以上、そしてすばるよりも6億光年遠い約135億光年先までとらえられるという。宇宙の始まり(ビッグバン)が138億年前と言われる中、天文学者はこの開発に素朴なロマンを感じていたことだろう。
しかし、TMTはアメリカ35.5%、日本25%、次いでカナダ17.8%、中国11.2%、インド10.5%と5カ国が共同出資する国際プロジェクトだと聞くと、突然政治の匂いがしてくる。
マウナケアはMauna kea=白い山と訳されるが、本当の名前はMauna a Wakea、ハワイの創世神Wakeaの山である。創世神話に伝承される神聖な山であり、日本で言えば天照大御神を祀る伊勢神宮のような存在なのだ。
同じような創生神話を持つ日本人は、その「神聖さ」、ハワイ先住民の考え方や価値観を理解できる数少ない存在ではないだろうか。価値観の違う現代アメリカ社会で生きるハワイの先住民達の悲しみと蓄積されてきた憤りが今回のマヌアケアの反対運動の元であることを、日本のメディアは代弁すべきだろう。
10年後、15年後にTMTは宇宙で生命を宿しているのは地球だけではないと証明するかも知れない。それにより人類の宇宙観・人生観は大きく変わることになる。138億年という宇宙の歴史を考えると、地球より成熟した宇宙文明があっても不思議ではない。
その時、マウナケアを守ることの意味がわかるのかも知れない。
国連気候変動サミットの記者会見でピントの外れた発言をした日本の環境大臣に、BBCをはじめ海外メディアは厳しい評価を下した。
日本のメディアも、TMT問題にもっと深い、日本独自の評価を持って臨んでほしいものだ。

| 19.09.27

移動力

「定住が人間の不幸のはじまりだった」、こんな衝撃的な書き出しではじまる長倉顕太著『移動力』(すばる舎) ( https://twitter.com/forest_nagakura ) が、なかなか興味深い。
編集者として10年間で1000万部のベストセラーを連発し、現在も東京、大阪、福岡、ハワイ、サンフランシスコなど世界中を移動する日々を送る著者は、「移動力は人生を劇的に変える」と説く。
決まった家に住み、決まった交通手段で決まった職場に出勤し、決まったメンバーといつもと同じ仕事をくり返す。そこには突然の変化は少なく安心感があるが・・・失っているものの方が多いと言うのだ。
人類の歴史を見てみると、農業を営むことで狩りをしなくなり、食物が安定し人口は増加する。人口密度が高まることで摩擦や疫病などが増え、生活が画一化して知恵を絞ることが少なくなる。定住にはこうしたデメリットが多くある、と著者は主張する。
移動を続ければ常に新しい状況に遭遇し、サバイバル能力が発揮される。安定した場所では使われることのなかった力、本来の自分自身の能力が出てくるようになるという。
國分功一郎の『暇と退屈の倫理学』(朝日出版社)の中でも、同様のことが書かれている。「なぜ人は退屈するのか?そしてそれとどう向き合っていくのか?」と問いかける。
人間はもともと移動しながら食料を得る「遊動生活」を送っていたが、農業を知って定住し、それまで持っていた環境適応能力を「持て余す」ようになってしまう。その「持て余し」がすなわち「退屈だ!」と論じる。
先行き不透明な今の時代だからこそ、しなやかな思考力と行動力を手に入れることが必要だ。そんな力を身につけるために「移動力」が貴重だと2人は主張しているのだ。
日本列島は行き止まりの場所である。何千年もかけて大陸から移動を繰り返してきた日本人の祖先は、ある時稲作を手に入れて列島に定住。その時から、環境適応能力を「持て余す」ようになってしまったようだ。
4世紀初めから5世紀にかけて、中国大陸と朝鮮半島は、激動の戦国時代だった。半島の覇権争いを勝ち抜いた王達は日本列島へ渡ってその支配者(天皇)となり、最後の安定を求めた。彼らにとってわが国はファイナルリゾートだったのだ。
日本人は先陣を切って問題解決に臨むのが苦手だ。そういう姿勢は大移動の終点としての列島の位置から来る、と考えると納得がいく。
日本列島は、今や民族移動の終点ではない。新しい秩序を求めて、日本には「移動力」が必要だ。
退屈している暇はない。

| 19.09.20

地球の肺

世界最大の熱帯雨林アマゾンで、記録的な火災が続いているとの報道がある。。
米CNN、米ABCニュース、英スカイニュースの報道を始め、フランスのマクロン大統領や俳優で環境保護活動家でもあるレオナルド・ディカプリオ氏など、政治家や著名人は、皆、異口同音に「地球の酸素供給量の20%を支えるアマゾンの森は“地球の肺”である。これが燃え尽きると地球は酸素不足になる」と主張する。
この「アマゾンは地球の肺」説に対して、世界有数のアマゾン森林研究者であり、気候変動に関する最新の政府間パネル(IPCC)報告書の主執筆者でもあるダン・ネプスタード氏は、「あれはでたらめです」と憤る。
例えば、2019年のアマゾンでの火災件数は過去10年の平均よりわずか7%多いだけだ。( https://indeep.jp/wp-content/uploads/2019/08/amazon-1999-2019.jpg )
元米国副大統領で環境運動家のアル・ゴア氏に代表されるが、なぜこうも政治家や有名人は、地球環境問題で危機感をあおるのだろうか。
実際、ブラジルの国立アマゾン研究所のフィリップ・ファーンサイド教授も、地球の酸素量は数億年かけて20.95%に安定してきたのであって、21世紀のアマゾンのジャングル頼みではない。森林は酸素を生産すると共に終末期においては酸素を消費するので、長期的に見ればプラスマイナスゼロだと学術的に説明している。
ただし気候変動要素としての二酸化炭素とメタンガス排出量は別だ。特にメタンガスは二酸化炭素の28倍もの温室効果がある上に、今や世界の温室効果ガス排出量の16%にまで上昇しているので注意が必要だという。
メタンガスは、世界中の工場、暖房機器、車、トラック、飛行機、船から排出される二酸化炭素の影響を上回り深刻だ。しかも家畜が排出する量が多く、その環境破壊力は農業国が地球温暖化に深く関与していることを示している。
世界人口は73億人だが、世界の哺乳類家畜は50億頭。その内、牛は15億頭を数える。しかも牛は反芻胃を持つので、多量のメタンガスをゲップで24時間排出し続けるそうだ。結果、地球上の総メタン排出量の36%が家畜由来だと言われる。
オーストラリアやブラジルは地球温暖化の被害者のような顔をしているが、実は牛の数では中国、アメリカに次いで多い。のどかに見える牧場も環境破壊のインパクトは工場地帯と変わらない。
農場経営者にメタンガス排出量の削減を義務づける法案ができるのも、時間の問題だろう。政治家の欺瞞の裏で、研究者たちは家畜の「減ガス化」を目指して海藻飼料から遺伝学まであらゆる可能性を探り続けているそうだ。

| 19.09.13

無電柱化

電線の地中化に関しては、アジアで日本が台湾、韓国、インドネシアに学ばねばならない案件だろう。国土交通省の発表では2011-14年にかけて、台北95%、ソウル46%、ジャカルタ35%に対して、東京23区8%、大阪市6%と大差がついている。
地震大国であり学者からの警告が出ているにも関わらず、日本の驚くべき鈍感な部分だ。韓国は朝鮮戦争後の不況を乗り越え、1988年のオリンピック前後からわずか30年で、ソウル市の50%近い無電柱化を果たしたのだ。以下に主要な都市の現状を示す。
ロンドン     100%(2004年)
パリ       100%(2004年)
ハンブルグ   100%(2004年)
香港        95%(2004年)
台北        95%(2013年)
シンガポール   93%(1998年)
NYマンハッタン 83%(2016年)
ソウル       46%(2011年)
ジャカルタ     35%(2014年)
東京23区     8%(2013年)
大阪      6%(2013年)
( http://www.kensetsu.metro.tokyo.jp/content/000034971.pdf )
日本政府の無電柱化への不感症と電力会社の怠慢は、もう国家レベルでの犯罪に近い。ヨーロッパ各国のレポートを見ると、無電柱化は景観確保以上に、防災とメンテナンス、電力事業とガス事業の公平な競争の観点などから、都市インフラとして歴史的に重視されてきた部分だ。
イギリスは1882年に「電灯事業法(The Electric Lightning Act)」を制定し、地上もしくは上空に電線を設置することを禁止した。これによってガスと電気とが公平に競争できるようになったそうだ。無電柱化は景観保全のためだけではなく、あくまでも経済競争の公平さを保つことが発端だった。
日本はイギリスに遅れること140年近く、ようやく今年5月末に災害時の物資輸送時に重要となる道路を対象に、電力会社や通信会社に電柱を撤去させる新たな制度を設けると発表した。重要区間を指定して、10年間の猶予期間終了後は道路の利用許可を更新しないという。今から10年とは耳を疑うが、何もしないよりはマシということか。
それでも特に京都の洛中はひどく、2%と末期症状である。貧しかった東ヨーロッパの古都が殆ど無電柱化を果たしていることを考えると、日本人は「慣れ」という形で防災への問題意識を失ってしまっているのだろうか?
イギリスでは無電柱化を行うのはあくまでも電気事業者だ。日本の電気事業者は費用負担1/3と甘やかされていながら、これまで率先して推進することはなかった。
消費税の値上げは社会福祉に使われると政府はいうが、南海トラフ地震が数年以内に起こるかもしれないと言われている現在、最大の福祉は「防災・減災」ではないだろうか?
福祉事業の対象者(国民)が災害で死んでしまっては元も子もない。

| 19.09.06

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