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路上の怒り
中国語では、怒りに任せて危険な運転を行う者を「路怒族」と呼び、日本でいう「あおり運転」をする者を指すとのことだが、分かりやすい単語だ。
因みに韓国では「あおり運転」を「ポボク(報復)運転」と言うそうだ。これも国民性が出ていて面白い。日本語の「あおり運転」は客観的に事象を述べるだけで、中国や韓国に比べ切実感に乏しい。
昨年日本で「あおり運転」とみなされる「車間距離保持義務違反」( https://jafmate.jp/blog/media/aori-190528-20-4.jpg )による摘発件数は1万3025件と、前年に比べ1.8倍に増えたそうだ。悪質な事件が続発していることを受け、これまで「あおり運転」が犯罪であるとの認識が薄かった警察が、やっと重い腰を上げて本格的に取り締まりを始めた結果のようだ。
アメリカでは「road rage」(直訳すると“路上の怒り”)として半世紀も前から問題視されている。きっかけは1971年に大ヒットしたスティーブン・スピルバーグ監督のデビュー作『激突!』だ。アメリカでは加害者に対して、裁判所が “アンガーマネジメント講座”の受講を命ずることもある。
悪質な「あおり運転」が世界的に報道される中、日本では原因を特定せず法令遵守を指導するばかりだ。近い将来普及するであろう自動運転車が、適切な速度と車間距離を保つことで、「あおり運転」が少なくなると真剣に考えているふしがある。
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)とタイヤメーカーのグッドイヤーが、以前11ヶ国12,000名のドライバーを対象に自動運転に関して大規模なアンケートを行ったところ、自動運転車と通常運転車の共存は危険で更に「road rage」を増やしかねない、と警告している。
“ルールを遵守する自動運転車” は、逆に「あおり運転」のいいカモになりかねないとの結果が出ているのだ。特にイギリス社会は自動運転車を最もネガティブにとらえている社会。ドライバーの55%が自動運転車に混じって車を走らせることは不快だと感じており、83%はそのシステムの誤作動を恐れているというのだ。
日本でAIによる自動運転が主流になるのは、そう遠くない2030年頃とされている。ほとんどの車が守れない非現実的な低い制限速度を設定している車社会に、交通ルールをしっかり守って走る自動運転車が混ざることは、実に興味深い警察への問題提起となるだろう。
プリウスに乗って制限速度を守る人が「あおり運転」に狙われてしまう社会構造は、曖昧な速度違反取り締まりをする日本の警察の姿勢の中にこそ、その原因がありそうだ。
| 19.08.30
アンリアレイジ
世界的建築家の隈研吾が企画した、オルタナティブ・ロック、サカナクションの山口一郎、デザイナー、アンリアレイジの森永邦彦との3者による「more than Reason 隈研吾+山口一郎+森永邦彦展」( https://www.livingculture.lixil/topics/assets/3806e4add18a6b35fe52ebe38a144b6a.jpg )が、ジャンルを超えて注目されている。
この企画展はタイトル「more than Reason」が示すように、“意味や解釈、理屈を超えた体験を創ること”を目指して制作された。
ギャラリーには黒と白の部屋があり、プリーツドレスを着たマネキンが空間の中央に浮かぶ。森永が制作したドレスの上部は隈による天井、そして壁面のカーテンへとつながり、その境界は曖昧だ。展示空間には山口が生活音や環境音をサンプリングした音楽が流れる。
使用した素材は建築現場で使用される安価な養生シート、使用後は捨てられ主役となることはない。そんな素材があえてドレスに仕立てられ、精巧なドレスから手仕事の跡が感じられるカーテンまで、同一素材のコントラストを楽しませる。
デザイナー森永邦彦が2003年に設立したアパレルブランド、アンリアレイジ ANREALAGEは、REAL(日常)、UNREAL(非日常)、AGE(時代)をミックスした造語だ。
ミュージシャン山口一郎が2005年に結成したオルタナティブ・ロックバンド、サカナクションも魚とActionを組み合わせた造語だ。
昨今の日本のアパレル業界は「若者のファッション離れ」など「服が売れない」と言われているが、それは何のクリエイションも刺激も戦略もなくグローバル化しない日本の大手メーカーブランドの話だ。
デザイナーのクリエイティビティーとオリジナリティーで世界で勝負する「コムデギャルソン」は伸びている。2018年5月期の売り上げは240億円に達し、直近3年は年率10%近い成長を遂げている。
ルイ・ヴィトンやクリスチャン・ディオール、ウブロなど名だたるファッションブランドを傘下に置くLVMHグループの株価は、2019年7月に入り過去最高値を更新。
CEOのベルナール・アルノーは、資産1076億ドル(約11兆6400億円)にまで膨らみ、ビル・ゲイツを抜いて世界第2位の富豪となり、話題となった。
そうした中、オルタナティブなクリエイターと組んで新しい価値を創ろうとする「アンリアレイジ」は、グローバルマーケットに戦いを挑む数少ない日本ブランドだ。
隈研吾のブランド開発力に、山口一郎・森永邦彦がコラボして創り出す、まさに意味や解釈、理屈を超えた「オルタナティブな体験」。こういうクリエイションこそ今世界が求めているものだ。
日本の大手アパレルメーカーブランドはそろそろ気がつく時だろう。
| 19.08.23
スマイリング シンデレラ
先週末のAIG全英女子オープンで通算18アンダーで優勝した日本の渋野日向子(20)は、1977年に樋口久子が全米女子プロ選手権を31歳で制覇して以来、42年ぶり2人目のメジャー制覇を成し遂げた。
実は彼女、昨年プロテストに受かったばかりの新人。今年5月のLPGAツアー「ワールドレディスチャンピオンシップ・サロンパスカップ」に大会史上最年少で初優勝し、続く7月の「資生堂 アネッサ レディスオープン」でも優勝。賞金ランキング5位以内に入ることで8月の全英女子オープン出場権を得て、スピード参戦したのだ。
そして、海外初参戦となる全英女子オープン4日間をマイペースで戦い切り、メジャー優勝をあっさり決めてしまった。ラウンド中にモグモグしていたスケソウダラの駄菓子は「タラタラしてんじゃね~よ」とのこと。笑顔を絶やさないその姿は、海外メディアから「スマイリング シンデレラ」と呼ばれた。
1987年に米ツアー賞金女王になった岡本綾子ですら取れなかったメジャー。この偉業に岡本は、「メジャー初出場で優勝とはうらやましい限り。あと2、3年たつと、ゴルフをやればやるほどメジャーは遠のいて取れなくなる。初出場でピュアに打算なくプレーができたことがタイトル奪取につながったのでは?」とコメントした。
98年生まれの渋野は、2010年に全米女子プロランキング1位になった宮里藍に憧れてプロを目指した世代で、層の厚さから「黄金世代」と呼ばれる( https://mainichi.jp/articles/20190805/k00/00m/050/282000c )。
その宮里藍のコメント「Big Congrats !!!!!!!、What a play!!!!!!、Amazing!!」からは興奮が伝わってくる。さらには「最高過ぎる!!!、本当におめでとうー!!!、So happy for you!!!」と「!」を33連発。岡本とは対照的だ。
ところでLPGAは目下のところ韓国選手の天下だ。全米ツアーで今年すでに2勝したコ・ジンヨンが、世界ランキング1位で頂点に君臨する。技術力の高さと驚くべきメンタルの強さを持つ、鍛え上げられた戦士だ。韓国は国家プロジェクトのような体制で、技術だけではなく語学も含めてジュニアからエリート教育を施している。
渋野の優勝インタビューの言「ちなみに優勝賞金っていくらなんですか?(笑)」が海外メデイアには大受けで、「それで好きな駄菓子を思い切り買いたい」と答えたノー天気な渋野節にもズッコケた。
ビジネスとして戦略的に世界を狙ってくる韓国選手にとって、賞金額も知らずに駄菓子をかじって無邪気な笑顔でメジャーを制覇する日本選手は許せない存在かもしれない。
しかし、これが日本の新世代の力だろう。
| 19.08.09
バーチャル・インフルエンサー
ソーシャルメディア上で大きな影響力を持つ「インフルエンサー」は、今や企業のマーケティング活動に欠かせない存在だが、実在しないものがある。
「バーチャル・インフルエンサー」として最も有名な存在の1人が、Miquela Sousa
( https://www.instagram.com/lilmiquela/?hl=ja )という19歳?の女性だ。
コンピューターグラフィックス(CG)でつくられた3Dキャラクターは1998年生まれでカリフォルニア在住、スペイン系ブラジル人のミュージシャンというプロフィール設定。
2016年にLAの企業がインスタグラムに登場させ、現在フォロワー数は160万人以上だという。ツイッターやフェイスブックのアカウントを持ち、ソーシャルメディア上では「Lil Miquela」と称する強力なインフルエンサーだ。
彼女はシャネルやシュプリームなどのファッションを身にまとい、実在するセレブと一緒に写った写真をアップするなど、他のインスタグラマーたちと同じような行動でファンを楽しませている。
2018年にその正体が明かされるまで、多くのファンは彼女を生身の19歳だと思っていた。しかし実際は多くのフォロワーから「いいね」を集めるように設計されたAIフェイク(アバター)だったのだ。彼女を作成した人物は未だ明らかになっておらず、謎めいた部分が注目を集める理由にもなっている。
ブランド側にはこうしたアバターと働きたがる傾向がある。時間をかけて写真テイクする必要がなく、コンピュータ上で1から理想のブランドアンバサダーを作ることができる。企業の広告塔としては便利で完璧だ。
さらに現在は、すでに亡くなってしまった過去の有名人がデジタル上で蘇り、デジタル・インフルエンサーとして振る舞うことも可能になったそうだ。
「バーチャルヒューマン」研究の第一人者、ジュネーブ大学のナディア・マグネナット・テール教授によると、既に3Dスキャンなしで過去の映像からバーチャルヒューマンをつくりだせるらしい。
ハリウッド映画『Fast and Furious 7』では制作中に俳優ポール・ウォルカー氏が亡くなってしまったが、彼のバーチャルアクターを使って残りのシーンを撮り、映画は無事完成している。
広告における「バーチャル・インフルエンサー」の起用は広まる一方だが、「広告における真実」という観点から疑問の声も起こっている。しかし実在するインフルエンサーたちも、所詮真実のみを発信しているわけではないとの反論には説得力がある。
自分のアバターがソーシャルメディア上で「不老不死」になり死後も永遠に進化し続ける時代が、すぐそこまで来ているのだろうか。
| 19.08.02