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孤独担当大臣
英国のテリーザ・メイ首相は1月18日、「Minister for Loneliness(孤独担当大臣)」と言うポストを新設し、トレイシー・クラウチ氏を任命したと発表した。英国社会で「孤独」に陥っている人を救うために総合的な対策を講じるという。
赤十字社など13の福祉団体と連携し、昨年約1年間かけて「孤独」に関する調査を進めた結果、英国の人口6560万人のうち900万人(13.7%)以上が常に、もしくはしばしば、孤独に不安を感じているという。赤十字社は孤独と疎外は「隠れた流行病」であり、引退から別離、死別など人生のさまざまな節目ですべての年齢層に影響を与えていると指摘。子供から老人に至るまで、「孤独」が英国の国家経済に与える影響は、年間320億ポンド(約5兆円)に換算できるとしている。
日本でも、国立社会保障人口問題研究所によると2040年には全世帯の39.3%が単身世帯となり、「孤独」が当たり前の社会になっていくのは確実だ。
旧聞に属するが、2005年のOECD (経済協力開発機構)「社会的孤立の状況」によると、日本人で「友人、同僚、その他の人」との交流が「全くない」あるいは「ほとんどない」と回答した人の割合は15.3%にのぼり、20カ国の中で最も高かった。日経新聞を始め大手マスコミはこの調査結果から、「日本は世界に冠たる孤独大国になりつつある」と分析した。が一方では、社会的孤立が進む中日本の社会秩序が乱れていない表れであるというポジティブな分析をした機関(http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/9502.html)もあって興味深い。
現代日本では『孤独のすすめ』や『孤独のグルメ』など「孤独」をポジティブにとらえる風潮もあり、「孤独を過度に恐れるな、受け入れろ」といったメッセージに安心感を覚える人も多い。更に、人間にとって「一人」でいる時間は重要で、他人との関係性に思い煩うことなく思索をめぐらせ、内省することで自分を高められるとする「ぼっち」信仰もあるようだ。
ところが欧米メディアは、世界で最も恐れられている伝染病は「孤独」なのだと言いきる。「孤独は煙草を1日15本吸うのと同じぐらい害になる」、「慢性的な孤独は現代の伝染病」など、「孤独」があらゆる年齢層の人々の健康状態に深刻な影響を与えているという見出しが多い。そうした結果か、英国は孤独担当大臣まで置くに至ったようだ。
OECDの調査は日本を世界一社会的孤独に置かれている国としたが、本当は最も低いとされたオランダや英国こそが孤独に怯えているのかもしれない。
| 18.01.26
Me Too!
1月6日にハリウッドで行われたゴールデングローブ賞授賞式で、黒のドレスを着た女優たちが次から次へとレッドカーペットを歩く光景は一種異様だった。ハリウッドにおけるセクハラと差別に団結して抗議するキャンペーンだという・・・
始まりは、敏腕プロデューサー、ハーヴィー・ワインスタインが、昔から女優たちにセクハラや性的暴行をしていたとの疑惑がニューヨーク・タイムズやニューヨーカーで報道されたことだ。すると「私も彼にセクハラされた」、「私もレイプされた」と声を上げる女性たちが続出し、女優のアリッサ・ミラノが「Me Too!」と声を上げるよう#metoo (https://twitter.com/hashtag/metoo?src=rela)で呼びかけ、ムーブメントとして広がった。しかし殆どが随分昔の話で異論もあったようだ。
騒ぎの発端となったハーヴィー・ワインスタインは、「男女は全く異なる存在で女子は男子より劣る」という男尊女卑の固定観念の中で育てられて思春期に至り、「男が性的な逸脱行為に及んでも構わない、男とはそういうものだ」とセクハラしてしまうタイプだと見られている。
一方この運動に対し、仏女優カトリーヌ・ドヌーブは仏女性作家ら約100人と連名でルモンド紙に公開書簡を発表し、「男性が女性を口説く自由は認められるべきだ」と男性側を擁護。「性暴力は犯罪だが、誰かを口説こうとする行為は、たとえしつこかったとしても犯罪ではない」と微妙な主張で、男性が不当に名誉を傷つけられていると逆抗議。
自分が美女だと自覚するドヌーブだから言えること?だが、彼女はその後性暴力被害者からバッシングを受けて、既に謝罪してしまったらしい。恋愛かセクハラかの境界線は曖昧なままだが、昨年まで殆ど裸同然のような挑発的ドレスで授賞式に登場していた女優が、10年前にセクハラを受けたと言い張ってもピンとこない向きもあるだろう。今年も色は黒だがはだけ過ぎと指摘された女優が何人もいたようだ。
日本の現実は、ストーカーから殺人鬼に変身する事件も起きているので穏やかではない。また某女性議員に、「このハゲー!!」と怒鳴られたおじさん秘書をはじめ、パワハラや逆セクハラで「Me Too!」と声があげたい男性被害者も多いと思われる。
声を上げることは大事だが、この手のキャンペーンは行き過ぎるとそれ自体が暴力になる。
熱帯魚のメスのグッピーが、オスの行き過ぎたセクハラに対して死をもって抵抗する、という次のリンクには考えさせられる。
http://www.afpbb.com/articles/-/2502873?pid=3195307
| 18.01.19
和婚和才
まるで日本人がハワイで式を挙げるように、京都の神社で結婚式を挙げる外国人が増えている。
「日本の伝統文化を体験したい」、「京都旅行の思い出にしたい」といった思いを受けて、ブライダル会社も外国人観光客向けの“和婚体験”の商品化(http://www.kyoto-weddings.jp)に本腰を入れ始めた。
上賀茂神社では年間約800組が結婚式を挙げており、そのうち約100組はカップルのどちらかが外国人だという。インバウンド旅行者が急増していることなどから、神社は昨年10月に婚礼部を新設した。写真撮影や披露宴の会場選び、移動手段の手配など、外国人対応のサービス充実を図っている。こうした動きを加速させようと、京都市は平成27年度から、市内で挙式する外国人カップルに、門川大作市長の署名入り「結婚証明書」を贈る取り組みを実施している。平成27年度以降の約3年間で69組のカップルに証明書を贈ったという。
一方2015年7月にパリで開催されたジャパンエキスポでは、「和婚」をPRする神前スタイルの挙式パフォーマンスが行われた。少子高齢化のなか新たなウエディング顧客をつかむため、ブライダル業界は海外顧客獲得へ動いている。
外国人観光客向け“和婚プラン”の魅力は、従来の着付けと写真撮影だけでなく略式の神前結婚式を挙げられることだ。宗教上の理由で奉告祭ができない人には、別途神社や庭園での写真撮影や人力車での観光をアレンジするなど様々な対応をしている。中でも花嫁行列は大変な人気らしい。
背景には、信仰する宗教を問わず受け入れる神社の寛容さと、神前結婚の歴史の深さがあるという。神社側も「日本の神社はどんな信仰を持つ人でも受け入れるし、ネットの普及はそれを後押ししている」と指摘している。
無節操に見える日本の宗教観が、争いの絶えない現代宗教世界において寛容の精神を持つ本質的な宗教観として、今、世界で注目を集めているのだろう。
昨年12月11日、中国共産党から習近平総書記の意向に沿って「党員幹部がクリスマス・イブやクリスマスの祝賀行事に参加することを厳しく禁止することに関する通知」というお達しが出たという。その「通知」の中に、クリスマス行事に参加することは「精神的なアヘン吸引に相当する」という文章があったそうだ。一党支配による社会秩序を保つために、「中国共産党への信仰」を強制し発揚させるところが、中国の生真面目さと余裕のなさでもある。
外人に「The Japanese don’t believe in something, but do respect for others」と言われる前に、その宗教観の世界稀なる“自由さ”に、日本人はもっと気がついてもいい。
| 18.01.12
富裕層立国
昨年末、日本政府が各種増税案を繰り出す中、米下院はトランプ大統領が公約に掲げた法人税減税を柱とする税制改革法案を賛成224、反対201で可決した。すでに上院も可決しており、大統領が署名すれば約30年ぶりの大規模な税制改革法案が成立する見通しだ。
この原資がどこから来るのか?日本人には興味深い。
焦点の法人税率は2019年に現行の35%から20%へと大幅に引き下げられ、米史上最大級の減税案になると言われている。因みに個人所得税も、最高税率は現行39.6%から38.5%に若干引下げられる。これで主要国では日本とドイツのみが法人税率30%で高止まりすることになる。フランスは向こう5年間で33%から25%に引き下げるとしており、イギリスもすでに19%まで下げている。アジアでは中国が25%、韓国24%、タイ20%、台湾とシンガポールは17%だ。日本は、投資家から見た国際競争で不利になることは必至だ。
しかし日本の本当の課題は、多い人口の割に経済効率が低いことだ。
米国の人口は日本の2.5倍だが、税収は3.5倍、名目GDPは4.1倍だ。ドイツの場合人口は日本の0.65倍だが、歳入は0.92倍、名目GDPは0.76倍である。人口比の税収に注目すると米国は日本の140%、ドイツは141%とかなり効率が良いことになる。この差は税収を支える高額所得者層(富裕層)の厚さの違い、日本は富裕層比率をもっと上げないと対抗できない。
日本は金持ちもいないが貧乏人もいない、世界で最も成功した社会主義国家だと自虐的に称して久しい。しかし突出した金持ち(富裕層)を作れなかったことが、今や実態経済の根幹を支える優秀な中間層にフラットな重税感を与え、国の活力を奪うことに繋がっていないか?
2014年の国税庁調査を元にした資料(https://vdata.nikkei.com/prj2/tax-annualIncome/)によると、年収1000万円以上の給与所得者は全体の4.1%だが所得税負担率は49.1%にも上る。因みに米国では年収10万ドル以上の世帯が20%以上存在し、結果、米国の個人所得税は富裕層がその大半を支払っている。
米国政府が大胆に減税できるのは、その原資を元々11.1%しかない法人所得税(日本は21.4%)には期待せず、全税収の51.7%(日本は31.3%)を叩き出す個人所得税、その中心納税者「富裕層」に焦点を合わせているからだ。トランプ大統領が打ち出の小槌を持っているわけではない。
高齢化による納税人口減少だけを恐れる日本は余りにも後ろ向きだ。7億円の宝くじが23本出たと言って誤魔化している時代はもう終わったと思う。
| 18.01.05