嫦娥奔月
1月3日、中国の月探査機「嫦娥(Change)4号」が月の“裏面”に着陸を成し遂げたというニュース( https://www.afpbb.com/articles/-/3204930 )が世界を駆け抜けた。が、人類初の快挙の割には日本を含む自由主義諸国では何故かあまり報道されなかった。
この月探査機の名前「嫦娥」は、中国の神話「嫦娥奔月」に描かれる月に住む仙女の名前で、日本の「竹取物語」の「かぐや姫」は「嫦娥」に由来すると言われている。月から来た美しい姫は十五夜に、育ててくれたお礼にと老夫婦に不老不死の薬を手渡し月に帰って行く。
「嫦娥」が住むと言われる月の裏側と自由に交信するのは、実は現代の技術を持ってしても難しく、これまではアメリカ海洋大気庁(NOAA)が打ち上げた人工衛星「DSCOVR」が撮った写真しかなかった。そこに探査機を着陸させるには地球から電波を届けなければならない。
そのため中国は今回の探査機の打上げに際して、予め月と地球の重力が均衡するラグランジュ点(L2軌道)と呼ばれるポイントに2018年5月に通信衛星「鵲橋(Queqiao)」を打ち上げて、事前に地上との交信を可能にしていた。
しかし今回のこの中国の快挙は、50年前にアメリカの有人宇宙船アポロ11号が月に降り立った時に比べて高揚感がなかったばかりか、むしろ中国は何をするのかと多くの国で警戒された。
どうやら中国はこのラグランジュ点上の通信衛星「鵲橋」を使って第三国、特に一帯一路構想の範囲に含まれる国々に向け、次世代通信サービスを重点的に提供していくつもりのようだ。通信や地球観測データだけでなく様々なアプリケーションを欧米に先駆けて提供していくことになるのだろう。
「鵲橋」に先んじること2年、中国が2016年8月に世界初の量子通信衛星「墨子号」の打ち上げに成功していることも忘れてはいけない。2017年7月に同衛星で地上・宇宙間の量子テレポーテーションに、8月には量子鍵配送にも成功し準備は万全だ。
いつも秘密主義で情報公開を渋る中国が、今回、嫦娥4号の月の裏側着陸の快挙を極めてオープンに報道した。
これは特にアメリカに大きなインパクトを与えたようだ。この上5G技術で中国に先を越されると、アメリカの情報支配力は危機的な敗北に追い込まれる。
別れの際「かぐや姫」が老夫婦に手渡したように、「嫦娥」という「不老不死の薬」は、宇宙開発をリードしてきたアメリカにとって余りにも苦い薬だったのだ。
| 19.03.15