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芝麻(ゴマ)信用

スマートフォンによるキャッシュレス機能は14億人中国人の生活、社会システムを根底から変えようとしている。単なる通信機能や音楽・ゲーム機能をはるかに超えて、買い物やタクシーの手配、レストランの順番待ち、パーソナルバンキング、ホームレスへの施しに至るまで、今や画面をタップするだけで生活に関わる全てに対応できるようになってきている。
代表的なものが決済機能。アリババの「Alipay(支付宝)」、テンセントの「WeChatPay(微信支付)」で、すでに現金にとって代わったと言っていい。北欧でもキャッシュレスは進んでいるが、北欧4カ国合わせて2000万人と14億人の中国とでは社会的インパクトが違う。
さらに付随機能として、Alipayには「芝麻信用」(https://www.xin.xin/#/home)、WeChatPayには「騰訊信用(テンセント信用)」 (https://wxy.qq.com/mqq/credit/intro/index_v2.shtml)という信用情報管理システムがある。「芝麻」とは中国でゴマ(胡麻)のことで、正に「アリババと40人の盗賊」の「開けゴマ」、呪文を唱えると将来の可能性が開かれるという意味だそうだ。
「芝麻信用」の場合、Alipayでの支払い履歴のほかに個人の学歴や職歴、マイカーや住宅など資産の保有状況、交遊関係などをポイント化している。信用度を350~950点の範囲で格付けして与信や金利優遇などの判断材料にし、本人にも公開している。信用度の指数が上がると受けるメリットが大きいので、「芝麻信用」を競い合うという社会現象が起きているという。
ポイント化は①身分特質(ステイタスや高級品消費など)、②履約能力(過去の支払い履行能力)、③信用歴史(クレジットヒストリー)、④人脈関係(交友関係)、⑤行為偏好(消費面の際立った特徴)に分けて行われる。950~700が「信用極好」、699~650が「信用優秀」、649~600が「信用良好」、599~550が「信用中等」、549~350が「信用較差(やや劣る)」である。
貴州省はいち早く「芝麻信用」と信用情報の利用協定を締結し、「信用度の高い者を支援し、低い者を懲戒する」措置を進めると発表した。
国家の安全保障と個人の自由をトレードオフする中国という国家は、巨大で従順な世界の消費市場として存在することを望むのだろうか?極度にIT化が進んだこの国は、天安門事件での反骨精神も既に失い、監視されることにむしろ安心感があるという従順な国になり下がるのだろうか?
一方、厚労省の役人が中国系企業に個人年金情報の入力を委託するという無防備な愚行がまかり通る日本という国はバカなのか?がしかし、監視されることのない現金決済率8割以上の素晴らしく自由奔放な国、と言えるのかも知れない。

| 18.03.30

超老力

「芸術新潮」3月号で「超老力」が特集されている。日本画家の篠田桃紅104歳、 洋画家の野見山暁治97歳、型染作家の柚木沙弥郎95歳、 絵本作家の安野光雅91歳、アーティスト中谷芙二子84歳、そして横尾忠則81歳・・・
まさにゴールデンエイジを生きる彼らの作品から発せられるパワーは、身体の老化を超えた先に現れる。蓄積された経験と技術、研ぎ澄まされていく色と形、しがらみから解放されて自由にはばたく表現欲には驚かされる。「超老力」には心ゆたかに美しく生きるヒントが宿っているようだ。
赤瀬川原平が、「老人力」という概念を提唱してから早や20年。これは「物忘れが激しくなった」など老化による衰えというマイナス思考を、「かなり老人力がついてきたな」というプラス思考へ転換する逆転の発想だった。
日本は90年代のバブル崩壊から25年間、あらゆる経済成長が止まり、今や年間僅か2%の物価上昇すら難しい国家になった。政府が笛吹けども踊らずというところだ。
しかし物価が四半世紀に亘ってほぼ変わらない社会(http://d.hatena.ne.jp/neriu/20100413/p1)というのは、見方を変えれば「超老力」国家として素晴らしい結果を残しているとも言える。成熟していく中でも物価が上がらない国「日本」は、高い経済成長を支えるために毎日あくせく働く中国、東南アジアの人々から見たら天国だろう。その上綺麗で美味しく安いとくれば何回も来たい国として観光客が増えるのも道理で、日本の「観光立国」は「超老力」が支えているとも言える。
一方我が国を取り巻く国際情勢だが、中国の第13期全人代で、習近平国家主席はより強いリーダーシップを獲得、更なる中国経済の成長を約束し世界経済を下支えすることを議決した。有難いことだ。
アメリカはトランプ政権のもと、その政策はますます内向的かつ保護主義的色彩を強め、安全保障を武器に同盟国を利用して軍事産業で利益を上げようとしている。米国の軍人は、今まで以上に世界各地で働かなければならなくなった。ロシアも同様だ。
日本はG7やG20の中でリーダーになろうとするのをやめ、少し肩の荷を下ろして「超老力」で隠居生活に入ることにしてはどうだろう。まさに今、「東洋のスイス」になるチャンスが到来している。
日本は「超老力」を発揮し、8000万人ぐらいの「適正人口」を基準に、「専守防衛」力では世界最強を目指し、資源開発で「不労所得」を得る努力をする。
求める国家像の価値基準の転換が出来れば、日本の未来は確実に明るい。

| 18.03.23

DNAマッチング

「運命の人」はDNAを解析することで探せるのか? DNA解析を利用したマッチングアプリ「Pheramor」(https://www.pheramor.com/)が、2月に米国で登場して話題を集めている。
DNA(デオキシリボ核酸 deoxyribonucleic acid)とは核酸の一種、地球上の多くの生物において遺伝情報の継承と発現を担う高分子生体物質である。アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)の4種類の塩基の組み合わせからなるポリマーで構成され、全ての生物の遺伝情報は2つと同じものがないことが確認されている。俗に言うゲノム解析とは正にこのポリマー配列の解析に他ならない。
アプリの名「Pheramor」はメスとオスが相手を求めて発散する化学物質“フェロモン(pheromone)”からきており、DNAの解析結果とその人のSNSの履歴をクロス分析して理論的に相性のよい相手を探しだす恋活サービスということらしい。
会員になり最初に19.99ドル払って口腔粘膜検体採取キットを取り寄せ、採取を終えたら遺伝子解析のために送り返す。すると「Pheramor」がこれはと思った相手の「相性度」を、0から100で表示してくれるという。2月にヒューストンからユーザー3000人ほどでスタートしたが、3月にオースティン、そして年内には東海岸まで急速に拡大進出を狙っているらしい。マッチング結果が気になるところだ。
フェロモンが活性化するのは相手の免疫系を判別している状態。相性の良い相手と出会うと脳が自然に答えを出し、『これは今までの人生において嗅いだ最も完璧なフェロモンだ』と判断したりする。「Pheramor」は月10ドルの会費でそれを提供しようとしているのだ。
一方、「誰かに惹かれる」という現象は、社会経済的な要素に、人種、文化、宗教、さらに両親や兄弟との関係性という要素が加わるわけで、単純に生物学的な要素からなる方程式が本当にマッチングに通用するのかという疑問の声も大きい。
そのうち「Pheramor」は「探す代わりに創り出す!」サービスに向かうことになるかもしれない。
究極のSF映画とも言われる「ブレードランナー」最新作「2049」の中に登場する人型レプリカントが、「人間はA-C-G-Tの記号の組み合わせに過ぎない。我々レプリカントの記号は0と1だけだけどね…」と寂しそうに言うシーンがある。
レプリカントとAIとVRを掛け合わせ、どのような仮定も成立させてしまうのが『ブレードランナー』の世界だが、「Pheramor」はそうした仮定も現実になりうる可能性を示唆しているのかもしれない。

| 18.03.16

マサル

ロシアのプーチン大統領が“秋田犬”の大ファンなのはよく知られている。2012年に日本から贈られた秋田犬も、2014年に安倍首相がソチの大統領公邸を訪ねた際、大事に育てられプーチンになついている姿が報道された。名前は日本語で「ゆめ」、大統領自身が名付けたそうだ。
今回ピョンチャン五輪で女子フィギュアスケート金メダルを獲得したアリーナ・ザギトワ選手にも日本から秋田犬が贈呈されることが決まり、再度“秋田犬”とロシアが注目を集めている。贈呈されるのはメスらしいが ザギトワが「マサル」と命名、「勝利」という意味からだという。
ところで「ゆめ」の父親の名は「好古(よしふる)」(http://www.sankei.com/smp/premium/news/161231/prm1612310033-s2.html)。日露戦争で日本の騎兵の父と言われた明治の陸軍大将秋山好古からとった名前、ロシアにとっては宿敵の大将の名だ。
KGB出身のプーチン大統領だが、そんなことは先刻承知の上で「ゆめ」を可愛がっているのだろう。「好古」の子を今度は自分が支配する快感?これも秋田犬が取り持つ日本とロシアの縁なのだろうか。
秋田犬はマタギ犬をベースに大型化され、様々な変貌の後、犬種として確定されて100年ほどしかたっていない。だが、秋田犬保存会の年間登録数(国内)は、ピーク時だった1972年の約4万6000頭から最近では2000頭台まで減少し、本場の大館市でさえ飼育されているのは30頭に満たないほどだそうだ。
国内で姿を消しつつある一方、海外での年間出産頭数はイタリア一国で日本を上回るほど。中国では富裕層を中心に、日本では考えられないほど高額で売買される人気犬種となっているらしい。
今世紀に入り、人だけでなく犬のゲノム解析研究も飛躍的に進み、秋田犬は最もオオカミに近い遺伝子を持つことが分かっている。
日本に朝貢していた渤海国(698年 - 926年)は、かつて満洲から朝鮮半島北部、現ロシアの沿海地方にかけて存在した国家だが、そこでは主に蒙古犬が飼われていたと言う。当然、日本海側の東北地方にも渡って来ていたはずだ。
正倉院の宝物は、天平年間765年光明皇太后の時代には既にペルシャとの交易があったことを示しているが、秋田犬のゲノムも、天皇家が日本に渡って来た6-7世紀に、コーカサスからエフタル、モンゴル、渤海と多くの混血を経ながら日本へ来たことを示している。
今年は戌年。それにしても海外の“秋田犬”人気を、日本人はあまりにも知らない。海外での登録はここ10年間で8倍以上にも増えたそうだ。
日本の価値を一番知らないのは日本人かも知れない。

| 18.03.09

シットホール

楽園ハワイが下水問題に悩んでいるらしい(https://gunosy.com/articles/Rf0ry)。 この記事を読んだ人は、ハワイの汚水処理がこんなに低レベルだったことに愕然としたに違いない。
ハワイには、人間の汚物を処理しないまま地下の穴に埋める「汚水だめ(cesspool)」が8万8000箇所もあるとの報告だ。それらがあふれて地下水に浸み出し、運河や海を汚染し、今や危険領域に達してしまったという。殆どが地下水であるハワイの飲料水の安全性に疑問が生じ、サーフィンやスノーケリングを楽しむ人々が感染症にかかるなどの事例も報告されている。楽園のイメージは台無しだ。
超豪華ホテルコンドミニアム「トランプワイキキ」は大丈夫なのだろうか?トランプ大統領は、地震災害にあったカリブ海のハイチ共和国を「まるでシットホール(肥溜め)のよう...」と称して物議を醸した。しかし、まさかお膝元のハワイで、こちらは本物のシットホールが溢れたとは! シャレにもならない事態だ。
ちなみに先住民の言葉でワイキキの「wai」は水を意味し、「kiki」は湧き出るところを意味する。大統領はその美しい意味を知っているだろうか?
もともと独立国家だったハワイは1898年にアメリカ領となり、1959年にはアメリカ50番目の州となった。それを機に、サトウキビ栽培などの第一次産業の島から「観光」産業の島に変貌した。
しかしアメリカ領になってからの“楽園ハワイ”のイメージは、人為的に作られたものだ。ワイキキビーチは、元は溶岩の黒色だったが、遠くカリフォルニアから白砂を運び、美しいホワイトビーチとして演出された。ビーチ沿いには著名な建築家がデザインした豪華なホテルを建て、本土から豪華客船を定期的に寄港させ、人工の楽園を創り出したのだ。
限られた富裕層向けだったハワイを、太平洋戦争で疲弊した兵士たち向けに大衆的休暇村として売り出すことで、ハワイは再生した。航空機の普及とともにアメリカ本土から観光客が怒濤のように押し寄せ、日本人がそれに続いて、楽園ハワイのイメージは完全に定着した。
片や今、最も脅威にさらされているのは人口僅か2万人の楽園、パラオ共和国だ。押し寄せる中国人観光客に為すすべも無く主導権を奪われ、汚染との戦いが始まっている。
世界中の楽園リゾートにとって、増加する中国人観光客はもろ刃の剣だ。暫し立ち止まってインフラを整備しないと、正にシットホールと化すであろう。
世界人口70億人時代への警鐘か!?日本の汚水処理技術の出番でもある。

| 18.03.02

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