トランスヒューマン
今年1月に出版された伊佐知美著『移住女子』(新潮社)に共感して、都会の暮らしを捨て「田舎に移住したい」と考える女子が増えている。
書中著者は、家賃が高い、通勤がしんどい、おまけに子育ても大変と、都会から地方へ移住して未来を変えた女性達を取材。岩手、新潟、鳥取、福岡と移住先は違っても、移住のきっかけ、働き方、恋の話など、地域に寄り添い自分らしく暮らす彼女たちに共通点は多く、その素顔に迫り興味深い。
今年1月には東京で2度目を迎える「全国移住女子サミット 2017」(http://inacollege.jp/ijyu-joshi-summit/)が開催された。ごく普通の女性だった彼女たち―都会では貯金と仕事とダイエットが興味の対象だったのに、移住先では考え方が根こそぎ変わり、自分のことを話すのにも『I』ではなく『We』になっているそうだ。「地域の一員として一緒に地域を守っていく」と思い始めているのだろう。
都会人の移住現象について、欧州復興開発銀行初代総裁で欧州の頭脳と言われたエリート、ジャック・アタリ氏は、2006年の著書『21世紀の歴史―未来の人類から見た世界』の中で、「世界はノマド(自由に住み働く場所を変える人)の時代になり、中でも「超ノマド」が経済発展の鍵を握る」と予言している。「超ノマド」とは移住した中心都市の栄枯盛衰に最も敏感なエリートビジネスマン、学者、芸術家、芸能人、スポーツマンなどをさし、現在世界には約1千万人(0.14%)ぐらいが生息するという。だが日本に生息する「超ノマド」は1万人以下、人口比で0.004%しかおらず、世界平均の15分の1以下である。アタリ氏は日本が「超ノマド」の育成や迎え入れが如何に苦手であるかを指摘し、そうした人材を幅広く受け入れることなく東京が世界の中心都市になることはないと断言している。
さらに、「超ノマド」は利己主義や海賊の破壊欲を捨て利他主義者になると共に、21世紀の歴史や同時代の人々の運命に関心をもち、次世代によりよい世界を残そうとする「トランスヒューマン」な感覚を持たなければならないとも説いている。世界市民であり複数の共同体のメンバーでもある「トランスヒューマン」が、世界の主要国の都市で増え続けているにもかかわらず、日本は未だにインバウンド観光客数を増やすことだけで精一杯だ。
観光立国政策でインバウンドを4000万人に増やすのもいいが、トランスヒューマンな「超ノマド」としてのエクスパトリエイト(市民権を取るつもりのない外人居住者)をもう少し増やさない限り、ただ観光収入を増やすだけの卑しい国を脱することはできないだろう。
| 17.03.24