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ハロウィンJAPAN

年を追うごとに盛り上がっていく日本のハロウィンイベントが今年も10月31日にやって来る。本来のハロウィンは、古代ケルト人が1年の収穫に感謝し悪霊を追い出すなどの意味をこめて行っていた収穫祭だ。東京でハロウィンが盛り上がるのは、パリが盆踊りでフィーバーするようなもので、世界ではあり得ない。
日本のハロウィンは仮装行為のみが注目され、本来の収穫祭としてお菓子をもらいに近所を回ることなどは完全に無視されている。つまり日本では「仮装やコスプレをしてみんなでキャーキャー騒ぐ!」お祭りなのだ。
2000年代に入った頃からハロウィンはお祭りとして一気に盛り上り、渋谷のスクランブル交差点は通行できないほどの仮装した人々であふれかえる。それを警察が整然と取り締まり、若者はお祭りの後始末をきちんとやる。これが名物となり、毎年その様子が海外メディアにも取り上げられる。
日本政府観光局の訪日客統計によると、2016年10月のインバウンド数は、過去最高に次ぐ2,135,900人/月となった。これは「10月の観光イベント」としてハロウィンパレードが訪日促進に寄与した結果、まさにSNSによる「観光コト消費」の成果と言えよう。騒ぎの様子がSNSを通じて拡散し、訪日外国人の注目を集めるきっかけとなったのだ。
国土交通省が2016年12月に発表したTwitter の好感度単語ランキングでも「Halloween」は、「Japan」「Tokyo」「Kyoto」に次いで4位になっている。渋谷のスクランブル交差点は今や「日本の今!」を発信するステージだ。しかし今年の「ハロウィン」の推計市場規模は約1305億円と、2016年の約1345億円から3%ほどのダウンになりそうだという。理由は衆議院選挙が22日に行われたためメディアの枠が選挙に取られ、ハロウィン向けの露出が減ったかららしい。
それにしても渋谷駅前は再開発工事がまだ10年以上も続くようだ。毎日朝夕50万人以上の人を交差させながら、それを止めずに工事を続けて行く。この工事管理能力は、日本が世界に誇る天才的技能である。
ハロウィンの次は、「渋谷駅再開発現場」を「驚きの日本!」としてSNS発信してはどうだろうか? リオデジャネイロオリンピック閉会式での、次回開催都市“東京”の紹介映像(https://www.youtube.com/watch?v=sk6uU8gb8PA)は、「渋谷スクランブル交差点」から始まっていた。
世界都市東京の新しい「お祭り広場」として、世界に向けて“希望”を発信したはずだったが、今年10月、「大山鳴動して“緑”の鼠一匹?」とはまさにハロウィンもビックリ!!

| 17.10.27

画狂人

人間の能力はどの様に発揮され進化していくのだろうか?最近、それを考えさせられる対照的な事件?が二つあった。一つは驚愕の絵師、北斎展、もう一つは電通の不適切残業認定判決だ。
ロンドンの大英博物館で、5月25日から8月13日にかけて特別展「Beyond Great Wave」(http://www.britishmuseum.org/whats_on/exhibitions/hokusai.aspx)が開催され、異例なほどの盛況のうちに幕を閉じた。88歳まで絵筆を握った北斎の肉筆画、下絵、版画、版本などの代表作を、日本および大英博物館を含む欧米各国のコレクションから一挙に公開するという大々的なものだった。
1999年にライフ誌が選定した「この1000年で最も重要な功績を残した世界の人物100人」に、日本人でただ一人選ばれたのが葛飾北斎だ。ロンドンの展覧会のタイトルにもなった「The Great Wave」は、北斎が70歳を過ぎてからの作品『冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏』の英語の俗称だ。享年88歳、死を前にした北斎は、「せめてもう10年、いや、あと5年でもいい、生きることができたら、わたしは本当の絵を描くことができるのだが」と嘆いたという。この偉大な絵師は、最後の最後まで描くことにこだわった。
片や社員の残業を管理できなかったとして電通の有罪が確定し、たったの50万円が支払われた事件。北斎は当時のいわゆるポップアーティストで狩野派などの正統派日本画家ではない。版元の刷り師を通じて版画が世に出て行くまで、残業どころか家にも帰れない生活の弟子たちが北斎の作品を支えていたであろうことは容易に想像がつく。超絶した作品、商品を生み出す時、残業などという概念自体全く馴染まなかったに違いない。クリエイターと実業を結ぶ代理店の仕事にも、とうてい残業の概念は馴染まない。
生涯現役という概念は、技術者や企業内クリエイターだけでなく、あらゆる職人、農業漁業従事者、接客・営業道を追求する人の組織化された業態にあっても、本来は追求したいライフスタイルなのではないだろうか?体に変調をきたし止むを得ずリタイアする場合もあるだろうが、人は自分の仕事に誇りを持って全うしたいものだと思う。
受動的作業に従事する人を強制的残業から守ることは必要だが、能動的創造的作業にブレーキをかけるのは大きな国家的損失だ。
日本が再度世界をリードする経済大国になるためには、あらゆる分野で画狂人ならぬ超人的能力を引き出す努力を受け入れる社会が必要である。そこに定年も残業という概念も入り込む余地はないだろう。

| 17.10.20

無意識の日本

2017年のノーベル文学賞に長崎市出身の日系イギリス人、カズオ・イシグロが選ばれた。授賞理由は「心を揺さぶる力を持った小説を通じ、私たちが世界とつながっているという偽りの感覚の下に深淵(the abyss beneath our illusory sense of connection with the world)があることを明らかにした」というものだった。
受賞後イシグロは、「物語の語り方によっては、人種や階級や民族性といったバリアを超えられるはずだと、僕は常に信じてきた」と語った。異なる文化背景を持った人々の間で、どこまで互いの多様性を理解し合えるのか?その為に払わなくてはならない努力とは何か?行間に流れる一貫した理念と意志力、そしてインテリジェンスが評価されたのだと感じる。
彼の作品は当然ながら全て英語で書かれている、しかも相当に端正な英語で。日本を題材にした『遠い山なみの光』などは独自の日本文学英訳へのチャレンジのようであり、最新作『忘れられた巨人』ではわざと「変わった英語」をつくり上げようとしてきたのだそうだ。英語での表現への挑戦を常に考えている姿勢がある。
因みにこれまでのノーベル文学賞受賞作品の執筆は、英語29、フランス語15、ドイツ語13、スペイン語11、スウェーデン語7、ロシア語・イタリア語6、ポーランド語4、デンマーク語・ノルウェー語3、中国語・日本語・ギリシャ語2、と英国及びヨーロッパ圏の言語が多く、またスウェーデン王立アカデミーが選ぶためスカンジナビア圏受賞者が多い。そんな中、中国と日本は健闘していると言えるだろう。
イシグロは、「私は英国育ちだが、物の見方や芸術的な感性はやはり日本が影響している」と語っている。しかし、英メディア(https://www.bbc.com/news/amp/entertainment-arts-41513246)の一連の報道を見ると、イシグロが日本生まれであること、初期の小説で日本あるいは日本人を扱っているという指摘はあるものの、その文学性と「日本」あるいは「日本人」を特に紐付けはしていない。あくまでも「無意識の日本を感じさせる英国人の作家」がノーベル文学賞を受賞した、という認識だ。
グローバル社会でいかなる言語環境においても生き残る日本的精神、或いは日本的なものにこそ日本の真実がある。グローバル化の過程で伝わらなくなるものは絶滅危惧種的文化であることを知る時代が来たということだろう。
無意識の日本を感じさせる英国人カズオ・イシグロがノーベル文学賞を受賞したことは、何度も取れると言って取れない日本人の作家が受賞するより遙かに価値があるのではないだろうか。

| 17.10.13

アラビア書道

艶めかしく流れるようなアラビア文字は、7世紀以降イスラム教の布教のための表現として飛躍的に熟成して来た。コーランを芸術的に美しい文字で書くためのカリグラフィーとしても育まれてきたのだ。
アラビア文字を美しい模様のようにしたためる“アラビア書道”の教室が日本にもある。渋谷のモスク『東京ジャーミィ』で週末開かれているのを知る人は少ないが、熱烈なファンがいるようだ。
ところが逆にアラビア諸国では、アラビア文字は確実に衰退の途を辿っているらしい。グローバル化で英語を喋る人が増え、使用する人々が減少したためらしい。残念なことに非アラブ文化圏において、「恐怖」や「テロリズム」を象徴するものとして認識されてしまったことも原因だ。「ISIS」(イスラム国)はイスラム過激派組織の代名詞となっているが、本来「isis」(イシス)『困っているものに助けを差し伸べる魔法使いの女神』を意味する単語だった。トヨタにも「isis(イーシス)」という名の車があったくらいだ。女神がまさに立ち向かっていた悪そのものを象徴してしまうとは、なんとも皮肉だ。
そうした中、カリグラフィーとしてよく使われるアラビア文字を分解して“レゴブロック”で表現し、まったく新しいイメージをつくる教育アプリ「Let’s Play」(http://ghadawali.com/lets-play)が近々登場することになり注目されている。
「ある国を消滅させる簡単な方法は、その国の言葉を滅ぼしてしまうことだ」と言われるが、言語は単にコミュニケーションの手段ではない。 人々が歩んできた特定の文化や背景を表すものであり人々の感情と繋がっていることを、アプリの発案者は伝えようとしている。
朝鮮半島で李氏朝鮮第4代王の世宗が、朝鮮固有の文字の創製を積極的に推し進めるためには漢字に替わる独自の文字が必要だと考え、ハングル文字が誕生した。北朝鮮は早々と1948年に中国由来の漢字を全廃し、韓国でも1970年には漢字廃止政策が取られ、朝鮮半島は漢字(中国)と言う理解者を失った。北朝鮮の脅威により、今や美しいハングルはアラビア文字と並んでアンチアメリカの記号と化してしまった。
世界における英語の伸張が他の言語の発展を妨げ存在を脅かし、英語圏文化による世界支配の懸念が高まる中、「Let’s Play」の試みはアラビア文字に限らず文字に秘められた文化的背景の理解を促すものとして大いに期待される。

| 17.10.06

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