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うんこ博物館
子どもの“うんこ好き”は昔から世界共通だ。子どもたちは「うんち!」と言っただけでげらげら笑い、「うんこ!」と言っただけで友だちになれるのだ。
最近、大人も「うんこ」なる物がただの排泄物で不浄なものであるという概念から離れ、人類にとって大事なものだとわかってきたようだ。
先日放映されたTBS医療ミステリー「インハンド」第7話は、まさに「うんこ」の偉大さを痛感させる内容だった。
PID(原発性免疫不全症候群)で闘病中の女の子に、亡くなった研究者の父親が冷凍保存していた自分の糞便を見つけた医者が、移植して治療に成功するというものだ。
人の腸内では無数の細菌が絶妙なバランスで共生関係を保っており、そのバランスが崩れると様々な病気が発症する。そこで、健康な人の腸内細菌を別の患者に移植するという治療が最近始まった。それを「糞便移植」と言うのだそうだ。
人類にとっての「糞便移植」(糞便微生物移植) ( https://www.juntendo.ac.jp/hospital/clinic/shokaki/about/treatment/intestinal_microbiota.html )は、抗生剤が効かなくなった感染症を治療する挑戦的方法だ。また、肥満やうつ病治療にも効果があるらしい。英国国民保険サービス(NHS)も今年2月から健康状態を示すキーワード100語の中に「うんこ」を加えている。
そうした関連か、最近「うんこミュージアム」なる物が横浜駅複合型体験エンターテインメント施設 “アソビル” 内にオープンして話題になっている。「うんこ」をテーマに国籍や年齢に関係なく「うんこ」体験を楽しむ日本初の施設とのこと。マスコットの「ウンベルト」は、「便座で宇宙の真理に思いをはせる哲学者」という設定だそうだ。
一方、英国では既に2016年3月、世界最初のうんこ博物館「The National Poo Museum」が南部のワイト島にオープンしている。「もしPooがなければ地球はそれほど豊かな惑星ではなかった」を仮説として、「人類にとって糞便とは?」をテーマに3800万年前の糞の標本も展示してあるとのこと。
「うんこ」ブームは過去に何度かあったが、英国は“リアルな排泄物(人間含む)そのもの” を展示し、日本は“如何に「うんこ」をきれいに見せるか?” をポイントに展示している。正反対なところは国柄の違いでもあり面白い。
日本では多くの男性が ”アイドルや憧れの女優は絶対に「うんち」などしない!しないでほしい!“と真剣に願っていたふしがある。
しかし遂に地球上で最も高い生存ヒエラルキーを持つのは、 “人類”ではなく「うんこ」の中の “微生物”であると認める時が来たようだ。
| 19.05.31
技術書典
聞き慣れない言葉だが、IT業界で働くエンジニアやその卵たちが自ら作ったソフトウェアの情報交換や、プロダクトを展示即売するイベントを「技術書典」( https://techbookfest.org/ )と言う。
「技術書典」は、技術書の頒布を通じて新しい技術と出会い、互いに交流し研究する場だ。その内容の濃さと異様な熱気に包まれる会場の雰囲気は凄く、毎年開かれるようになり、昨年からは春と秋の2度開催されほど急速に大きく盛り上がってきている。
今年の春は4月14日に池袋サンシャインシティで行われ、参加者はほぼ同業者だが、一日で一万人以上来場したようだ。「技術書典にロケットランチャー撃ち込まれたら日本のゲーム業界は終わる!」という冗談も出たほどだったそうだ。
逆に言えば日本のITコンテンツクリエーターは1万人程の小さな閉じた集群なのだとも言える。しかし世界のグローバルIT企業群は、2016年以降急速に力をつけ、世界の時価総額ランキングの上位を独占、マイクロソフトとGAFAと言われるアメリカ企業がトップに並ぶ。2018年にはここに中国からテンセントとアリババが加わった。
2019年4月の発表では時価総額上位10社を米中のIT企業がほぼ独占し、それらが世界の時価総額全体の約10%弱を占める。片や日本企業は、45位にトヨタ自動車がやっと食い込んだだけだ。時価総額トップ10社に日本企業が8社入っていた1988年から隔世の感がある。平成の30年間で時代の潮目は明らかに日本から離れた。
「技術書典」の参加者が同業者だけで内向きに賑わっていると聞くと、正直違和感というか敗北感すら覚える。
追い打ちをかけるように、データ調査会社Sensortowerが、App Store における国民1人当たりの平均支出額(各国別課金総額を人口で割ったもの)は日本が世界的に突出していると報告している。
2017年App Storeでの日本人1人当たりの年間支出額は$214とダントツの1位だそうだ。2位オーストラリアの$114の約1.9倍、アメリカの約2.3倍だ。しかもこの90%がゲームに投じられている。課金系ソーシャルゲームコンテンツは既に欧米や中国では規制対象になっていることを忘れてはいけない。
IR法案通過時にあれだけアディクト(依存症)対策をうるさく言ってきた政治家たちは、日本政府が世界で規制されている課金型ゲームを野放しにし、貴重なIT技術者がグローバルマーケットに背を向けて課金型ゲームの開発に勤しむ姿を健全とみているのだろうか?
日本が世界で闘うグローバルカンパニーを生み出せない原因は、この辺にもありそうだ。
| 19.05.24
JOMO
「Joy of Missing Out」、略して「JOMO」ということばが流行ってきている。常にネットワークに繋がっていないと不安だった時代が過ぎ、むしろ繋がらないことの喜び、繋がらない時間の充実感がネット時代における究極のパーソナライゼーションになるという自虐的現象が起こっているのだ。
SNSの拡大は、プライベートな時間とソーシャルな時間の線引きをあいまいにした。常に何か楽しい気の利いた返信をしなければと重荷に感じる人を増加させ、いつしか義務感で息苦しささえ感じさせるような弊害を引き起こしている。
昨年9月にiPhone のiOS 12に新たに加わった人気の「スクリーンタイム」( https://support.apple.com/ja-jp/HT208982 )は、iPhoneの利用状況を週間でレポートし、アプリごとの利用時間の制限を設定できる機能だ。Webページやアプリの平均閲覧時間が前週よりも減少していると、何故かホッとする。
10代から30代を対象にした「スクリーンタイム」に関するネットリサーチ社の調査結果によると、1日平均利用時間は5時間前後、利用アプリのTOPは10代が「YouTube」、20代と30代では「Safari」という具合だ。
10代はデジタルネイティブと言われる世代で、生まれながらにスマホからあらゆる情報が流れ込んできているため利用の目的意識が薄い。
20代30代のいわゆるミレニアル世代は、SNSが利用アプリ上位にランクインし、圧倒的に「Safari」が支持されている。逆に言えば年齢が上がるほど目的意識を持ってスマホを使っているようだ。
世界人口の5割弱がSNSを利用する時代、英国の国民投票によるEU離脱や、トランプ大統領もSNSによって生まれてきたようなものだ。そこには組織的な世論工作活動の可能性も指摘されており、常にフェイクやジャンクな情報にさらされていることを忘れてはならない。
世の中に存在するあらゆるモノがインターネットに繋がるIOT時代では、ビッグデータと称して人々はその行動が常に監視されることになる。これまで体験したことがないような快適性や利便性、あるいは安心感などを得られる反面、世界はAIという見えない力に操られ、「家畜を育てていたつもりが、気が付けば自分が家畜になっていた!」という笑えない現実に直面することも?
そうしたことへの反動か、米国では2017年の紙の本の売上が5%増え、電子書籍は17%減という興味深いデータが出ている。
5G時代に世界がIOTへ向かう一方で、IT長者の間では子供を「JOMO」で育てるのがトレンドになっているというのだから面白い。
かのスティーブ・ジョブズが幼い自分の子供にはスマホを持たせなかったのも有名な話だ。
| 19.05.17
再建の美学
4月15日夕方、パリ発祥の地、シテ島のノートルダム大聖堂( https://www.notredamedeparis.fr/en/ )の尖塔が黒煙をあげて焼け落ちた。
17日、フランス政府は早々と、火災で焼け落ちた尖塔の修復に関しデザインを世界中の建築家から公募すると発表し、公募を通して完全に新しいデザインにすべきかどうか決定するとのことだ。
ノートルダム寺院の敷地はローマ時代にはユピテル神域という神聖な場所であり、ローマ崩壊後キリスト教徒はこの地にバシリカを建設した。そして次第に現在のパリ市がその周辺に形成されたという。
1163年には司教モーリス・ド・シュリーによって現ノートルダム寺院の姿で再興され、工事は60年余をかけて1225年に完成した。
今回消失した尖塔部分は、1845年に建築家ヴィオレ・ル・デュクとジャン・バティスト・ラシュスの共同設計でそれまでのデザインを大きく変更して修復されたもので、1859年に完成している。
当時のカトリック教会は、大聖堂を歴史的記念物として修復するだけでなく、より美しく飾り立てることで教会の復興を示したいと要求していた。この声を背景に、当時大胆な設計がなされたようだ。
以前よりも10メートルほど尖塔を高くし、またその周囲に福音史家と十二使徒の彫像を付加した。これは大幅な現状変更であり、彫像のモデルがヴィオレ・ル・デュク自身や工事に携わったスタッフたちであったことから、その後厳しい批判を浴びることにもなった。
日本では、昭和24(1949)年1月26日に法隆寺で修復工事中だった金堂が全焼している。7世紀の壁画である国宝の十二面壁画も大半が焼損してしまった。法隆寺は現存する世界最古の木造建築で1897年に国宝登録されていた為、金堂自体は5年余りで再建された。しかし焼損壁面は、安田靫彦や前田青邨ら先鋭画家たちの模写により、その後20年近くかけて細心の注意を払い忠実に完全復元された。
この日仏の歴史的建造物を前にした修復士たちの姿勢の違いは、面白いほど対照的である。
フィレンツェの工房で絵画の修復士を目指す日本人の主人公を描いた辻仁成と江國香織の小説『冷静と情熱の間』で、絵画の修復士という職能について日本では「オリジナルの過去の絵画に戻すこと」が前提なのに対し、イタリアでは「オリジナルの絵画に新たに解釈を加えること」が求められると語られている。
すべての歴史遺産は常に喪失のリスクにさらされている。修復保存することも重要だが、喪失を機に現在の価値を加えて未来へと繋ぐ営みも貴重であるという解釈だ。
ノートルダム寺院の復元に、日本の建築家も是非応募するべきだ。
| 19.05.10