trendseye

Setouchi Islands

今年で14回目となるニューヨーク・タイムズ紙が選ぶ「今年訪ねるべき52のデスティネーション (52 Places to Go in 2019)」が1月10日に発表され、日本から「瀬戸内の島々」が7位に選出され注目を浴びた。
日本にとってランキング10位以内に選出されるのは初めてで、1位はカリブ海の米自治領プエルトリコ、2位はインド南部の古都ハンピ、3位は米カリフォルニア州サンタバーバラだった。( https://www.nytimes.com/interactive/2019/travel/places-to-visit.html )
同紙が毎年発表するこのランキングは、世界観光市場での独自の調査結果と専門家の意見を総合し、ニューヨーカーの目でその年最も大きな影響力を持ち魅力を備えた観光地を選出している。あくまでもニューヨーカーが1年52週に訪ねるべき最も感動的デスティネーションという設定なので、極めてスノッブなアメリカ東海岸のしかもニューヨーク的に偏った見方で選んでいる。
そういった意味で、日本の瀬戸内の島々の良さがわかる洗練された視点を持ったランキングだとも言える。
同紙は瀬戸内海と沿岸地域を「日本の内海にある芸術と自然の調和」と表現し、一歩踏み込んだ理由で岡山、香川両県の島々などで今年開かれる現代アートの祭典「瀬戸内国際芸術祭」や、広島市の原爆資料館本館、17年10月に就航したせとうちクルーズ(広島県尾道市)の豪華フローティングホテル「guntu (ガンツウ)」などを紹介している。
2018年は日本の入選なし。2017年は15位に大阪がランクイン。2016年なし。2015年は35位に四国、2014年は18位に石垣島、41位に野沢温泉が選出されている。日本人から見ると意外かも知れない。
ニューヨーク・タイムズはリベラルな高級紙として有名であり、日本に対しても辛辣な記事が目立つ。安倍首相や麻生元首相、鳩山元首相たち日本の政治家の視野の狭い政治姿勢を酷評し、福島原発事故では日本の情報隠蔽体質を強く批判して来た。さらに日本の捕鯨への批判も強く、米国では民主党寄りである。
従ってこのランキングは、ニューヨークに住むリベラルなアッパーミドルたちの、世界中を知るコスモポリタンな視点とは何かを現している。選ばれたデスティネーションは、日本の観光産業のこれからの方向性を示唆しているのではないだろうか?
3千万人を突破した日本のインバウンド観光は転換期にある。首都圏・関西圏の空港インフラは既に受け入れに限界が見え始めている。量から質への切り替えが喫緊の課題だ。
世界の大都市のアッパーミドルの視点をいち早く察知し、コスモポリタンで知的な旅行者への対応力を持つことが、これからの日本の観光産業を支えて行くだろう。

| 19.01.25

モーター音

スウェーデン、デンマークを始めとする北欧各国は、2030年までにエンジン車の販売を終了し、2035年にはハイブリッド車も廃止すると発表している。
VOLVOは2019年中にはガソリン車の製造を全て終了して、EVとハイブリッド車のみに完全シフトすると宣言した。
これに続いてドイツ、オランダ、フランスでも「2025年から2040年にかけてエンジン車及びハイブリッド車の販売禁止を求める法案」が順次可決されていく見通しだ。
アジアでも深刻な大気汚染を背景に、中国とインドを中心にEVの普及が急速に進んでいる。中国は今やEVの世界累計販売台数約200万台のうち65万台以上を占める“世界一のEV大国”だ。インドも2030年までに国内販売の自動車をすべてEV化する、と拮抗している。
中国、インド、欧州のEV化で、概ね2030年を境に車の「エンジン音」は世界で「絶滅!」する趨勢である。一方「モーター音」の創造が、バカにならない価値を持ってきそうだ。
そんな中1月14日に始まったデトロイトの北米自動車ショーでは、EV化を背景に参加した欧州メーカーはVWだけだったようだ。米国はビッグ3が時代に逆行した大型SUVを発表、トヨタはスープラを17年ぶりに復活させ、豊田社長自らガソリンエンジン車の音にこだわったスポーツカーの発表にはしゃいでいた。自動車産業の大きな転換点にあって、リーディングカンパニーのトップとは思えない時代錯誤なメッセージが気になる。
それに先駆けて1月11日までラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」では、驚くべきことに老舗ハーレーダビッドソンが電動バイク「LiveWire」を初出展し参加者を驚かせた。電動バイクはもはやIT家電だというメッセージだ。
「LiveWire」は、なんと電動ながらも完全な無音ではない。ハーレーは新たな「モーター音」をつくり、走行している速度がライダーや周囲の人々にも伝わるようにしているのだ。高揚感のある実に良い音を創っている(https://youtu.be/exUDbWXi4Do )。
ほんの数年前までは、「エンジン音」へのこだわりを売り物にしていた超高級車フェラーリやランボルギーニ、アストンマーチンの12気筒エンジン独特の高音が賞賛され、「フェラーリサウンド」と形容されたりした。
しかし、時代はあっという間に車に「モーター音」を求め始めたようだ。日本の自動車産業も世界に先駆けて構造破壊を行わないと、次世代、米国ビッグ3に抱きつかれたまま中国製EVに葬り去られてしまう、という事態が起きない保証は全くない。

| 19.01.18

ポータグルメ

最近「ポータグルメ」という食スタイルが存在感を増してきた。デリバリーがライフスタイルを大きく変えようとしている。
「ポータグルメ」とは「ポータブル/持ち運びできる」と「グルメ/おいしい食」を掛け合わせた造語だ。
近年飲食店が店頭サービスに加え、Webでの受付システムとデリバリーを組み合わせて独自の中間サービスを構築し、テイクアウト事業への参入が相次いでいる。今や外食と中食の垣根は極めて曖昧で低くなって来ている。
中でも中間サービスの代表はキッチンカーだろう。昨年11月にスタートした東銀座の「AKINAI銀座プロジェクト」( https://fukasuru.com/business02.html )が注目を集めている。
東銀座駅から徒歩30秒の好立地に、フードトラックやコンテナを利用して人気飲食店が集結している。2tトラックで“厨房”ごと持込み、「人が移動するのではなく、店舗がニーズにあわせて移動」して行くという仕掛けだ。
「トレンドにあわせた人気店を適宜誘致する」がプロジェクトのコンセプトだ。餃子専門店の「東京餃子楼」や、東十条本店で好評を博した“坦坦混麺” 専門店麺処ほん田プロデュースによる「 紅麗」が初出店し話題を集めている。
一方2016年に首都圏からサービスを開始した「UberEATS」だが、これもいよいよブレークして好調だ。Uberの配車ノウハウを使って、登録しているレストランの料理を一般人が配達してくれるというフードデリバリーサービスだ。
当初東京都港区のみでスタートしたが、現在では東京23区をはじめ、横浜・川崎・京都・大阪・神戸・埼玉など7都市に拡大している。登録された国内の加盟レストラン数は既に3500店舗を超えており、新たにスターバックスも加わるようだ。
注文してわずか20分で料理が届き、1人前からでも注文できるなど、デリバリーニーズに合わせた多様なサービスが増えてきている。配達手数料が1件380円かかるが、次第に市民権を得てきているようだ。
外食・中食がますますボーダレスな競争環境となっていく中で、10月には消費税10%への増税に対して、持ち帰りには軽減税率(8%据え置き)の適用が予定されている。これにより「ポータグルメ」への流れが加速することは間違いなさそうだ。
改めて外食の価値とは何かが問い直されることになるだろうが、同時に2%の税率の違いを処理する複雑な課税システムを、小売の現場に押し付けるのは問題ではある。
ところが面白いことに、政治家と税務当局による現場に理解のない安易な選挙対策的優遇システムが、民業の創造性を膨らませることになろうとは。

| 19.01.11

大正時代

戦争という激動の明治時代と昭和時代に挟まれ、その短さもあってかあまり注目されることがなかった「大正時代」だが、「平成時代」との類似性が指摘されている。平成が終わりを迎えようとしている今、ポスト平成を考える上で短いながらも参考になる時代だと言える。
1912年に始まった「大正時代」は、明治時代の二つの戦争に勝利した好景気と1914年からの第一次世界大戦の特需が重なり、今で言うバブル時代であった。そして明治維新後、世界史と日本史が「現代」の日本で初めて本格的に交わった時期でもあり、女性の社会進出や欧米文化の流入だけを見ても、わが国の現代社会の礎が築かれた時代である。
明治維新後わずか30年余りで、鎖国していた国が一気に台湾を手に入れ、中国遼東半島に進出。「大正時代」に入り、朝鮮の併合と第一次世界大戦の軍事需要が経済に拍車をかけ、国として未成熟な中ににわか成金が続出した。
しかし第一次世界大戦が終わった後は過剰設備が重荷になり、追い討ちをかけるように関東大震災で大打撃を受け、疲弊したまま昭和時代に突入していく。その後の世界大恐慌による社会不安から軍部の独走を許し、ファシズム的現象を肯定して第二次世界大戦に繋がる歴史はよく知られる通りである。
「大正」という元号は、中国の古典『易経』のなかの「大亨以正、天之道也」に由来する。後に「大正デモクラシー」と呼ばれる自由を求める民主主義運動が花開き、普通選挙、言論・集会・結社の自由を求める運動、海外派兵の停止を求める運動、男女平等、部落解放、ストライキ権の獲得運動、自由教育、大学の自治権を求める運動など、庶民の権利意識が勃興した時代でもある。
更には「モボ・モガ」と言われる新しい西洋のライフスタイルの台頭が、現代に通じる大きな文化的転換をもたらした。三越呉服店が三越デパートになり、震災復興から新宿・渋谷が新都心として開発され、羽仁もと子による自由学園( https://www.jiyu.ac.jp/ )が池袋に設立されたのもこの時代だ。
関西でも神戸がアジア最大の貿易港となり、阪急小林一三による私鉄沿線の衛星都市開発がその後の山手文化のメインストリームとなっていく。宝塚歌劇団も1914年(大正3年)に創立されている。まさに現代日本のライフスタイルの原点が「大正時代」にあるのだ。
平和ボケした平成の先にはどのような時代が来るのか?過去の順番通りだとすれば、次は戦争の時代ということになる。
平成最後の年末に、IWC(国際捕鯨委員会)からの脱退とはタイミングが良すぎる。たかがクジラと言うなかれ!
“歴史は繰り返す?”と思わせるような雰囲気でもある。

| 19.01.04

CATEGORY

  • BOOM
  • FOOD&RESTAURANT
  • LIVING&INTERIOR
  • SCIENCE&TECH
  • TRAVEL
  • TREND SPACE
ART BOX CORP.