座り方改革
シドニー大学の研究者たちが、世界20の国や地域の成人を対象に平日の座位時間について調査した結果、日本が1日420分(7時間)で最も長かったとレポートされている。
じっと座っていると心臓血管系疾患になりやすく、しかも姿勢が悪いと腰をはじめ体にさまざまな不調を招く。そうした姿勢での座位時間が長いということは、日本の場合は就労時間が長いともいえるのかもしれない。
早稲田大学スポーツ科学学術院 岡浩一朗教授によるレポートも、「40~64歳の日本人対象の調査で、1日の平均的な総座位時間は8~9時間」とシドニー大学のレポートを裏付けている。
欧米諸国では健康維持のために2000年頃から「座り過ぎ」が問題視されるようになった。オーストラリアは既に官民一体となりテレビCMで、「Catalyst-Sitting Is Deadly」と警鐘を鳴らしている。
( https://www.youtube.com/watch?v=NVNCm_Bqlfs )
イギリス政府も2011年に「座り過ぎのガイドライン(英国身体活動指針)」を作成。「就業時間中に少なくとも2時間、理想は4時間座っている時間を減らし、立ったり歩いたりする低強度の活動にあてるべき」と勧告している。
アメリカでは、シリコンバレーのIT企業を中心に、立ってデスクワークができるスタンディングデスクが浸透し始めている。
世界は「仕事はより短く、そしてデスクワークの時もなるべく座らないようにしよう!」と訴えている。
翻って日本ではどうだろう。現内閣は「1億総活躍」や「人生100年時代」を政策キャッチフレーズに、「女性も男性も、お年寄りも若者も、障害や難病のある人も、家庭で、職場で、地域のあらゆる場で、だれもが活躍できる社会を実現しよう」と訴えているが、中身がない。
社会保障の原資獲得のために、国民に少しでも長く働いてもらい定年を伸ばし、年金支給年齢を引き上げようということらしい。「座り方改革」など到底考えていない。
大半の日本人は「働かずに暮らす」ことに罪悪感を持っている。これがうまく政治利用され、長期にわたり長時間働くことを強いられているように見える。座位時間を巡る問題意識には、日本と欧米の間にまだまだ大きな認識の差がありそうだ。
欧米ではAIロボットの開発は、「人間の労働を置換し、人間が働かなくていい社会を作る」ことを明確に目標化している。
日本ではAIロボットの開発は、「人間の職を奪う」と考えられている。「AIロボットに奴隷的仕事を任せ、場合によってはGDPも支えてもらい、人間は少しでも座位時間を短くしよう!」と促すべきではないだろうか?
「座り方改革」的発想のない「働き方改革」を、単に社会保障の原資確保のためだけに肯定するのは間違いだろう。
| 19.06.07