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パスポートパワー

永住権などの取得支援を手掛ける英国のHenley & Partners社が、200の国・地域から政府のデータを集めてランキングを作成する「事前にビザを取得すること無しに渡航できる国の数 “Henley Passport Index”」(https://www.henleyglobal.com/henley-passport-index/) の2018年最新版で、日本は「ビザ規制指数」で世界一になったようだ。
1位日本(189)、2位シンガポール、ドイツ(188)、3位スウェーデン、スペイン、韓国、イタリア、フランス、フィンランド(187)、4位アメリカ、イギリス、ポルトガル、ノルウェー、オランダ、ルクセンブルク、オーストリア(186)、5位スイス、アイルランド、デンマーク、カナダ、ベルギー(185)と続くが、指数はノービザ(査証免除待遇)で入国が可能な国の数を表している。
パスポートのランキングに何の意味があるのか?という意見もあるが、まず指数を上げる為には入国した対象国民が絶対に出国するという保証が必要。次いで経済発展度、民主化度、治安等のレベルが考慮されるため、「ビザ規制指数」はその国の国際的地位の指標のひとつとしてしばしば引用されるのだ。
前回よりも順位を大きく伸ばしてきた国はウクライナ (128<108)、ジョージア (111<99)、中国 (70<53)だ。中国人の入国に利便性を与えることによる経済効果は大きいが、中国人のビザなし渡航を認める国数が、香港(169)や台湾(148)の半数未満にとどまっていることは、中国に対する国際社会の信頼度が未だに低いことを示している。
2013年に日本へのビザなし渡航が可能になったタイは来日者数が激増し日本の観光産業に大きく寄与したが、その反面入国者数と出国者数が整合せず、不法移民の温床になっているとの指摘もある。
ちなみにワーストには、アフガニスタン、イラク(30)、ソマリア、シリア(32)、パキスタン(33)等、紛争やテロの懸念がある国が並ぶ。
一方、カナダの金融コンサルティングArton Capital社による「Passport Index」2018年版は、「ビザなしで渡航できる国」と「到着時発行ビザ」で渡航できる国の比を加味し、更に国連開発計画の人間開発指数(HDI)の評価を加えている。するとシンガポールが1位で、日本は3位グループにランクされる。ちなみに人間開発指数(HDI)の1位はノルウェーで、日本は17位とあまり振るわない。
人の移動はますますグローバル化しつつあり、パスポートは国力を反映すると共に、国籍の国際的価値をも表している。
興味深いのは、必ずしも北朝鮮のパスポートが不便ではないということだ。国交のない日本に48もの領事機能があり、43を超える国にビザなし渡航ができることを知っておきたい。

| 18.06.29

トランスペアレント

コカ・コーラが6月11日に透明なコーク「コカ・コーラクリア」(https://www.cocacola.jp/gateway/product/clear/)を発売。コカ・コーラに続きサントリーも、6月19日に “透明なノンアルコールビール” を売り出した。透明飲料が人気だ。“透明なメロンクリームソーダ” 、“透明なカルピス”、“透明なカフェラテ” 、“透明なミルクティー” など枚挙にいとまがない。
また今年の春夏ファッションでは、透明感を意味する「トランスペアレント」(transparent) な素材やモチーフが流行中だ。デザイナーたちもこぞって透明素材に注目、多くのブランドがPVCポリ塩化ビニルを使ったウェア、バッグ、シューズを続々と商品化している。
メイクも、薄くて軽い「トランスペアレント」な明るい光沢のある下地にファンデーションを薄くつけ、内側から発光するような透明感を演出するのが流行になっているそうだ。
ファッションは時代を映すというが、怪しい情報やフェイクニュースが世界中を飛び交い、透明性が不足している時代だからこそ、社会は逆に「トランスペアレント」な雰囲気を求めるのだろう。
ただし透明飲料躍進の背景には、“ごまかし”という側面も大いにあるらしい。透明性が“ピュア”と“ごまかし”の両極で扱われているのは日本の特徴か?「透明にしちゃえば水と同じ」と、“ごまかし”て飲んでしまう日本社会は、本質的にはブラックなのかもしれない。
それに比べ、今年のアカデミー賞で作品賞候補に上がった「ペンタゴン・ペーパーズ」に描かれたアメリカ社会は、国家最高機密であるニクソン大統領の欺瞞をワシントンポストのオーナーが社運をかけて暴いていき、遂にベトナム戦争から米国を撤退させるという1970年代の実話に基づくストーリー。日本社会にはない、迫力ある三権の独立性と透明性を感じさせる作品だ。
映画の中で、「米国は情報公開法により30年後に歴史の真実を伝えるために、時の政権に不都合な事実も記録し続ける」と語られる。最高機密と言えども公開を前提に正確に記録していく議会の姿勢は感動的ですらある。
整合性のために記録を書き換えてきた日本の政治家や役人に、唐突に透明性を求めるのは無理な話であろう。
元国税庁長官、元財務次官に続いて複数の学校法人理事長などの証言を聞いていると、明らかに黒でも「コカ・コーラクリア」と言い続けることで、いつかは国民を“ごまかせる” と彼らが未だに信じているようで気になるところだ。

| 18.06.22

日本未来年表

昨年6月に発売された講談社現代新書『未来の年表-人口減少日本でこれから起きること』(河合雅司著 http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000210917 )が発売以来43万部を超える大ベストセラーとなり、「新書大賞2018」で2位に輝いたそうだ。エイ出版社編集部からも12月に『驚愕!日本の未来年表』が出版され、売れ行き好調とのことだ。
未来年表の売れ行きは、少子高齢化・人口減少が確実に進んでいる中で、自分の将来に不安を覚える人が多いということを示している。たしかに人口減少と高齢化は日本の経済・社会に深刻な問題を生み出しているが、「人口減少=マイナス成長」と考えるのは早計ではないだろうか?
戦後の日本経済が拡大して行く高度成長期(1955~1970~1990)、GDPの伸びと人口増加はほとんど関係がなかった。経済は年平均10%近く成長したが、人口の伸びはせいぜい1%程度だったのだ。
労働力の増加によって国富が増えたわけではなく、世界をリードする産業を持ったことで、毎年差し引き9%近く「1人当たり所得」が上昇していたのである。
先進国の経済成長は、「1人当たり所得」が指標になる。世界経済を牽引して行く「産業のイノベーション」によって、人口が少なくても「豊かさ」を保つことは可能である。
国の所得はその国が持つ「世界商品」の量によっても決まる。日本が「ものづくり国家」を自認するのであれば、車をはじめとしたプロダクト産業で飛躍的イノベーションを起こさなければ、総人口に占める現在の労働人口が富の総量を決めてしまう。
アメリカの経済力が底堅いのは、移民を受け入れる一方で、自動車産業に早期に見切りをつけ、5強と言われるIT企業の時価総額を世界のトップに押し上げ、シェールオイル開発でサウジアラビアに並ぶ原油輸出国となり、「1人当たり所得」を結果飛躍的に上げていることにつきる。
イギリスの週刊新聞「エコノミスト」は、「日本の高齢者比率は長いあいだ世界最高を維持しており、今なおその比率は高まっている。」と、イノベーション無き日本のものづくり産業構造を皮肉っている。
日本の未来年表に必要なのは、労働力としての移民を受け入れる前に、自国の主要産業が大胆なイノベーションを必要としていると理解することだ。加えてメタンハイドレードをはじめとした国産埋蔵資源を本格的に世界商品にして行こうとする政治的意志力の発揮だろう。
少ない人口で効率よく稼ぐ、言い替えれば、短い労働時間で国富を築く未来戦略を掲げる時だ。

| 18.06.15

五つ星ホテル

英不動産総合コンサルティング会社ナイトフランクによると、五つ星ホテル軒数の都市ランキング(2017年)は以下の通りだ。
1位ロンドン75、2位ドバイ61、3位ニューヨーク59、4位パリ56、5位マイアミ46、6位ロサンゼルス39、7位バンコク33、8位上海33、9位ワシントンD.C.32、10位ローマ32。残念ながら日本の都市はランクインしていないが、新観光立国論のデビッド・アトキンソン氏によると東京には19あるそうだ。
ホテルの格付けには世界基準があると思われがちだが、実は絶対的なルールはなく主観的なものだ。英国、フランス、ギリシャ、インドネシアなど、国によっては政府が格付けシステムを設けているところがあるが、その多くは物理的な施設(客室面積やレストラン数など)を基準にしており、必ずしもサービスの質には適合しない。
しかし、高級ホテルが多くあることはその都市の平均的な宿泊料金を引き上げており、観光が都市の重要産業となる21世紀においては、五つ星ホテルの数は「都市GDP」を表す重要な指標になって来ている。
ドイツのグローバル宿泊ソリューションサービス会社HRSの2018年のレポートでは、五つ星ホテルが最も多いロンドンでホテルの平均宿泊料金は1泊217ドル(約2万3000円)、3位のニューヨークでは1泊306ドル(約3万2000円)と世界最高である。
一方、ナイトフランク社は「都市の現在価値」も発表している(http://www.knightfrank.com/wealthreport/2018/global-wealth/urban-power)。
都市を、富裕層によって創出される「富(富裕層の数)」、「投資」、「生活スタイル」、「未来」に基づいて総合評価するものだ。
それによると、総合評価1位はニューヨーク、2位ロンドン、3位サンフランシスコで、アジアからは6位シンガポール、8位東京、9位香港がランクインしている。因みにパリは7位だが、中国の各都市は大きく順位を落とした。
こうして見ると富裕層の中でも特にハイエンドの誘致が東京(日本)の課題であろう。如何にして彼らに日本に「住んで」貰うのか?ハイエンドの長期滞在と団体客の短期滞在とでは経済効果の違いは明らかだ。そのための入口となる空港・港湾の規制緩和と、アップサイドのある投資プロジェクト(ハイエンドレジデンス等)の誘致は最重要テーマだ。
五つ星ホテル&レジデンスの数は分かり易い指標である。トップランクの国には、日本には殆ど無い五つ星を超えるレベルのアコモデーションが数多く存在することも忘れてはいけない。

| 18.06.08

新元号

天皇の譲位に伴い、「平成」の元号は来年4月30日で終わることが決まっている。一年も前から新元号になる日が決まっているのは、日本の歴史上初めてのことではないだろうか。
元号制定はもともと中国発祥で、紀元前115年頃に前漢の武帝が「皇帝が時間を支配する」として、『建元』という元号を定めたのが始まりだ。
日本書紀には、「天豊財重日足姫天皇の四年を改めて大化元年とす」と記されており、皇極天皇4年(ユリウス暦645年)の孝徳天皇即位のときに日本最初の元号が「大化」となったようだ。中国の律令制度を全面的に取り入れ、“文明国の象徴”として元号を使うようになったとされ、元号イコール国づくりのビジョンだったことが解る。
「大化」から「慶応」まで242回の改元を経て、「明治」に「一世一元」と定められたが、敗戦で一旦元号の法的根拠を失った。その後「元号の存続」を求める動きから1979年に「元号法」が制定され、「平成」がこの法律を根拠に制定された最初の元号となったことは記憶に新しい。
一方中国では1911年に辛亥革命によって清が倒れ、元号は帝王在位による紀年法であり共和制になじまないという理由から逆に元号を廃止し、1912年を中華民国元年とする「民国紀元」が定められている。
最近、中国の検索サイト百度の掲示板には、「漢字圏でいまだに年号を使用しているのは日本だけ」というスレッドが立てられたが、中国が再度元号を採用するとしたら、今年を「近平元年」にしたらどうかという意見も多く寄せられたそうだ。
その理由として、習近平が「中国の夢」をスローガンに首都北京のサブセンター「雄安新区」開発計画を推し進めていること(https://www.jetro.go.jp/biznews/2018/05/047ed86d274a2aef.html)が挙げられている。
「雄安新区」のような世界最先端の都市づくりのビジョンに対して、自国の元号制定の由来から素直に「近平元年」を口にしたのかもしれない。
今回日本の新元号は天皇の譲位により生まれるため、国づくりのビジョンを込めて新元号を考える時間的余裕がある。今の日本には、中国の「雄安新区」のように全く新しい未来都市を造るぐらいの提案が必要ではないだろうか?
改元を一年後に控え、国会は最重要法案審議のために会期の延長を決めた。ここで得た貴重な時間を、IR実施法案(カジノ法案)の是非論だけでなく、それを未来都市創造の可能性のチャンスと捉えてしっかり審議してもらいたい。
新元号制定に際し、「大化」制定の頃の精神に戻り、国づくりのビジョンをしっかりと映し込んで欲しいものだ。

| 18.06.01

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